霊の恨み、晴らします。

@jori2

第1話

 2024年の梅雨の朝9時、明南高校1年3組に同じクラスの渡辺美代子の訃報が伝わった。クラスメイトから動揺の声がザワザワとあがったが、幽馬はさほど驚きはしなかった。幽馬には、渡辺美代子の席に彼女の霊が、ぼうっと立っているのが見えたから、訃報を聞く前に渡辺美代子が死んだことに気づいていた。


 午後4時、授業が終わったあと、誰もいなくなった教室で幽馬は渡辺美代子の幽霊に話しかけた。

「何があったんだ」

彼女は何も言わず、ふっと動き出す。彼女は幽馬を案内するように、学校を出た。30分ほどかけて、大川緑地公園にたどり着いた。大川緑地公園は、遠くて滅多に明南高校の生徒が寄り付かない場所だったからだ。彼女は公園の奥まで進んでいき、散歩道から外れて野原の真ん中で、地面に向かって小さく頭を傾けた。幽馬は彼女が向いた方を見る。幽馬が彼女の視線の先を見ると、グラスのひび割れたメガネが落ちていた。彼女のほうを見ると、すでに消えていてどこにもいなかった。あたりを見ると、大きな木があり、根元に備えたばかりの花や缶ジュース、サンリモのシナモンドールの人形が添えられていた。幽馬は思い出した。渡辺美代子の遺体が見つかったのは、大川緑地公園だったことを。


 次の日の朝、幽馬が教室に入ると、渡辺美代子の机に花瓶とシナモンドールのグッズが置かれていた。幽馬は、非現実的な光景を見て、ドラマみたいだな、と思った。幽馬は自分の机に着くと、昨日の緑地公園で拾ったメガネを取り出した。壊れたメガネを見ても何もわからずにいた。じっとメガネを眺めていると、女生徒が幽馬の席のそばまでやってきて、幽馬に声を掛けた。

「それって上村先生のメガネ?」

幽馬は、はっとして女生徒のほうを見た。上村先生とは、担任の男性教師だった。

「これって上村先生のメガネなの?」

女生徒は、うん、と言って話を続けようとしたが、教室の扉がガラガラと開く音が聞こえた。開いた扉の先には、上村先生がいて、いつも着けているメガネが外れていた。

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