誰も読むな
往雪
【 。 】
車窓より
退屈だ、と。何も起こらない電車内に楽しみの一つあるはずもない。
あなたは窓の外の
──どれだけ描写を重ねたところで、その風景は書き表せない。
なぜなら、窓に映るその全てが曖昧なものだからだ。
あなたは夢の中にいることを自覚していた。
目的地は遥か遠くであり、あなたは列車内でも
幸い気分は悪くはない。このまま
そのように、思われた。
刹那、列車が急ブレーキを踏んだ。慣性が身体を引っ張り、あなたは足を踏ん張らせて崩れた体勢を整えようとした。だが、それは叶わなかった。
恰好のつかない格好で列車の床に放り出されたあなたは、何事かと眉を
あなたは車掌に声をかけた。「すみません。……今のは?」と。
車掌はあなたに答えを返さない。ただ震えて前方を注視し、
そこであなたは、車掌の視線の向かう先を二つの目で追った。
そうして、正面の
あなたの心臓が、どくりと一際大きく跳ねた。
同線路上。こちらに真っ直ぐ向かってくるあれは列車だ。こちらと接触する前に止まろうという気配はなく、
かと思えば、車掌がばっと起き上がり、何を思ったか手元のレバーを倒した。
「……はは、はははははははははっ」と声が聞こえる。
あなたは車掌の声かと思ったが、実際のところはそうではない。
後ろだ。いつの間にかあなたの後ろに乗客が立っている。一人じゃない。複数、片手では数えられない。
「あは、はははははははははははははっ」と。
笑っている。笑って、前を指さした。
瞬間、あなたの乗る列車が
あなたは焦り、運転席に飛び込んだ。そしてブレーキレバーらしきものを引いた。しかしレバーは重く、無理に力をいれると、バキッと音を立てて
車掌があなたの顔を覗き込んでくる。「行きましょう? 行き息、域、逝きま、しょう? 行きま、しょう」あなたは声を上げることすらできずに後ろに倒れ込む。
あなたを乗客が囲む。汽笛が再度鳴り響く。
嗚呼、もし夢であるならば。
──覚めてくれと。
◆
あなたは自宅のベッド上で目を覚ました。少しばかりの昼寝のはずが、現在時刻は午後九時を回っていた。あなたの部屋は暗く、電気はついていない。
カーテンを開けて、窓の外。暗闇を見通すようにぼーっと眺める。
そこには廃線となり、もう使われていない線路がある。そのようなものがあるから、あんな悪夢を見たのだ。と、あなたは溜め息を吐く。
そうして、一息ついて。カーテンを閉めた直後。
カーテンの向こう側から、何者かがあなたの部屋を照らした。あまりの眩しさにあなたは目を細める。誰のいたずらだと、再びカーテンに手をかけたその時。
──あなたは、汽笛の音を聞いた。
誰も読むな 往雪 @Yuyk
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