4 護衛隊特殊部隊 隊長

 それから約半年が過ぎようとしていた。


 一行はルエンドと別れてから周辺の七つの国を回り、春を感じさせる季節となった今、帰国のに就いたところだ。

「ひゃっほ――!」


 ヒース達はカレ国を抜け、ブルタニーと国境を接する最後の国、エスパーニ経由で帰国したのだ。

 気分も上がり、自然と馬車の車輪の回転数も上がる。

 王都オルレオンへ戻る途中、自分達のアジトがあるアバロンを通ることになる為、彼らは久しぶりのアジトで一休みするつもりだった。


 ブルタニーはこの近隣諸国では一番の国土の広さを誇っている。

 そのため、彼らも帰国したとはいえ、初めての場所が多い。

 そうこうするうち、アバロンの手前にあるトゥーローズという街に差し掛かった。


 トゥーローズはテラコッタレンガを使った建造物が多い為、街全体が赤っぽいオレンジ色だ。

「綺麗な街ね! あたしここ初めてよ」


 ジェシカだけではない、全員が初めて訪れる街だった。

 川幅が数百メートルもある大きい川に架かった橋をゆっくりと渡る。

 山は特に無く広い平野がどこまでも続き、西の空にオレンジ色に染まりかけた雲の狭間から太陽が差し込むと、街の色と同化して幻想的な表情を見せた。


「なんか、もう帰ってきた気がすんな?」

 ヒースは懐かしそうに目を細めた。


 その時だった。

 橋を渡った先から叫び声が聞こえてきた。

「誰か、誰か助けて――!」

 一人の女性が血相を変えてこちらへ走って来る。


「な、何だ何だ!?」

 ヒースは馬車を急停止した。馬がいななき、ひづめが石畳を叩く。

「ヒース、どうしたの?」

 馬車が突然止まったのでジェシカが幌の隙間から外を覗いた。

 途端、ジェシカに女が話しかけてくる。


「助けてください。もうあの護衛隊員だけでは町は全滅してしまいます!」

 ヒースの目の色が変わった。

「何だって!? 護衛隊が?」


 女が指をさした方向をよく見たが、真っ直ぐ橋を渡った先のたもとから緩やかな下り坂になっているのか、特に異変は見てとれなかった。

 しかしヒースは助けを求めて来た女に一声かけると、皆がどうするか躊躇ちゅうちょしている間にもう御者台から飛び降りていた。


「おい、ヒース!」

 ミツヤも慌てて馬車から飛び降りる。


「ミッチー走るぞ!」

 そう言った時ヒースはコートの裾をなびかせ、もう走り出していた。


「あー、もうあんなとこだ……アラミス、ジェシー、ドク! 僕達先に行ってるから後から馬車で来てくれ!」

 ミツヤはヒースに「斬り込み隊長」という肩書きをつけたことで、それを認めたような形になってしまった事を今更ながら悔やんでいた。

(ったく……毎度毎度、勘弁してくれよぉ)


 そんなミツヤにドクは気持ちよく言葉を返す。

「了解! 気を付けて!」



 ヒースはもう橋の先へ向かって飛び出していた。ミツヤはいつもの《電光石火ライトニング・フラッシュ》を使って、橋のたもとの手前でヒースを追い越して行く。

 ヒースとミツヤがあっと言う間に視界から消えてアラミスは呆れ顔だ。

「毎度の事だがあいつら、何かの罠とか考えないのかよ、なぁドク」


 するとドクは皆より一番付き合いが短い割に、よく解っているような口振りでキッパリと返した。


「ははは、確かに。けどヒースは罠だと知ったら、そこに敵がいると判断して尚のこと真っ直ぐ斬り込んで行く。それをミツヤは絶対に放っておかない、というコンビじゃないか? バランスがとれてるんだろう」


 ドクはキャビンから移動して二人とも居なくなった御車台に乗り込み、手綱を取った。

「……だな!」

 アラミスもドクの隣の御車台に移動した。

 二人の会話を、ジェシカは矢筒を装備しながら頷き聞いていた。


(そうそう、あのバカちん二人、今に始まったことじゃないのよね。あたし達がフォローすればいいだけよ)



 橋のたもとから数百メートル先、通りを挟んで右側には学校があった。

 ミツヤが一番乗りで現れると、見慣れた制服に身を包んだ護衛隊員達が十数体の異形獣まものに追い詰められているのが目に飛び込む。

「この数……! 多すぎんだろ」

 比較的動きの速い二メートル前後の異形獣まもので、二足歩行の爬虫類系タイプ2だ。

 恐ろしく長く鋭い牙と爪で襲ってくる!


「第三隊じゃないですか!? 皆さん、ここを空けてください!」

 ミツヤは制服マントを留める大きなボタン部の「Ⅲ」という数でどこの隊の者達かを判断したようだ。


 第三隊はルエンドが属している隊だ。

 ここから少し先に教会がある。あのエリアから叫び越えがミツヤにまで聞こえてきていた。

 ミツヤの脳裏に嫌な予感が過る――。

(あっちの異形獣まものの数も多くなければいいが……)


 ミツヤは討伐にあたり護衛隊を巻き込まないよう、この場の護衛隊員に注意を促したつもりだったが、帰ってきた返答は、

「な、何だ君は! 子供は危ないから隠れていなさい!」

 という言葉だった。

 護衛隊員はミツヤをどこかの子供と勘違いしているようだ。


「はいはい、またですか」


 ミツヤは相手が護衛隊の隊員だった為か、今日はいつもの「子供スイッチ」は入らず、こめかみにしわを寄せるに留まった。

 黄色い光をまとい、タイプ2の振り下ろされた爪をバック転でかわす。

 口を大きく開けて牙を剥き出しにしてきたところに、軽くジャンプして電撃回し蹴りを見舞った。

 まずはタイプ2一体を軽く仕留めてしまう。


「お、おいあの少年、まさか」

 そこに十数秒遅れでヒースが追いついた。


「ミッチー、俺はあっちの教会に行ってるぜ。どうも様子がおかしい」

 ヒースは通常の異形獣まものの気配がしない代わりに、やたら人が騒ぎ立てている声が聞こえたので嫌な予感がしていたのだ。

「気を付けろよ! あとここにいる護衛隊は第三隊だ、急いでくれ!」


 ヒースが通りを走り去る時になって護衛隊員が気付いたようだ。

「あのオレンジ色の髪と黒いコートの少年、『火焔かえんのヒース』……じゃないか?」

「じゃぁ、そこの黒髪の少年も『疾風迅雷しっぷうじんらいのミツヤ』……? まさか特殊部隊の?」

「きっとそうだ、去年国王から勲章授与されて護衛隊の特殊部隊として任命されたって聞いたことがある。けど今はまだ自警団扱いで外国に遠征に行ってるって……」


 護衛隊員達が通りの脇に寄って口々に噂をしているところに、ミツヤの渾身こんしんの雷玉が地上五メートル上空から真ん中に落とされた。


「食らえ、雷光弾サンダーショット――!」


 バチバチッという音が辺り一帯にとどろく。

 その周辺にいた十数体の異形獣まもの痙攣けいれんを起こして動きを止めてしまった。

 そしてミツヤが上空から黒いジッパージャケットをなびかせ赤いスニーカーで着地すると、同じタイミングで全ての異形獣まものが地響きを上げて倒れたのだ。

 その一部始終を見た護衛隊員達が叫ぶ。


「やっぱりそうだ! 彼ら『青い疾風ブルーゲイル』だ!」


 ミツヤのいた学校付近の更に一キロ先、通りを挟んで左側には商店が並んでいる。

 ヒースは商店街の反対側にある教会までやって来た。

 教会の扉の前ではまだ動ける護衛隊員達が四、五人固まっているようだ。

 恐らく身をていして中の信者達を守っていたのだろう、既に何名もの負傷した隊員が扉の前で倒れている。


 その隊員達を追い詰めていのは、たった四人の異形獣まものだった。

 だが耳が尖り、口から出た牙や両手の爪が数センチ長く鋭く伸びている他は特に異形獣まものの形相ではなかった。

 彼らはマージや八神と同じ、ヒューマンタイプの異形獣まものだったのだ。

 服装も一人はカーキ色のジャケットに黒いパンツ姿だ、パッと見ただけですぐに異形獣まものと分かりにくい程だ。


「ヒーッヒッヒッヒッ――――ッ! いいねぇ、キレイな顔しちゃって――。殺すには勿体ないいい女じゃねぇか。女伊達おんなだてらにどっかの隊員か? でもこれでお終いだ。ダイナマイトは俺達には効かないし、もう尽きたんだろ?」

 カーキ色のジャケットを着た男が舌なめずりをする。


「みんな! 最後まで諦めないで!」


 懸命に教会の前でカーキジャケットの敵を迎え撃っていたのは、やはりルエンドだった。

 姿勢を低くし、剣を体の中心に構えて仲間を鼓舞していた。

 だが、あちこち爪の攻撃を受けたようで紺のマントも切り裂かれている。

 ダイナマイトくらいじゃビクともしないところはやはり今までの異形獣まものではない。

 他の隊員も皆、腕や足から出血し満身創痍まんしんそういだ。


「ディエゴ! あおってねぇで、さっさとその女もろ共っちまえよ!」

 そう言って仲間をかしたのは、ルエンドの右横にいる二人目の敵だ。グレーのフード付きトレーナと黒いパンツに身を包んでいる。

 ディエゴは爛々らんらんと赤く光る眼を吊り上げて、フードの男に睨みを利かせた。

「うっせぇなエミリオ、オレに指図すんなって言ってんだろ!?」


 口から鋭い牙が突出し、両手の長い爪以外はやはり人間と見た目は指して変わらない。ただ今までの異形獣まものと大きく違うのは、捕食のためではなく、明らかにたわむれで襲っていることだった。


 エミリオと呼ばれたフードの男も、護衛隊員の胴に長い爪で串刺しにして上に掲げており、その肘からは血が滴って石畳の上に血だまりが出来ていた。


 また、教会の扉の前で他の護衛隊員に馬乗りになり、もう意識もない隊員の腹に長い爪を突き刺している三人目の敵は、チェック柄のシャツを着た細身の男だ。

 牙と爪を隠せばどこにでもいる町人に見える。

 彼も、ルエンドを前に嬉々ききとしているディエゴを急かした。


「けどよ、エミリオの言うとおりだ。ったくつまらねぇ。この国はどういう訳か皆武器すら持ってねぇし、剣持ってるこいつらでさえこのザマだ。さっさと皆殺しにして他へ行こうぜ」

「まぁ待てよホセ。こいつら一応剣持って制服着てんだ。そこら辺の街モブより、ちったあ楽しませてくれそうじゃねぇか? もう少し遊んでやろうぜ!」

 そう言って不気味な薄笑いを浮かべているディエゴに、ルエンドは果敢に剣を握りしめて向かって行く。


「あんた達の好きにはさせない!」


 男の鋭い爪を剣で横に振り払い、すぐに返して斜め左に渾身こんしんの力で振り下ろした。

 が、全く刃が入らない。

(いったいどうなってんのよ、硬すぎでしょ……! このままじゃ、ホントに全滅しちゃう……)

 見た目は人間と指して変わらなくとも、やはり体は異形獣まものの装甲なのだ。


「ヒャヒャヒャヒャ――――ッ! 元ドナム系のイントルだったオレ達をそこら辺の異形獣まものと一緒にしてんじゃねぇ! お前らの出来ることはもうねぇんだよ!」


 恐怖の色を浮かべたルエンドと目を合わせたディエゴは、自分に向けられた彼女のブロードソードの刃を握った。


「いいねぇ、その顔。そそるぜ……」


 大きな口を開いて牙をのぞかせ笑うと、口が顔の両端まで裂ける。

 ディエゴが反対の手を伸ばしてきた。

 鋭く光る爪がルエンドの顔に襲いかかり、彼女の顔は恐怖で歪む……!

「……!」


 その時だ、目の前でオレンジ色の閃光がジグザグに走った刹那、ディエゴの両手首が吹き飛んだのだ。


 黒いロングコートの裾が彼女の目の前にふわりと踊り、目の前に、よく知ってる仲間の背中が降り立った……!

 ディエゴが叫び声を上げて石畳に転がりまわる。

 ロングコートの少年が後ろを振り返ると、彼女の目は既に潤んでいた。


「あーあ、この世の終わりみたいな顔しちゃって。待たせて悪かったな」


 ヒースは別段困った状況でも何でもないと言った風にニコリと笑って見せた。


「ヒース! なんでここに……!?」

 構えた炎斬刀えんざんとうには炎が剣先を超えて燃え上がっている。


「コイツら相手に今までよく踏ん張ったぜ。後は俺達に任せろ」


 ヒースの手首にはもう、銀のブレスレットはない。リミッターをつけたまま長年耐えてきた成果が出ていたのだ。この国でヒューマンタイプと対等に立ち向かえるものは護衛隊三鬼神と「青い疾風ブルーゲイル」以外いない。

 もっともそれはそれで問題ではあるのだが――。


「誰だ、テメェ?」

 ヒースはチェックシャツのホセを睨みつけた。

「これだけの事をしたんだ、覚悟は出来てんだろうな!?」


 その言葉でホセはヒースに狂気の視線を送り、馬乗りになった護衛隊の腹から爪を引き抜いた。

 すると途端に血が噴き出す。

「ゲネべで村人全員った時を思い出すぜ、こうなりゃぁ暴れてやろうぜ!」

(ゲネべの村だと……?)

 ヒースとミツヤはすぐに気付いた。

 八神が巻き込まれた惨殺事件の真犯人だ――!


 そこに銃声が二度響き渡る。


 ホセは背中を丸めて両手を抱え、のたうち回って立つこともできない。

「いっ! 痛てぇ――ッ! なんだこの弾丸!」

 ルエンド達護衛隊が銃声の方向を見上げたが、何も見えない。


 通りを挟んで五軒先の建物の屋根の上に、うつ伏せの状態でマスケット銃を構えている黒スーツの男。

 彼は引き金から指を離すと、満面の笑みで屋根の上に立ち上がった。

 銃口から煙が出ている。


「ルエンドちゃん危ないとこだった、間に合ってよかったよ――ッ!」

 声がルエンドまで届いていたかどうかは不明だが、ブロンドの髪とスーツの裾が風にあおられているのがギリギリ目視できた。


「アラミス!」

 ルエンドの声でようやく豆粒大の人影が視界に入り、まだ動ける護衛隊員達は口々に叫ぶ。


「あんな遠くから狙撃だと……? なんて腕をしてるんだ!」


「くっそ……エミリオ! まずこの生意気な剣士からぶち殺すぞ!」

 フードの男は、左手で護衛隊の隊員の胸ぐらを掴み右手の長い爪を喉に当てていたが、隊員を地面に放り投げると、体が白っぽく光り始めた。


「アロンソ、お前は空から来い! おれはコイツで殺る!」


 アロンソと呼ばれたボーダーTシャツの男も体が白く光り出した。

 すると背中からTシャツを破って蝙蝠こうもりのような皮膜の翼が覗く――翼を広げると七、八メートルはあるか。初めてみるヒューマンタイプの飛行型った。


 一方、グレーフードのエミリオは周囲の水蒸気を集め、手から鋭く尖った氷を形成していった。

 恐らく触れるもの全てを凍らせることが出来るドナムを持っているようだ。


 皆が驚きの形相で見つめる中、アロンソは高く舞い上がると狙いを定め、両手から鋭い爪を前に突き出して旋回しながら急降下してくる!

 ところがヒースは動じることなく教会の隅に目をやっていた。任せられる仲間がいるからだ。


 ヒースの頭上五メートルのところでアロンソは翼に矢を三本貫かれて悲鳴を上げながら落下し、石畳に体を打ち付けられて動かなくなった。


「ジェシー!?」

 ルエンドが振り返ると、教会の扉の前でジェシカがクロスボウを持って立っていた。

 弓矢の矢尻は銀製だ。


「久しぶりぃ! ルエ姉復帰おめでとう! 意外に早かったね!」

 両サイドで留めた水色の長い髪と黒いギンガムチェックのスカートの裾が風に踊っている。


「アロンソ! くそっ、たかが小娘に!」

 氷の剣を両手に形成したエミリオがジェシカに向かって走る!

「ジェシー!」

 叫ぶルエンドの声にも動揺せずジェシカは平然としていた。仲間の力を信じているからだ。


「仲間に手ぇ出すな! 雷霆爆弾・壊サンダー・ブレイク――!」


 ミツヤ考案の、対ヒューマンタイプ異形獣用に改良された新型の技だ。バリバリッと空気を切り裂くような音が耳をつんざき、エミリオの頭上で電光がスパークする……!

 ヒースの隣に、黒いジッパージャケットを翻しながら赤いスニーカーが着地すると、エミリオは声も出せずそのまま石畳の上に倒れた。

「ミッチー!」

 ルエンドは口元に手を当てて声を上げた。


「お前、カッコつけ過ぎじゃねぇの?」

 ヒースが横目で見てひがんでいる。


 ルエンドの周りで怯えていたほかの五人の護衛隊員の一人が四人を見ていて正体に気付いたようだ。

「黒づくめの衣装に炎の刀、マスケット銃のスナイパー、それにクロスボウの少女に雷の少年……まさか 『青い疾風ブルーゲイル』!?」

「ええ? あの護衛隊に新設された特殊戦闘要員の?」

「そうだ、去年の夏に国王陛下の解放に一役買っただよ!」


「最後の『無免許自警団』ってのは要らないな」

 そう言ってドクが黒いスーツの上着を風になびかせてやって来ると、すぐに重症を負った護衛隊員達の救助を始めた。


「な、なぁ本当にありがとう、もうダメかと思った……! 君達「青い疾風ブルーゲイル」だろ? じゃぁ君は『火焔のヒース』!?」

 護衛隊員の一人がヒースにお礼の言葉をかける。


「おおっ!! なんだそれ!? ついに俺に二つ名が付いたのかよ――! やべ、マジ嬉しい!!」


 浮かれるヒースにジェシカが横目でチラリと睨みをきかせた。

「ヒース……?」

 アラミスも面白くないといった表情で睨んでいる。


「あ、ああ。俺は護衛隊、特殊部隊の隊長ヒースだ、よろしくな!」

 ヒースは少し照れながら、それでも堂々と名乗った。

「うちの斬り込み隊長だ。突っ走る癖あるけど頼りになるんだ」

 ミツヤは、今までになく頼りになれそうな風貌のヒースを見て、肩書をつけた後悔を棚上げで補足した。


 ジェシカが突っ立ったまま固まっていたので、アラミスが心配で声をかける。

「ジェシーちゃん?」

「あ、ああ大丈夫よ。ヒースが初めて隊長っぽく見えたから、成長したなって……」

「母親かッ!」

 ヒースが手の甲を立てて一打、ツッコミを入れた。


「ヒース隊長、助かりました。正直もうダメかと」

 その隊員は安心して床に膝をついてへたりこんでしまった。

「おい、大丈夫か? そこのドクのとこで診てもらえよ」

「しっかりしてください。クロードが抜けて今は踏ん張り時なんですから」

 ルエンドがピシャリと言った。

 彼女は今、副隊長だった。


「そいうやルエンド、ここで何してたんだ? 隊長は?」

「クロード元隊長は総隊長に就任したの。 今はダニー隊長が別動隊と他の街へ行ってる」

「そうだったのか。しかし懐かしいな、たった半年ほど離れてただけなのにな」

 ヒース達はルエンドにこの街に現れたヒューマンタイプの異形獣まものがまだ他国から侵入する可能性があることを伝えると、積もる話は後にして一旦その場を後にした。


 そして、アバロンのアジトに戻り翌日早々、護衛隊本部駐屯所へ顔を出した一行は、会議室内にちょっとしたを巻き起こすことになるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る