13 この魂だけは奪わせねぇ!

 ブランデルとの国境は既に異形獣まもので覆いつくされたようになっていた。


「目をつぶって撃っても満遍まんべんなく当たるくらいの量だな」


 身震いしながら呟いたアラミスは、それでも確実に狙いを定めて引き金を引く。

 彼は木の陰に潜み、一発で倒せる大きさの異形獣まものを選び、首の辺りを狙って一体ずつ効率よく倒していた。


「お、ジェシーちゃん! なんだ、矢をいっぺんに三本も持って欲張りだなぁ」


 アラミスの目線の先で、ジェシカが木の上に上がっている。


(ルエ姉、全部片付くまでちょっと待っててよ。独りだったあたしを助けてくれた、その恩を返す番だから)


 ジェシカは六百体の異形獣まものを皆と力を合わせ全て仕留め、自分の国だけでなくルエンドの国も守りきると決意していた。最近ようやく完成した技だ。クロスボウに一度に三本、矢をつがえる。

 しかしそこに異形獣まものが背後から飛来してきた……!


「そこは俺に任せろ!」


 アラミスがジェシカの後ろに飛んで来た翼竜系タイプ2を銃で撃ち抜く。

 ジェシカは背後のタイプ2など気に留めず、地上にいる三体の獣系タイプ3へ矢を三本同時に放った。なんと、それぞれが三体の異形獣まものの目を貫いたのだ。正真正銘、三矢同時の必中技だった。


 彼女はアラミスは信用していた。もう、自分の背後を心配せずとも、前にだけ集中できる。仲間を信じることで「三矢同時の必中技」も成功率が上がるのだ。


「アラミス! 助かった!」

 ジェシカは後ろのアラミスに振り返り、親指をたてる。


「俺冥利みょうりに尽きるぜー!」

 ジェシカの笑顔がアラミスのエネルギーチャージとなっていた。


「ふふ、どんどんいくよ!」


 ジェシカは見える範囲全ての異形獣まものに命中させていく。矢が尽きると倒れた異形獣まものから矢を引き抜いてでも攻撃を止めなかった。


 ◇ ◇ ◇


 一方、国境を越えてブランデル国へ入った最前線では、クロードの風を呼ぶ剣の技が炸裂さくれつしていた。

 一体ずつ切り裂きながら、瞬く間に前へ進んでいく。その軌跡には横倒れになった異形獣まものが次々と転がっていった。


 クロードの後ろからは、第三隊の隊員達が剣を振るい、横に広がりながら視界に入る全ての異形獣まものを倒していった。


「イントルーダーの彼らに負けてはいられませんね」


 後方を振り返って部下に発破はっぱを掛けたクロードの二百メートル前方では、全員白っぽい光に包まれたストーム一味が、それぞれのドナムを発揮して思う存分暴れている。


「モリー! こっちも頼む!」


「了解! 『地球引力アースグラビティ』――ッ!」


 仲間に援護を頼まれた重力使いのモリーは、両手から出る白い光で異形獣まものの体を包み上空へ上げた後、重力を加えて地面に叩きつける。

 また、ハリスは黙々と作業をこなすかのように異形獣まものへ石を拾っては投げていた。その石はハリスの手から離れた途端に加速を増して軌道上で消えた後、周囲の異形獣まものを確実にとらえる。ただの石ころはハリスにかかれば銃弾と化すのだ。


「お前ら、ジャックに言われただろ――! 異形獣まものは生かしたままにしとけよ――!」


 仲間全員に釘を刺したのは「ストーム」のリーダー、ジェイクだ。


「つか、それに関しては俺が一番気を付けねぇといけねぇがな」


 そう呟いてニヤリとすると、全身から刃物が音もなくスルスルと現れ、肉食恐竜に似た爬虫類系タイプ2へと突っ込んでいった。至近距離で回転技をかけると、全身から突き出た数十センチの剣が刃の嵐となってタイプ2の体を削り取る。緑色の血を撒き散らし、タイプ2は断末魔の叫びを上げながら地に崩れ落ちた。


 ふと、ジェイクは熊のような形態の獣系タイプ3が一体、ジャックの背後を狙っているのに気付く。


「おいおい隊長さんよ」


 どうやらジャックは前だけに集中しているようだ。大剣を握り、腰を低くして数体横並びになった蜘蛛のような形態の昆虫系タイプ4の足元に、左から右へ水平斬りを放っている。

 タイプ4は次々と脚を切り落とされ、横倒しになったタイプ4が地面に転がっていく。それを見たジェイクは、前しか見ていないと決めてかかっていた。


 目標ジャックまでわずか10メートル。


 最初の出会いはともあれ、自分達にチャンスをくれて仲間全員をバスティールから出してくれたジャックだ。ジェイクは助けようとジャックの背後にいる熊似のタイプ3まで駆け寄り、両腕からサーベルを滑らかに伸ばした。


「『処刑台のジャック』も後ろを取られちゃあな」


 と、わざわざ一言格好つけて。


 するとジャックは左手で握った大剣を前に突き出し、右手の平は胸の前で拳を握る動きをとる。


背転ビハインド!」


 号令が響いた瞬間、左手に握っていたはずの大剣が忽然こつぜんと消えた――!

 と、ジャックの背後にいたタイプ3の胴体を190センチもの大剣が胸から背へと貫通し、刃先はジェイクの目の前、わずか数十センチの距離で止まった。


「ひぇ――っ、剣が勝手に! 背中に目ぇついてんのか!?」


 あと一歩で、助けに入ろうとしたジェイクまでが大剣の犠牲になるところだったのだ。


「調子付いて出過ぎた真似してると命はないぞ」


 倒れたタイプ3の体から大剣を抜くと、緑の血飛沫ちしぶきがジェイクに飛び散る。しかしジャックは気にも留めず、そのままジェイクの正面に向き、大剣を横向きに構えた。


「ええ――! もうしません!」


 そう言って慌てるジェイクを横目に、ジャックは大剣に再び号令をかける。


旋回乱舞ローテーション……!」


 すると大剣は生きているかのように自分で宙を舞い、瞬きする間もなく二人を中心に一周したのだ。その間わずか二秒弱。


 剣は高速で自走し、周囲にいた異形獣まもの全ての腹部を切り裂きながら瞬時に数十体を倒してしまった。

 ジャックは一周して目の前に戻った大剣のグリップを迷いなく掴むと、ジェイクに指をさして一言、注意喚起かんきする。


他人ひとの事に構う前にまず、自分の担当エリアをきちんと終わらせるんだな」


 目はギラつきながらもニヤリと笑うジャックを前に、ジェイクは身震いする思いだった。


(こ、この男、この状況で余裕過ぎんだろ……!)


 ◇ ◇ ◇


 またその頃、一足先に国境付近へと飛び出したミツヤは……。


(すげっ、あいつヤバイぞ……! ヒース、あんな奴にやられたのか)


 ジャックの攻撃の一部始終を遠目に見ていたミツヤが木の陰で冷や汗を流していた。


「て言ってる場合じゃない。なんたって、六百だ。やり方考えないと体力持たないな」


 今、ミツヤは今までの雷系の攻撃では対象範囲が限られると判断し、以前アラミスに提案された新しい技を初めて実戦で試すことにしていた。


 固体、液体、気体に続く第四の物質――。


 それは非常に高温の状態であり、電子とイオンが自由に動くため電気を通しやすいのが特徴で、雷のように見えるがもっと強力で多様な攻撃が可能となる。


 ミツヤの脳裏でアラミスの言葉がよみがえっていた――。




 それはある日の午後、ヒースがジェシカの依頼で街へ買い出しに行っていた時の事だ。アラミスは、ミツヤ達男子部屋で以前から伝えたくてウズウズしていた、彼のドナムの技についてアドバイスをしていた。


『いいか、ミッチー。あまり知られてないが雷は強力な電磁気エネルギーを持ってはいても持続時間は短い。それに比べ、エネルギー密度が高く、しかも比較的長時間存続させられる物質もあるんだ』


『……はぁー?』


『今度、お前の稲妻攻撃に静電気のエネルギーを加わえてみろ』


『あ、それ……もしかして……プラズマのことかな? 中三の時に塾で聞いたことある』


『お前の世界ではそう呼ぶのか?』




(……要するに、これのことだろ?)


 初めての挑戦の割には意外にもミツヤの目には自信が満ちていた。

 広い場所まで移動して手の平に光り輝く球体を形成する。その中で電流が激しく渦巻き始めたのが、目には見えずともミツヤには感じ取れた。


「おおっ、いける! 見てろ!」


 ミツヤは膝を深く曲げると、助走もなしで数メートル高く飛んだ。


「この技で一気に仕留めてやるっ、雷光弾プラズマボール――ッ!」


 周囲の空気を電離させて作り出したそのギラつくエネルギー弾を、数メートル上空から異形獣まものの群れの中心あたりに向け、強烈なスパイクで落とした。

 耳をつんざく音と共に風圧が辺り一帯を覆い尽くす……!


 ギュオオオォォォォ――――――ッ!!


 爆発的な破壊力を持つプラズマの球が異形獣まものを一度に数十体倒したのだ!


「今のは、まさか……!」


 遠方で戦闘中のジャックにもその衝撃が届いていた。


 四つ足獣系タイプ3の背に乗り、突き刺した大剣を抜くとその背に立ち、すぐ隣にいたもう一体の頭部に回し蹴りをお見舞いして着地する。

 足を止めて振り返ったジャックの脳裏にはミツヤの顔が浮かんでいた。


「気付いたかあの少年。いや、違うな。能力を最大限に引き出す……恐らくチームに並外れたブレインがいる」


 ジャックは一瞬ふらりとし――右脚を踏み込み、体を支えた。


「ハハッ……眩暈めまいだと……?」


 口に入りかけた血を舐めた。耳と鼻からは血が流れていた――。


 ◇ ◇ ◇


 その光と音は数百メートルも離れたヒースの元へも届いていた。


「あいつ、何やりやがった?! こりゃぁ負けてられねぇぜ」


 ヒースは国境を越えてブランデル国領にいた。


 ブランデル国はまだ異形獣六百体がゲネベから放たれたことは知らない。衛兵が出て来ていないということが、逆にヒースの攻撃の妨げにならず思い切りドナムを使える点で吉と出ていた。


 ちょうどヒースのいる一帯は木々が点々とし、開けた場所だ。その分、今まで見たこともない数の異形獣まものが覆いつくしているのがすぐに視界に飛び込んで来る。

 辺りには、うめき声ともとれる二足歩行の獣系タイプ3の声と、その匂いが充満していた。


「げぇっ、すげぇ数だ。トージのヤツ、よくもまぁこんなに集めやがったな」


 口をへの字に曲げ、すぐに炎斬刀えんざんとうを地面に突き刺すと、チカラを混入する。


「さっさとくたばれよ! 火焔爆裂ブレイズブラスター――ッ!」


 地中に炎の爆発が連続して発生し、辺り一帯には爆音がとどろく。

 周囲のタイプ3は一度に数十体も手足を吹き飛ばされて倒れていった。


「見たかよ、俺の本来のドナム。これでも異形獣まものを生かしておくために加減したんだぜ」


 と、独り言を言ったが、誰も聞いていない。


「おっと……」


 微かな眩暈めまいに襲われた。


 鼻から一筋、血が流れる――。


 ◇ ◇ ◇


 その日、自警団四名とイントルーダーチーム20名、護衛隊隊員総勢百十五人が国境一体を暴れ回った。


 トージから当初その数を耳にした一同は呆然としていたが、それでも日が暮れる頃にはもうあれ程いた異形獣まものは沈黙しており、森もようやく本来の静けさを取り戻しつつあった。


 一体を沈黙させるのに、例えば護衛隊の隊員や手練れの自警団の平均レベル、ランクCだと二人がかりの重労働のはずだ。

 一日で六百体を殲滅せんめつというのは前代未聞の数字だが、護衛隊の中でも選りすぐりの隊員達とイントルーダー達の力が大きかった。


 ところが、今頃になって数名のイントルーダー達に異変が起きていたのだ。


「やべぇな。なんだ、体が動かない……」


 ヒースは鼻と耳からも血を流し、言う事を利かなくなった重い体を引きずるように集合時点へ移動しようとしていた。


 ミツヤの方は既に体から発する光を失っており、草むらにしゃがみ込んでその場で動かなくなっていた。


「ダメだ、体が痛い。頭も割れそうだ……。おかしいな、異形獣まものからの攻撃は受けていないのに。ヒースは大丈夫だろうか」


 一方その頃、異形獣まものを探しても見当たらなくなり、やることが無くなったと感じたストーム一味は全員集合地点に戻ってきていた。

 そこには、クロード率いる第三隊の隊員とヴァレリー率いる第六隊の隊員達が集まっており、負傷者が順にドクの治療を受けていた。


 また、ストーム一味の数名とヴァレリー隊のイントルーダ一が、明らかに異形獣まものからの襲撃でない出血でぐったりしていた。

 そんな中、「ストーム」のリーダーであるジェイクはヴァレリーを見つける。彼女はゆっくり歩いてくると、手に装備していたナックルを外す。その歩き方、身のこなしまで優雅だ。ジェイクはここぞとばかりに彼女に話しかけた。


「ああ、ヴァレリー隊長さん。俺達もう異形獣まものを見なくなったんですが、やっと終わりですかね?」


「そうだな、恐らくは皆が戻り次第、帰れそうだ。こんなに早く片が付いたのも君達の協力のお陰だ。ありがとう」


「いやぁー、参ったなぁ」


 ジェイクは後頭部に手を持っていき、髪を撫でまわしている。


(マジ参った。この隊長さんもまた凍りつく程の美女じゃねぇか、護衛隊の女はどうなってやがんだ。勿体ねぇ)


 ねぎらいの言葉より、声をかけたヴァレリーに参ったようだ。


 彼らが話していると、そこにウォーカー率いる第一隊が戻ってきた。

 特に怪我人がいないのは精鋭チームならではだった。ウォーカーはクロードを見るなり、


「なんだなんだ、もう戻ってたのか?」


 と、目を細めてニヤリとする。

 ウォーカーの有り余るスタミナに、クロードは肩をすくめて見せた。


「え、まだやれると? しかもあの死闘の後で? 相変わらず人間離れした体力ですね」


 そこに第四隊のサバランがニールを肩車して戻って来た為、集合場所はにわかに騒然とし始めた。


「ドク! こっちも頼む!」


「どうしたんだ、ニールが? 珍しいな」


 クロードは眉をひそめてサバランの方へと走り寄る。

 第四隊は第一隊に引き続き精鋭揃いだが、またしてもイントルーダー隊員の鼻や耳からの出血だ。クロードは、ニールが第四隊に就任してからの仕事振りを聞いていたので、驚愕の表情を見せる。サバランに呼ばれ、ドクは慌ててニールの元へやって来た。


「すみません、こちらへ運んで下さい」


 するとドクはニールの鼻や耳からの出血を見て、何かに気付いたようだ。


「ルエンドさん! あの二人。ヒースとミツヤ、そうだジャック隊長もまだ戻ってないようだが大急ぎで探しに行ってくれないか?」


「どういうこと?」


 ドクの声色こわいろが、心配症のルエンドの顔色を一変させる。そこにようやくアラミスとジェシカが戻って来た。二人はなんとか無事のようだ。


「あれー、みなさんお揃いで」


 アラミスが素っ頓狂すっとんきょうな声で言ったが、すぐに皆の表情が硬いことに気付く。


「おい、ヒースとミッチーは?」

「アラミス、無事でよかったわ。今から探しに行こうとしていたの」

「ルエ姉、何かあった? あたしも行くよ」


 ドクが仲間にドナム保有者の状況を説明した。


「どうもイントルーダーの体に異変が起きているようなんだ。恐らくだが、丸一日連続でドナムを使い過ぎてオーバーヒート状態じゃないか……?」


 ドクの話を聞いた一同は動揺し始める。


 彼らにはイントルーダーの体の事は全く分からないが、ドクは医師に匹敵する医術と知識を持っている元衛生兵であり、彼自信もイントルーダーだ。

 ドクだからこそ気付いたことだった。


「ドナムの使い方にもよるかもしれないが、威力の大きい者ほど顕著けんちょに症状が出るようだ。早く回収しないと大変だ。気を失っていたら、取り残した異形獣まものの餌食になる……!」


 ◇ ◇ ◇


 集合地点から約一キロの地点。


「ぐはッ」


 口から血反吐ちへどを吐き出した。


「くそっ、あと少し、持ちこたえろ……!」


 自分の体にそう言い聞かせ異形獣まものと対峙しているのは、口の端から流れ出る血を拭う気力すら失っているジャックだった。


 そのかたわらにはうつ伏せのまま気を失ったミツヤが横たわっていた。


(この激しい頭痛と眩暈めまいは、一体なんだ……?)


 目の前にいるのはよく見かける大型のクマに似たタイプ3の異形獣まものだ。

 たった二体の異形獣まものに、あのジャックが手こずっていた。

 立っているのが精一杯の様子で、握った大剣の切っ先は焦点が定まっていない。

 息も上がり、体からは赤い光は完全に消えていた。


「ハァッ、ハァッ……これ以上は……チカラを使えないというのか……?」


 誰かが聞いているわけでもないがそう独り言を漏らすと、最後の力で口角の血を手の甲で拭い、こんな時でもニヤリと笑ってみせた。

 しかし右側のタイプ3がリーチの長い腕を伸ばし、その先端の爪がジャックの頭上に振り下ろされた瞬間、体は傾き空を仰いでいた。


 爪が空振りしてタイプ3は奇声を上げる。


(まずい、意識が飛ぶ……)


 ジャックが草むらに倒れたその刹那、オレンジ色の閃光が一瞬で異形獣まものの腕を斬り落とした……!


「らしくねぇな、この世の終わりみたいな顔しやがって」


 仰向けに倒れたジャックが声の方へ目をやると、ヒースが鼻や耳から血を流して立っているのが見えた。

 しかし、ヒースの体を覆っていたオレンジ色の光はすうーっと消えていき、失っていったのだ。


「お前か……生……意気な……」


 ジャックの顔に少し生気が戻ったようだ。大剣を地面に刺し、それを杖代わりにして上半身だけ起こす。


 ヒースはもう一体の異形獣まものと三メートルの距離になんとか自力で立っていたが、もう刀を振るう力は残っていない。

 そこにタイプ3が大きな口を開け、牙を露出させて近づいてくる!

 

「……もう空っぽだ……だが、あともう一度……」


 ヒースは自分にそう言い聞かせる。


(トージのクソ野郎! 倒した後までも俺たちを……!)


 再びオレンジ色の光が体を覆い始めた。


「……あと一度でいい、チカラを……振り絞れ……」


 その胸には強い決意が湧き上がっていた。

 ヒースは力の入らない手で刀を握るのをやめ、鞘に納めたのだ。


(しっかりしろ……! 今ここで倒れたら、この先、仲間を守ることなんかできねぇだろ!)


「くそトージ――ッ! たとえこの体がどうなろうと、俺は絶対に諦めない! この魂だけは奪わせねぇ!!」


 剣の代わりに、ヒースは右手の平を前に突き出した。ドナムの力を込め、手の平から直接炎が噴き出す――!


「これが最後だ、食らえ! 火焔龍ブレイズドラゴン――!」


 ゴオォォォォォ――――ッ!


 手の平から直接燃え上がった爆炎は、勢い余って肩にまでい上がり、シャツの半分を焼き尽くして消し去った。

 衝撃と苦痛が襲ってくるが、それでも止めない。すると右手の平から放たれた炎の龍がくうを切り裂くように飛び出した。龍の声があるとすると、こんな風だろうか。その、耳をつんざくような音と共に標的に向かって一直線に進む……!


 ギュイィィィィィィィィィ―――――― ィッ!!


 食いしばった口角から血がゆっくりと滴り落ちる。だが、ヒースは一歩も退かなかった。


 どこにそんなチカラが残っていたのか、タイプ3の体の中心を貫いた炎の龍はその先数十メートルまで伸びていた。


 しかしそれを最後に、力尽きたヒースは異形獣まものと同時に地面に伏してしまった。


 「……よく……やった……」


 と、ジャックは一言残し、そのまま意識が無くなった。


 「……るせぇ……」


 そう一言返した後、ヒースも草むらの中へ体を埋め、気を失ってしまった。

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