11 最終決戦!
場所は移ってここはバスティール地下三階、最深部の牢内――。
灯りといえばわずか二か所のブラケットに
「ジャック、君だけはこちら側の者だと思っていたが……非常に残念だよ」
トージはヒースの炎に貫かれた肩の痛みと
ジャックは《
これほど銀を付けていると恐らく食事も喉を通りづらいだろう。
トージが今まで多くの人にしてきた数々の残虐な行いを考えると、ジャックはそれでも足りないと感じていたのだった。
「総隊長殿」
ジャックは言いかけて
(俺は一度死んだはずだった。何もかも失ったはずが、まだ命があった。暫くはここでも生きる目的が見出せない中、面白ければそれでいいと、大抵のことには目を
「……さすがにちょっと、はしゃぎ過ぎましたね」
ジャックはギリギリまでトージ側の人間であると信用させるために、誰にも打ち明けることなく、たった一人であらゆる犠牲を払ってきた。
信用できる人間がいると分かると、尚のこと巻き込みたくなかったのだ。
ヴァレリーとクロードにトージの計画を話したのはつい最近だった。
全てはトージの口から悪事を引き出す為――。
時にはトージの
トージはどす黒い目でジャックを睨む。
「リシューは何というかな? そもそもそのボイスレコーダーを信用するかどうかも怪しい」
「どうとでもしますよ。ご安心を。それに、今時スマートフォンを持ち込んでバッテリーの持つ限り、
すると、いよいよ逃げ場を失ったと気付いたトージは思いの
「ジャック! オレは何も特別なことをしてきたわけではない。皆が動き易いよう裏から手を回しただけで、実際に動いたのは各々の考えではないか。人類の歴史は殺りくだろ? どんな綺麗ごとを言っても結局、人間は殺し合いを止められないぞ!」
しかし、鉄格子のドアが閉まる金属音の音でトージの最後の言葉がかき消された。
(トージ君。それは俺だって百も承知だよ。それが判っていても
◇ ◇ ◇
さて、再び国境沿いの森の中。
国境付近に放たれた六百体もの
「皆、手分けして広がろう。既に
ウォーカーは大急ぎで隊員達を連れて国境付近に向かった。
「マズいな。こんな事になると思わず弾丸が」
アラミスが残りの弾数に不安の色を
ジャックが突如、その場に現れた。
「うわ! び、ビビった」
ヒースはすぐそばに現れたジャックに驚き、数歩下がる。
「はえーな。まさか
「プッ……。君、面白いね」
ジャックは一つ大きな仕事を終えたからか、少し表情に余裕が見える。ヒースの言葉に吹き出したほどだ。
「ああこれ、君のとこの狙撃担当に渡してやってくれ。銀の弾丸だ」
そう言って、ヒースの前に両手一杯程の大きさの麻袋に入った弾丸を差し出した。
「あ、ありがとう、助かるよ」
(なんかやりずれぇな)
ヒースはあれ程敵視してきたジャックを、急に味方として対応することにまだ戸惑っていた。
「あと、助っ人を呼んでおいた。そろそろ来る頃なんだが」
「どういうことだ?」
その時、遠くから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「おーい! ヒース、いるんだろー!?」
「ん?」
「誰? 知り合い呼んだ?」
ミツヤがヒースに聞いた。
「んなわけないだろ、こんな事になるなんて知らんし、知り合いなんて他に……」
20名程のイントルーダーを束ねて走って現れたのはジェイク率いるストーム一味のメンバーだった。
「お、お前、確かジェイクだろ?」
ヒースはストームを倒した後、ジェイクとはどことなく悪い気がしていなかったが、ジェシカの顔は怒りでくしゃくしゃになった。
「あんた達、なんでここに居るのよ!」
思ったとおりの物凄い剣幕だ。
「ひーッ! キュートな顔してこえーな、相変わらず。そこの旦那がこの仕事を引き受けたら
と、ジェイクはジャックを指さして嬉しそうに言った。
「えええ!?」
あの、苦労して仕留めた「ストーム」一味の見覚えある面々が後ろにいた。
ヒース、ミツヤ、ジェシカの三人はこのストーム一味と戦って倒すのは簡単ではなかった為、ヒースはすぐに
「お前、これも罠じゃないだろうな?」
「そう来ると思った。
ジャックはこんな時でも落ち着いている、平然と言ってのけた。
それに対しヴァレリーは呆れつつも称賛の目で、彼女より20センチも身長の高いジャックを見上げる。
「あんたって、なんて機動性の高いヤツなんだ……」
更にジャックは各方面への応援を呼んだことを伝えた。
「ハハッ。お
「なんだと? 気が利くなぁ!」
と、ヴァレリーはジャックの背をバンッと叩いて喜んだ。
「おおーっと、俺に触ってくれるのは嬉しいが、そのタガーナックル外してから頼むよ」
ヴァレリーが慌ててジャックのマントに目をやると、既にマントだけでなく、制服内部まで切れていた。
「すまん!」
ヴァレリーは頬を赤く染めて頭を下げたが、ジャックは歯を見せて笑っている。その実、背中の肉まで若干裂けていたにも
「そういや、ジャックのとこの隊員は?」
「ああ、うちのヘタレは全員置いてきた」
「あー、あんたはどこまでも一匹狼だな」
ジャックの第二隊の隊員は、もともと戦闘向きではない。
ジャックは自分が一人動けば、部下に危険を負わせずに済むと考えていた。特に隊員にトージの悪事の肩代わりは極力させたくなかった為、腕の立つ隊員は全て他の隊へ入隊させていたのだ。
そう言っている間に第四隊隊長のサバランが自分の隊員30名と、クロード、ヴァレリーの隊員をそれぞれ30名引き連れて到着する。
サバランは先の
「ジャーック、いつも生意気な野郎だ。だが話は分かった、今回は仕方ねぇ」
サバラン隊長は両手の指関節を鳴らし、後ろに控えている自分の隊員へ振り返る。
「いいかお前ら、第四隊の底力を見せてやれ!」
「あいつだ、ミッチー! てことはあの、他人のドナムを吸い取るイントル隊員もいるはずだ」
ヒースとミツヤに緊張が走る。自然とヒースの手が刀の
「出たな、
そこですぐにサバラン隊長が殺気立ったヒースを見つける。
ヒースとミツヤ、それにアラミスも思わず構えたが、サバランは意外にも羽帽子を脱ぐとすぐに頭を下げてきたのだ。
「ジャックから聞いた。全てトージ総隊長の悪事の一環だった。知らぬこととはいえ、あの時はすまないことをした、このニールと共にお詫びする。それとそこの狙撃手の君、
意外な対応にヒース、ミツヤ、アラミスが三人とも唖然としていると、後ろにいたニールも顔を出して謝罪してきた。
思わずヒースは肩の力を抜いて柄から手を離す。
「ニール、あんたのドナムには参った。正直、もう二度と会いたくないと思ったぜ」
「ジャック隊長、このお膳立てを一人で全部?」
ルエンドが驚いていた。この突然降ってきた危機に淡々と対応しているのだ。
「二日前からクロードとヴァレリーも作戦に入ってくれたが、仲間に協力を得ることで同時にリスクが何倍にもなる。俺一人で動いた方が確実だと思ってね」
「トージの話、どこまで知ってたんですか?」
ルエンドは詰め寄った。
「まぁ、ほぼ全部さ。大教皇の話は直接聞いてはいないが、こっちの筋で勝手に調査させてもらってたんでね。二度とやらないと誓った筈の潜入捜査がガッツリ体に染みついていて自分でも嫌になる」
「おい、そこにいるのは、まさかマージか!?」
重力使いのモリーが重傷のマージを発見した。
体半分が消滅した状態のマージを見つけ、
ドクのドナムのチカラもあり、マージは到底生きているとは思えない状態にもかかわらず意識はちゃんとあった。
「やぁ、こんな姿は見られたくなかったが……トージに
「なんか詳しいことはわかんねぇが、ヒース、あんた達がいるんならやることは間違ってねぇはずだ。皆、さっさとこの
ジェイクは仲間を引き連れ、先頭に立って
自分が準備してきた要員が持ち場につくと、ジャックはニヤリと笑い、大剣を背から抜いた。
「さて、『
「マジか? 信用していいんだな?」
ヒースの
「ヒース君。今度は本当にジャックの言うことを信用出来そうですよ。我々護衛隊もまだまだ戦えます」
すると、ジャックがヒースに対して効果的に
「それとも何か? 俺には敵わないと?」
「てめぇ! 言ったな。どっちが多く倒すか勝負だ」
この広範囲で討伐数などカウント出来るわけもないが、ヒースの性格上、つい勝負に出るのが悪い癖だった。しかしジャックはそこは突っ込まずに敢えて乗ることにした。
たった数回の対峙でヒースの性格を熟知したのか、ジャックは更に条件までつける。
「ほー。では、俺が勝ったら君のチーム全員で一か月、空きが出来たままの第五隊に入って仕事してもらうぞ」
「なんだ、そんな事でいいんだな? じゃぁ、俺が勝ったら、ルエンドの国の銀鉱山を奪わないよう約束だぜ!」
「ヒース……!」
ルエンドの顔にパッと笑顔が戻った。
「了解した。そういうことだ、クロード、ヴァレリー! 頼んだぞ」
(そんな事、端からそのつもりだったがね)
そう呟きながらニヤリとするジャックの言葉に全員頷いた。
「ああ、一つ頼みがある」
ヒースは飛び出そうとしたヴァレリーを止める。
「ドクや他のイントルから聞いた。もう知ってるかもだが、このマージを見たら判るように、
マージがそんなヒースをじっと見つめている。
その表情にはもうヒース達への怒りや違和感は
「ああ、私達も最近知ったことだが、ここにいる全員わかってるよ。ありがとう、殺さないで捕獲だ。とはいえ、なかなかあいつら死なないがね」
そう言ってクロードはジャックを見た。
「あのイントルーダー軍団にも言ってあるんですよね、ジャック」
「当然だ。色々言って脅しておいた」
それを聞いた全員が体を硬直させる。
(こえーっ! 何を言って脅したかは聞かないけど)
「オーケーィ! じゃぁ我々第六隊、全員暴れるぜ!」
一番先に威勢よく飛び出したのはヴァレリーだ。彼女に続き、隊員達が走って行った。
どんどん森の奥に入って行ったが、そこから聞こえてきたのは
クロードも第三隊の隊員達に忠告した。
「さすがだな。では我々も行くぞ。自警団のみんな、もう判ってると思うが、
クロードは隊員達を引き連れて国境方面の
「遅れをとったか? ヒース」
ミツヤはウズウズし始めていた。
実はアラミスのアドバイスで試したい技もあるのだ。
「なーに言ってんだ。これくらいハンデやらねぇと俺達とあいつらじゃ勝負にならんぜ?」
ヒースはニヤリとした。
「ルエンドは万一、俺達が取りこぼした
ヒースは動けないマージと、彼を診ているドクを見て、ルエンドに護衛を頼んだ。それに対してドクとルエンドは快く頷いた。
「じゃあ、俺は後方から狙撃一本でいく。ブルタニーには元気な
アラミスがヒースから受け取ったマスケット銃専用の銀の弾丸を確認し、ほくそ笑んだ。
(あいつ、カネに物言わせて結構な量持って来やがったな)
「ジェシー、矢は大丈夫か?」
アラミスが心配そうに確認する。
「今のところ、使った矢を回収してるから大丈夫、でも」
アラミスとジェシカは同時に言った。
「一発必中!!」
そんな遠距離攻撃枠の二人に、状況判断のできるミツヤがフォローする。
「アラミスもジェシーも、矢や弾が尽きそうになったら早めに申告してルエンドの元に戻っててくれ」
「了解!」
そんなミツヤがいることでヒースは思い切り動けるのだ。
「じゃあ、いくぜ? ミッチー!」
「先に行ってるぞ!
「はいはい、行ってらっしゃい」
ヒースはひとつ息を軽く吐くとミツヤを追うように瞬時にその場から消えた。
六百体もの
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