3 発動、連携技!

 ――それは数日前のある深夜のこと、ミツヤはアラミスからアドバイスを受けていた。

 以前、ストーム一味と戦った際のヒースとミツヤのドナムが融合し、偶発的に起きた現象をアラミスに解説してもらっていたのだ。


「いいか、ミッチー。実はお前の方がかなめになる。この現象には雷のエネルギーを出来るだけ強力なものにする必要があるんだ」


 ヒース達の男部屋に集まり、ヒース、ミツヤ、アラミスの男性三人が話をしている。外に灯りと話し声が漏れていたため、何の密談だろうと気になったジェシカがドアの外でソワソワしていた。

「ジェシカちゃん? 入って来るかい? よければ一緒にどうかな」

 アラミスはドアの外のジェシカに気を配って中へ入れた。

 本来であれば夜中、男三人の部屋に女子が一人で入っていくのは避けるべきであり、ましてやアラミスがいる。しかし彼らは既にの生活をしていた。アラミスも真面目に技の解説をしている。変態癖が出ないことはジェシカも分かっていた。


「なになに? 何の話なの?」

「こいつら二人の連携技さ。前から気になってたんだ。こんだけ二人のチカラが揃ってて、なんでやらねぇんだろうってね」

「なんだよ勿体もったいつけて」


 ヒースは一度説明受けても尚、意味が分からないので不服なのだ。

 椅子の上で胡坐あぐらをかき、その膝の上に肘を乗せて頬杖ほおづえをついている。


 ミツヤはアラミスの解説を自分の言葉で確認した。


「――ようは、水が相手の場合、僕が出来るだけ強力な雷エネルギーをぶつける。多分、《雷光弾サンダーショット》あたりがベストだろうな。すると水の分子が分解され、が発生する、てわけだよね? そういや前に塾の化学の授業でやったなぁ」

(まさか先生もこんな形で実用化できるとは思いもしないだろうな)

「わかってんじゃないか」

「けど電解質が全然足りないだろ?」


 アラミスとミツヤのやり取りにヒースとジェシカがついて来れていない。

 二人は顔を見合わせ、両手の平を上に向けて首を傾けた。


「お前の雷パワーが普通の雷よりもずっと強力なんだろうな、特殊なエネルギー特性を持ってる可能性がある」

「それで、どこが連携になるんだ?」

 待ちきれずヒースは身を乗り出した。


「まぁ待てヒース、ここからがお前の炎が必要になってくる。ガスさえ充満してりゃ、炎はそれ程大きくなくても構わないぜ」

「へぇ」

 ヒースは技が決まった時を想像して、ようやく満足そうな顔をみせた。


「ミッチーが発生させたガスにお前の炎が入るわけだ。もう分かるな?」


「キャ――ッ! あれね!? 前にあたしも見た! すごい爆発起きたんだから。周辺一帯、一気に火が回ってどうしたかと思った。それだったのかぁ!」


「けどあれは結構危ないやつだぜ?」

 ヒースがストーム一味との闘いを思い出してニヤリとした。


「そうだな、周りの状況次第だ。けどそう言う事なら相手は誰だろうと、ようは水場が近くにあるだけでもいいってことになるな」

 と、ヒースの挑発に対しミツヤは冷静に、しかしその口元は不適な笑みを浮かべて応えた。


 ◇ ◇ ◇


 ミツヤが両手いっぱいに雷のエネルギーを集めたのを確認したヒースは、バック転で水の渦から脱出する。

 それを確認するとミツヤは水の渦に向けて雷の力を解き放った。


「ヒース! タイミング見逃すなよ! 雷光弾サンダーショット――ッ!」


 渾身の雷弾が水の渦に命中した途端、アラミスの計算どおり異変が起きたようだ。

 稲妻が水中を駆け巡り、ミツヤの作り出したエネルギーは水の分子を激しく揺さぶって水中に水素ガスが発生したのだ。

 しかし一見、変化が分かりにくい為、マージはまだ異変に気付いていなかった。


「これで終わりだ! 烈火の奔流ファイアー・スワロウ!」

 炎斬刀から炎が地面を走り、水素ガスが発生しているマージの周辺まで到達した途端、衝撃と爆音が辺りを覆う!


 爆発したかのように一気に火が回り、火災は周囲も取り込んだのだ。


「く、くそぅ……」


 炎が落ち着くと、そこには体の左半分を消失したマージが横たわっていた。

 もう再生するチカラも残っていないが、それでも生きている。ようやくヒースは刀を鞘に納めた。

 他の皆も武器をそれぞれ納めると、動かなくなったマージに視線を移している。


「マージ、だったな。さっき言ってたことが気になってるんだが、俺達のせいでこうなったとか……バスティールに収監されてから何があった? 他のストーム一味のメンバーはどうしたんだ? お前だけなんでこんなことに……」


「もう、殺してくれ。この状態でどうしようもない。帰る所もないし、トージに見つかっても失敗すれば殺されるんだ」

 マージは倒れたまま、起き上がることも出来ないが、かと言って異形獣まものの生命力でまだ死ぬこともないだろう。

 数日経てばまた元に戻るのかもしれないが、マージはどうでもよくなっていたのだ。

 マージは体を無理矢理起こし、近場の木の根元にもたれかかった。


「……僕は他の仲間同様、バスティールの獄中で数日過ごしていた。リーダーのジェイクがお前らを気に入ったのは知ってるし、あいつ、さっさと脱獄してやりたい事があるって言ってた。あんな前を向いたジェイクを見るのは初めてだ」


 俯いたまま、教えるつもりもなかった内容までボソボソと話した。


「僕も初めはジェイクの意見に賛同してたよ。だがお互いのチカラを使えは簡単だったはずの脱獄も、銀の枷のせいで計画倒れだ。そんな時、僕だけ脱獄前日にこっそり連れて行かれたんだよ。元いた世界への穴にね」


「ミッチー、あれだ……!」

「ああ」

「なんだ、知ってたのか? どこまで真相に迫ってるか知らねえが、僕は帰れるならと穴を潜って元いた世界に戻ったよ。だがジェイクや仲間の事が気になってまたここへ帰ってしまったんだ……気付いたらこの有様さ」


 同じ思いをしたことで気持ちを理解出来たミツヤは、マージのかたわらにしゃがんでゆっくりと話し始めた。

「実は僕もつい最近、その穴の前で迷ったんだ、トージに連れていかれてね。イントルーダーは皆一度は考えるだろ? だけど、人間に戻る方法があるのを知ってるか?」


「え、なんだって?」

 ミツヤの話にマージが食いついた。


「あーそれ、ちょっとキツいらしいけどね」

 ヒースは耳をほじりながら一言、補足説明する。


「どういうことだ?」

 マージの問いかけに、ミツヤは直接説明してもらった方が説得力があるだろうと、ドクを呼んだ。


「ドク、ちょっと説明してくれるか?」

「あんた、護衛隊にいたよな? なんで今ここに?」

 マージはドクを何度か施設で見たのだ。

「このチームの仲間になったんだ。それより、人間に戻る話だが」

 体の左半分が消失しているので、ドクは体力がこれ以上失われないように治療した。


「いいのか? 炎の剣士のヤツ……僕が開けた腹の傷も、あんた、まだ完全にふさいでないだろう?」

 それを聞いたヒースは急に、忘れてかけていた激痛がよみがえってくる。


「いいかマージ君。護衛隊の実験で最近分かった事だが、異形獣まものは約30日間何も腹に入れなければ人間に戻れるんだよ」

「なん? そんな事でいいのか?」

「ああ、そうだ。ところが、通常異形獣まもの化された者は人間としての意識もなく、ただのモンスターとなっているはずだ。食欲のままに人間を襲う。人間がいなければ目に入った異形獣まもの同士で共喰いもする、ひと月なんて到底辛抱出来ない。ところが……」


「オレにはまだ理性もあると?」

「あるんだろ?」


「ひと月か。ふふ、ははは。やってやるよ!」


「ただし。人間に戻ってももう、前の能力ドナムは消えてイントルーダーだぞ」

「……そうか。それでもいい。ありがとう」

「だがこのままここにいれば、トージか異形獣まものにやられるな。どこか安全な場所へ連れて行こう」

 ヒースがマージを助けようと皆に声をかけた時だった。


「なるほど、そういうことかね」


 マージの周囲に集まったヒース達の前に忽然こつぜんと現れたのは、あのまわしい護衛隊トップの男だ。

 数メートル先で馬上から見下ろしている。

 全員驚いたが、すぐに腰を落として武器を構えた。


「……トージ!!」


 「なぜお前がここに!?」


ひづめの音も聞こえなかった。この森のせいか? 厄介だな……)

 ヒースの額に一筋の汗が流れた。


「フフフ、毎度毎度、よくまぁ私の計画を妨害してくれるねぇ。しかしその体、これ以上持ちこたえられるのかな?」

 ヒースの腹の、マージの爪で受けた傷口から血がにじみ出ている。

 刀を抜き、両足を肩幅より広げて構えた。


「のこのこと自分から出てきやがって、自分の心配をした方がいいんじゃないのか!」

 ミツヤが一気に全身を黄色に輝かせる。

 この森を出るまで気を緩めず、めの時間でモタつかないようずっと気を張っていたのだ。


「ミツヤ君、すっかり体はいいようだね。ドクがいるからかな?」


 アラミスは既にマスケット銃で狙いを定めている。

「クソ野郎、随分余裕があるんだな。俺達はこの瞬間を待っていたからな、六対一でも容赦しないぜ?」

「君がコンラート氏の息子だったとはね。入隊試験会場にいたのが君だと知ってたら無条件でパスだったよ、残念だ」


 ルエンドも剣を抜き、胸の前で構えた。ずっとこの日が来ることを願い、誰にも相談せずに探りを入れていたのだ。

「総隊長。わたし、もう除隊しました。覚悟してください!」


「ルエンド君。私の周りをぎまわっていたことは薄々気付いていたよ、フフ。残念だがね」

(……やっぱりかぁ)


 クロスボウの矢をトージに向けているジェシカも、一言は悪態をついてやらないと気が済まない。

「あ、あたしはあんたなんか会ったこともないけど、やってることは知ってる! たとえ命乞いしても、もう許さない。これ以上護衛隊を続けられると思わないことね、この陰険ゲジゲジ眉毛ッ!!」


 ここでメンバー全員が一斉に、あんぐりと口を開けてジェシカに振り向いた。いつもジェシカにやり込められているヒースは、顎をひょいっと前に出してミツヤと目を合わせる。

「俺らが毎日受けてるジェシーの悪態攻撃、受けてみやがれ、だよな?」

「全くだ」

「そこ! そんな事言ってる場合!?」


 ドクはこの異世界に来てから一度も武器は持ったことがなかったが今、60年振りにしてアラミスのハンドガンを手渡され、銃口をトージへ向けていた。

「トージ総隊長、僕も第二隊を抜けたよ。僕はもうこのチームの人間だ。あなたのやり方には我慢ならない」


「ドク、いや、スタンリー。非常に残念だがまぁ好きにすればいい。君のお陰で随分異形獣まものとイントルーダーの関係性や対応法が分かった。さっき君達が言っていた、ひと月何も食べなけれ人間に戻れる話はだがね……!」


 一同は驚いていた。

「元に戻れる」という結果は同じではあるが、危うくだまされるところだった。

 マージも元に戻れる話を受けたが、結局それはトージによる何の保証もない出任でまかせから来たものだったのだ。


「スタンリー、今まで協力してくれたお礼と言っては何だが、餞別せんべつにひとつ教えてあげよう」

 トージは見下した目でドクを見る。皆の使い慣れた「ドク」と呼ばず、えて本名で呼ぶのは、トージが他の隊員達よりドクをよく知っているとアピールする為か、それとも気まぐれか。


「そこのマージ君が異形獣まもの化に選ばれたひとつの要因は、彼の元いた世界から来た「揺らぎの穴」がプールの中にあったからだよ。聞くと人命救助の際、事故でこっちに来たそうだ。プールはね、生きた生物が混入しにくい場所でね」


「……言ってる意味が分からないね」

 ドクはトージがこの異世界に現れてからずっとトージを見て来た。

 少々のことでは揺さぶられない。


「イントルーダーがこの異世界へ再び舞い戻る時は恐らく夜間が多いと考えている。それは夜の方が穴のゆらゆらとする動きが比較的目に留まり易いからだ。夜行性の動物や昆虫がそこに混入するのが数秒前か数時間前なのかは分からない。だが夜間に穴を発見したイントルーダーはこっち側の異世界へ入る時、なんらかの生物といっしょに入って来てしまうのだろうね」


「……そ、それはまさか」


「ふふ。 気づいたか? まだ仮説だよ? だが、そこのマージ君はほぼ本人の姿を保っているだろう……?」


 ミツヤも自分なりに想像を巡らせた。

(てことは、DNAレベルの話か……? そ、そんなことが……? けどそういえば異形獣まものの姿は蝙蝠こうもりや蜘蛛、ネコ科の猛獣とかの形態が多い気がする……)


「貴様、人体実験のつもりかよ!」

 ヒースがトージに飛び掛かろうとした時だ。


「ヒース君。君にもひとついい事を話してやろう。私と君は宿因しゅくいんの関係だよ」

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