第28話 そして日常へと。
次の日の夜。
俺は、両親の住む家の前にいた。
そして、そこに白百合さんがやってきて、俺にアタッシュケースを手渡してきた。
「晴様、こちら、お約束のものです。お受け取りください」
「ありがとう。一応中を確認させてもらうよ」
そうして俺は、ケースを開ける。
すると、中に入っていたのは俺が依頼していた通り、大量の札束だった。
そして、それを見た俺は白百合さんに問う。
「一応聞くけど、これ全部偽札なんだよね」
「ええ、先日押収した偽札です。全部で三億円分あります」
そう言われて俺は、改めて今回の作戦を振り返る。
俺が考えついた作戦は、手切れ金として両親に大量の偽札を押し付けて、白百合さんのツテで警察に連絡し、通貨偽造の罪を両親になすりつけるというものだ。
そしてこの一億円分は、俺が白百合さんから一千万円で買い取ったもので、勿論その一千万円は白百合さんへの借金であり、それは今後のアルバイトで返していくことになる。
(つまり俺は、俺の人生を白百合さんに売ったのだ)
「それじゃあ、行ってくる」
そして、白百合さんにそう伝えて俺は、両親の元へと向かう。
チャイムを鳴らすと、出てきたのは予想通り父だった。
「……随分と早く帰ってきたな。ところで、結衣はどうした」
「結衣は来ないよ。今だけじゃなくて、今後もずっとね」
「なんだと?」
「その代わり、父さんが結衣以上に必要としてるものを持ってきた」
そう言って俺はアタッシュケースを開いて、その中身を見せた。
「ここに三億ある。そしてこれは、俺と結衣が仕事で稼いだものだ」
「……何が言いたい?」
「つまり、俺らにとって父さんも母さんも必要ないってこと。このお金あげるから、もう近寄らないでくれない?」
そうして俺作戦を始めると、父は口を開く。
「……そうか。その様子だと俺が、結衣が金を稼げるようになったから連れ戻そうとした事には気づいているんだな」
「そうだよ。結局、父さんは金さえあればいいんだろ?」
「ああ、まさかこんなに稼いでるとは思わなかったがな……まぁ、これで俺は満足だ、もう帰っていいぞ」
そうして、父がケースを取ろうとしたとき、俺はそれを取り上げる。
すると、父は眉間にシワを寄せつつも、俺に問いかけてきた。
「晴、なんの冗談だ……?」
「一つ交換条件がある。今後は二度と結衣に変わらない事。それがこの金を渡す条件だ、飲むか?」
「……いいだろう。約束するよ。金さえ手に入れば、もう用はないさ」
感情で動く母と違って、父は利害で動く人だ。
おそらく、金のためならば約束は守るだろう。
(作戦は成功。あとはこれで、どこかで見ているであろう白百合さんに連絡を入れて、数日後に逮捕してもらうだけだ)
そうして俺がこの場から離れようとした、その時。
「お兄、お父さん!」
なんと、こちらに結衣が走ってきた。
(なぜ結衣が……?)
そんなふうに不意をつかれた俺の元に、遅れてルリ姉もやってくる。
「ハルくん、お邪魔するね」
「ルリ姉まで……なんでここに?」
「お父さんに車を出してもらって、わたしが連れてきたの。結衣ちゃん、話したいことがあるんだって」
そして、ルリ姉がそう言ったあとで、結衣は父に向き合って口を開く。
「お父さん、それ、偽札だよ」
そう言った結衣は、すぐに俺の方に顔を向けた。
そんな結衣に向けて俺は、彼女に問いかける。
「結衣……どうしてそれを?」
「お兄ならそうするかなって思ったから」
結衣はそう言うと、再度口を開く。
「私ね、美波ちゃんとコラボした影響で、ようやく登録者が千人を超えたの。だから、ようやくお金を稼げるようになったんだ」
「結衣……頑張ったな」
「うん、お母さんには私の活動に意味がないって言われちゃったけど、正直悔しかった。だから、そんな事ないって事を私自身が証明する! もう、お兄だけには背負わせない!」
そう言った結衣は、若干震えながら父に言葉を投げかける。
「お父さん、私、家を離れてからお兄に助けられて、やっと前を向けるようになったの。だから、お兄と一緒に居させてください」
そして、そんな言葉を聞いた父は、俺に向けて口を開く。
「……もういい、出ていけ」
「いいのか? もう二度と帰ってこないけど」
「ああ、偽札を使ってまで陥れようとしてきたやつなんて、近くに置いておきたくないからな。それに、結局は結衣たいして稼いでなさそうだしな……俺はもうお前らからは手を引く、母さんは知らんが……晴、お前は結局、譲らないんだろう?」
「ああ、何があっても絶対に、結衣には近づかせない」
「そうか……なら母さんには、今日あった事を伝えておくよ。それでどうなるかは知らんが、俺が協力しないとなればとりあえずは諦めるだろう」
「……随分とサービスしてくれるんだな」
「金を稼げなかった地点で完全に俺の負けだからな、敗戦処理くらいはするさ……なにより、お前は俺のことが嫌いなんだろう? ならこれ以上、お前を敵に回したくないからな」
そう言うと父は、アタッシュケースをこちらに放り投げて、そのまま扉を閉めた。
こうして、想定外の道筋を辿りながらも、俺の結衣を守るという目的は達成されたのだ。
〜翌日〜
俺は、結衣とルリ姉と共に朝食を食べながら、ふと思った事を結衣に伝えた。
「しかし、結衣も昨日、あれだけ頑張れたし、なんならお金も稼げるようになったし、いよいよ一人立ちが見えてきたな……なんか、寂しくなるな」
「へ? お兄、なんの話してるの? 私、一人立ちなんて一生するつもりないけど」
「いやでも、年齢的にも俺が先に死ぬし、結衣もいつかは彼氏とかできるかもしれないし……どのみち、いつかは一人立ちしなきゃいけないだろ?」
「えー。お兄が居なきゃ生活できないよ。せっかく兄ガチャ大当たりしたんだから、私が死ぬまで一生面倒見てよね」
そんな会話をして、昨日あんな事があったとは思えないくらいにいつも通りの日常をすごしつつ、朝食を終えた。
そして、俺とルリ姉は学校へと向かう為に玄関へと向かう。
「言ってらっしゃーい! ちゃんと帰って来てねー!」
そうして、そんな事を言う結衣と別れて、ルリ姉と共に家を出た。
すると、扉を開けるとそこには、案の定と言うべきか白百合さんがいて、彼女はすぐさま俺と腕を組んできた。
「ハル様っ、おはようございます! さて、バイトの日程はいかが致しますか? わたくしは一生でも構いませんよ?」
「……白百合さん、接触禁止令はもういいの?」
「……この世のあらゆるルール違反は、バレさえしなければ罰せられる事はありませんわ」
そうして、俺の質問に明らかに目をキョロキョロさせながら答える彼女を見て、俺は彼女の耳元で一言呟く。
「春乃、大好きだよ」
「ふぇっ……!? は、晴様っ、それは一体……」
そして、俺の発言を聞いて白百合さんが明らかに動揺し始めた時、俺の考え通りメイドの芽依さんがどこからかやって来た。
その後、彼女は白百合さんに語りかける。
「お嬢様……心拍数が異常値になったと思って来てみたら、また接触しているのですか?」
「こ、これは……色々と深い事情がありまして……」
「言い訳は無用です。お嬢様の健康を守るため、今すぐに私が学校へとお送りいたします」
そうして、白百合さんは芽依さんに背中を押され始めた。
それと同時に、白百合さんは俺に話しかけて来る。
「は、晴様っ! 学校でお会いいたしましょうねっ!」
そして、白百合さんは連行されていった。
すると、今度はそれを見ていたルリ姉が腕を組んできて、俺に語りかけてくる。
「ところでハルくん。告白のお返事って、いつくれるのかな?」
「あ、えっと……ごめん。もうちょい時間貰えないかなって……」
「ふふ、わたしこそごめんね。ハルくんは真面目だからちゃんと考えてくれるって分かってるし、わたしはハルくんが側にいてくれるだけで嬉しいよ」
そう言いながら彼女は、いつも通りに頭を撫でてくる。
しかし、今日のルリ姉はいつもと違って、珍しく一言だけ追加してきた。
「でも、わたしもちゃんと、ハルくんに選んでもらえるように頑張るからね。だから……これからもずっと、一緒だよ?」
そして、ルリ姉が若干顔を赤らめつつも歩き出したので、俺も歩幅を合わせて歩き出す。
そうしてまた、俺の日常は始まっていくのだ。
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これにて最終回です、最後まで読んでいただきありがとうございました!
楽しんでいただけましたら是非【★★★評価】をよろしくおねがいします!
そして、作者フォローもしていただけると、次回作を書く励みになりますので、そちらもよろしくお願いします!
それではまた、次回作でお会いできたら嬉しいです!
偶然助けた女の子がヤンデレで付きまとわれる事になったけど、ふわふわ天然の先輩にヨシヨシされながらも、引きこもりの妹を人気Vtuberに押し上げるハーレムラブコメ。 リンスinハンドソープ @ookimenokani
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