第27話 最終決戦。

「父さん、母さん、何しに来たの……?」



 俺がそう聞くと、母は口を開いた。



「あんた達を連れ戻しに来たのよ。くだらない事をしてるみたいだって知ったからね」



 久々に会った母は、昔と態度は変わらない……どころか悪化しているようだった。



「確かに俺はバイト以外何もしてないけど、結衣は違う。もう立派に仕事してるだろ」


「あんなふざけたものは仕事じゃない。晴すらそんな事を言うだなんて、やっぱり結衣を任せたのは失敗だったわね。ほら、もう家主さんとは話をつけてきたから、早く準備しなさい」



 この家の家主……つまり、ルリ姉の両親にもわざわざ声をかけたらしい。つまり、それくらい用意したうえで来てるのか。


 俺がそう感じていた際、隣に立つルリ姉も驚いた顔をしていた。


 そして俺は、今度は父の方に目を向けて、語りかける。



「……父さんも、同じ意見って事でいいんだよね」


「まぁ……そうだな」



 そう言う父も母と同じく、結衣を無理矢理にでも学校へ通わせたいようだ。


 もちろん俺からすれば、とにかく学校に通えばなんとかなるという母の考えはただの思考放棄であり、その考え自体が結衣の幸せに繋がるものではないと言う事は、結衣の過去と向き合っていていれば分かるはずだ。



(まあ、成績でしか子供を見てないから、結衣と学校という概念の相性が悪いって事実が分からないのがこの母なんだけど)



 それに加えて、父の方は守銭奴だ。おそらくここにきたのも、結衣が配信者として伸び始めて、金を稼げるようになった可能性があるとどこかで知ったからなのだろう。


 父は感情だけで動く母と違って、親である事を大義名分に結衣の金を回収するという実利を狙っているという側面もあるのだと思われる。


 なんて俺が考えていた頃、結衣は不安そうな表情で俺に語りかけてくる。



「お兄……」


「結衣、ごめんな」



 ……両親と別れた地点で、いずれこんな日が来るのではないのかとは思っていた。


 俺の方は既に、この二人を結衣から完全に引き離す覚悟はできている。


 それに、これをやったらもう引きかえせないし、両親を地獄に落とす事になる。


 しかし、結衣の為ならば俺は、なんだってやってやる。


 そう覚悟を決めて俺は、両親に語りかける。



「……分かったよ。今から帰るための準備するけど、片付けに時間がかかるから二日ちょうだい」



 そう言うと、父が言葉を返してきた。



「帰ってくるならそれでいい、二日後にまた来るからな」



 そう言って両親は、帰って行った。


 そして結衣は泣きだしそうな表情で、俺に話しかけてくる。



「お兄……本当に帰らなきゃいけないの?」


「いや、俺に考えがある。大丈夫だよ」



 そう言って俺は、白百合さんに言葉を投げかける。



「白百合さん、交渉しよう」


「交渉……ですか? この件でわたくしにできる事はないようにも思いますが……それよりもわたくしは、今すぐ晴様を自宅へ連れて行きたいのですが」


「なら対価として、俺の同意込みで俺の人生をあげる。だから、話を聞いて欲しい」


「良いのですか……!? それならば、どんな話でも聞きますわ! さあ、さあっ! 聞かせてくださいましっ! 今すぐにっ!!」



 そうして俺は、結衣とルリ姉に聞こえないように、耳打ちする。



「あっあっ、晴様の声が直接耳にっ……脳が幸せですわ……」


「これ真面目な話だから、もうちょい集中して聞いてくれる?」



 そんな会話もしつつ俺は、白百合さんに作戦の内容を説明した。



「ふむ、わたくしはそれでも構いませんが……晴様はそれでいいのですか?」


「結衣の為だから」


「……いいでしょう、交渉成立です。ただし、当日はわたくしも同行させていただきますわ。そして、報酬は成功した際に受け取らせていただきますわ」


「ありがとう、助かるよ」



 そんな風にして会話を終えたあと、白百合さんは口を開く。



「それでは、わたくしは今から準備を始めます。明日の午後までには準備を済ませますが、決行日はどうしますか?」


「準備ができるなら明日の午後……それも、できれば夜勤で母さんが居ない時間帯がいいね。でも、本当に協力してくれるの? これ成功したら多分、俺たち死んだ後は地獄行き確定だよ?」


「わたくしは、晴様と共に地獄に落ちる覚悟がありますことよ? それを証明する為には、これが最も分かりやすいでしょう」


「……感謝するよ。この件に決着が着いたら、白百合さんにも向き合うと約束する」


「ええ、お待ちしてますわ……もちろんわたくしは、晴様から離れるつもりは毛頭ございませんが」



 そうして白百合さんは、帰って行った。


 そして今度は、ルリ姉が俺に話しかけてくる。



「わたしも、お父さんとお母さんに聞いてみるわ。もしかしたら、ハルくんと結衣ちゃんの事情が伝わってないのかもしれないから」


「そうだね。できたら、俺と結衣はこの家に住みたがってるって事を伝えて欲しい。ルリ姉の両親は俺の両親から見た話しか聞いてないだろうから、ルリ姉から伝えてくれれば味方になってくれるかもしれないし」


「わかったわ。わたしも、できる事ならなんでもするからね」



 そうして、会話に一区切りがついた頃、ルリ姉は改めて俺に語りかけてくる。



「あとね、ハルくん。ちょっと表情が怖いよ? 何をするのかは分からないけど、無理はしないでね」


「ごめん、今回だけはちょっとだけ無理をするよ。ルリ姉に迷惑はかけないから」


「迷惑だなんて言わないで。ハルくんが必要だと思う事なら、わたしも止めないよ。でもね、わたしは何があってもハルくんの味方だから……全力でやっておいで」


「……ありがとう」



 そんな会話をした後で、ルリ姉も家に帰って行った。


 そして、唯一ここに残った結衣に俺は話しかける。



「結衣、俺は明日の夜に二人に会いに行くけど、結衣は家にいて欲しい」


「……やだ、私も行く。お兄だけ頑張らせるのは嫌だ」


「気持ちは嬉しいけど、俺は明日、汚い言葉を沢山使う事になる。それを結衣に見られたくないんだ。だから頼む、俺の帰りを待っててくれないか?」


「……分かった、でも、絶対に帰ってきてね!」



 そんな会話でやり取りを終わらせて、俺は一日を終えた。


 そして、次の日の夜。俺は最終決戦へと向かう。


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 次回、最終回です!

 是非、最後までお付き合い下さい!

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