第26話 告白
結衣に向けて、ルリ姉は口を開く。
「あ、結衣ちゃん。ハルくんっていい匂いがするのよ? 結衣ちゃんも来ない?」
「わ、私にはまだ早いから!」
ルリ姉の提案に結衣はそう返すと、逃げ出していった。
そうして俺は、その後も匂いを嗅がれ続けた。
〜夜〜
満足したらしいルリ姉と、そんな様子を柱の影から見ていた結衣と共に、夕飯の支度をして、食べ終わった。
その頃には雨に濡れた服も乾いていて、ルリ姉は帰るための準備を始めている。
そんな時、ルリ姉は俺に語りかけてきた。
「ハルくん、今から一緒に公園に行かない? 二人でお話ししたいことがあるの」
ルリ姉からの提案にしては珍しく、二人きりという条件がつけられている。
きっと重要なことなのだろう。
「いいよ。じゃあ、一緒に行こうか」
そして、俺はルリ姉の問いにそう答えて、帰りの準備を整えた彼女と共に外に出た。
〜公園〜
そこから歩いて数分、近所にある公園にたどり着いた。
この時間という事もあり、俺たち以外には誰もいない。
そして俺たち二人は、数年ぶりにブランコへと座る。
「風が気持ちいいね」
そんな事を言う彼女に、俺は問う。
「それで、わざわざ二人で話したいって言ってたけど、どうしたの?」
俺がそう聞くと、彼女は語り始めた。
「……わたしたち、子供の頃から一緒にいるじゃない?」
「出会ってからもう十年以上になるし、幼馴染ってやつだよね」
「うん。それでね……ハルくん、昔にわたしと結婚するって言ってくれたんだけど、もう忘れちゃったかな?」
「忘れてないよ……そんな事もあったね」
「わたし、あの時すごく嬉しかったんだよ?」
そういうとルリ姉は、一呼吸置いた後で、再度口を開く。
「それで……わたしね、今までずっと、ハルくんと付き合ってるんだって思ってたの。それで、将来はハルくんと結婚するんだと思ってたんだ」
「え……?」
「でも、白百合さんが転校してきて、ハルくんと仲良くしてるのを見て気がついたの。わたしって、ハルくんの彼女じゃなかったんだなって」
そんなルリ姉の発言に、俺は心底驚いていた。
昔から距離感が近いと思っていたけど、まさかそれが付き合っている事を前提としていたものだとは、この瞬間まで考えてもいなかった。
確かに、あの距離感が恋人のものだと言われれば、納得もいく。それくらい彼女の距離感は近かったのだ。
そうして、俺が過去を思い返していた頃、ルリ姉は言葉を続ける。
「だからね、ハルくんに気づいてもらわなきゃって思ったの」
「……何に?」
俺のそんな問いに、彼女は真っ直ぐ俺を見つめながら答えてくれた。
「わたしは、ハルくんの事が好きです。わたしと付き合って下さい」
「……」
そう言われて俺は、少し悩む。
すると、ルリ姉は不安げな顔を浮かべながら、俺に話かけてくる。
「……やっぱり、白百合さんの事が好きだから、ダメ?」
「そうじゃなくて、白百合さんが引っ越してきた理由とかの話は過去にしたよね」
「うん、ハルくんを追って来たんだよね。白百合さんの事を見てわたしは、自分がハルくんの彼女じゃないって事に気がついたの」
「なら、一度考えてみて欲しいんだ。彼女は俺をわざわざ探し出して、そのうえ転校してきたけど、それは明らかに普通じゃないんだ」
「確かに、そう……かも?」
「それで、彼女はよく『ルリ姉と結衣は家族だから近くにいても排除しない』って事を言ってるから、これは裏を返せば『俺に近づく女の人は家族以外なら全員排除する』って意味でもあるんだ」
そうして、抱えている悩みを説明した後で俺は、結論に入る。
「それで、白百合さんは今、ルリ姉の事を俺と血の繋がった本物の姉だと勘違いしてる。だから、そうじゃないってことがバレたら、ルリ姉にどんな危害が加えられるかがわからない」
「……わたしは白百合さんの事はあんまり知らないけど、ハルくんの言う事を信じるよ」
「ありがとう。今は付き合えないけど、必ず結論は出すから」
そうして、ルリ姉とのいざこざは解決した……はずだった。
「じゃあ、ルリ姉。せっかくだし家まで送って行くよ」
「そう? じゃあ、お願いしようかな」
俺たちがそんな風に会話を終えた時、白百合さんが俺の背後から出てきた。
そして彼女は、俺に話しかけてくる。
「ハル様……こんばんは」
「白百合さん!? なんでここにいるの!?」
「ハル様の日常を見つめるのは、わたくしの幸せですから」
そうして、白百合さんは驚いている俺に向かって、言葉を続ける。
「ハル様はやはり、私のことをよく理解しておられるのですね」
「……何が言いたいの?」
「わたくし決めましたわ。ハル様の周りには、想定していた以上にメスが多そうですから、遠回りなどせず今ここで、全てに決着をつけますわ」
そう言いながら彼女は、ジリジリと近づいてきた。
すると、それと同時に手に持っていたスマホが震えて、結衣からのメッセージが画面に表示された。
:お兄、たすけて
それを受けて俺は、白百合さんに顔を戻しつつ、画面を見せた。
「結衣から連絡がきた。悪いんだけど、今は結衣を優先させて欲しい。これだけは譲れない」
「それは理由にはなりません。ハル様は今、ここで連れ帰ります。そして、わたくし以外の人間とは一生接触させません。妹さんの事も、数年経てば忘れましょう」
「それなら俺は今ここで自殺する。これは嘘じゃない、俺は本気だよ」
「……確かに、ハル様を日常から見ていたわたくしから見ても、本気の目ですわね。ハル様が居なくなっては意味がありませんわ。仕方ありません、今は妥協いたしましょう」
「ありがとう。でも、君から逃げるつもりはないから、一緒に着いてきてくれないかな」
「分かりましたわ」
そうして、無理矢理にでも会話に区切りをつけた後で俺は、ルリ姉へ話しかける。
「ルリ姉は……時間も時間だから今日は帰って。送っていけなくてごめん」
「ううん、わたしだって結衣ちゃんの力になりたいわ。一緒に行くよ」
「……了解、じゃあ、急いで戻ろうか」
そうして俺は、二人と一緒に家へと戻る事になった。
そして、家に戻るとそこにいたのはまさかの、俺と結衣の両親だった。
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あと2話で最終回です、是非お付き合い下さい!
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