第6話 残り物には懺悔がある

「ゥ恨み晴らサでェ……おくべキヵあ……」

 冷蔵庫の奥で見つけた見覚えのないタッパを開けば、悪意を煮凝ったような禍々しい黒い何かが鎮座していた。

 待て。冷蔵庫にあるということはこれは食べ物だ、食べ物だよな。なんで食べ物が喋るんだよ。

「百年の恨みィ……」

 その声には確かに怨嗟を放っていた。待って、何で恨まれてるの。冷蔵庫に放置したから? いつから。物も百年経てば妖に転じるという。いや百年前の物が冷蔵庫に入ってるはずないだろ。そして百年という単語で思い出す。

「蔵に百年物の梅干があったのよ~」

 たまに突然訪れる母ちゃんがそんな事を言ってたような。蔵? 確かに実家に蔵がある。

「俺じゃない。許して」

 そう口を開けばその黒いものはギュルんと縮まり、クエェと叫びながら弾丸のように口の中に飛び込んだ途端強烈な酸味と熟成の旨味、それから天国と地獄が一度に押し寄せるような苦痛と歓喜の波に気絶した。

 妖怪って、美味い。


noteのたらはかにさんのSSのイベントに参加させていただきました~。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

500字以下の奇妙なショートショート集 Tempp @ぷかぷか @Tempp

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ