第5話 ときめきビザ

「そろそろときめきビザの失効時期だよな」

「ときめきビザ?」

 課長の声に鸚鵡返しをした。

「何でもない!」

 予想外の拒絶に驚いた。俺もこの入管で十年は働いている。異星間交流が始まってからビザ取得要件は厳格になった。何せ文化の違う外宇宙との交流だ、お互い齟齬がないよう要件は厳格に定められている。俺が知らないビザがあるはずがない。けど課長は声を顰めた。葦に語りかける王様のように。

「お前昇進試験受けるんだってな。機密だが知りたい?」

 喉がゴクリとなった。本当に、あるのか? 気づけば小さく頷いていた。

「αケンタウリ星系の外交官ビザの一種なんだが……」

「親地球派ですね」

 地球に多大な技術供与をする星系で、厳重な守秘義務契約のもと毎年一人だけ外交官を送る。羨望の的で、だからときめきかと納得した。

「あれ、帰ってこないから入管で記録を抹消するんだ。他のビザと区別するために内々にそう呼んでる」

「何故です?」

「生贄ビザって呼ぶよりマシだろ?」


noteのたらはかにさんのSSのイベントに参加させていただきました~。

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