SS クリスマスイブ後編
「あ、文佳! ごめん、先に食べてるよ」
里内が言う。
「それはいいけどね。公衆の前でイチャつくのはやめなさい。高校生として自覚ある行動をしないと」
「わかってるわよ。すっかり生徒会の一員になっちゃって」
「生徒会とか関係無く、高校生として当然の――」
「文佳、そこまで言わなくていいだろ。みんな楽しんでるんだから」
ヒートアップしそうな上山を太陽が止めた。
「そ、そうね。まあ、太陽君に免じて許すわ。私たちもピザを買ってくるから」
そう言って、上山と太陽はピザの列に並んだ。
「おー、恐。文佳って生徒会入って余計に言葉がきつくなってない?」
上山に聞こえないように小さい声で里内が言う。
「確かにな。今はそれを止められるのは太陽だけって話だ。生徒会に入った経緯も俺たちは知ってるが、噂では真逆になってるぞ」
「え? どうなってるんだ?」
井端の話に俺は興味を持って聞いてしまう。
「会長が上山をスカウトしたかったけど、暴走したとき止められるやつが必要だから太陽を入れた、って話になってる」
「なるほど」
ほんとは会長が太陽をスカウトしに来て、付き合いだした上山もついでに入れたって感じなのにな。
そんな話をしているとピザを持った上山と太陽が席に戻ってきた。
「それにしても、ここ、うちの生徒多いわね。ベタベタしてハメを外しそうだし、後でパトロールしようかしら」
上山がなにやらぶつぶつ言っている。太陽は苦笑いだ。
「そういえば太陽。もう決めたのか?」
俺は気になっていることを聞いてみた。
「いや、まだだ」
「なんでだよ。チャンスだろ」
「そうだけど、いろいろあってな……」
そう言って上山を見る。上山は知らん顔だ。
「何の話?」
里内が聞いてきた。
「いや、まだ気が早いんだけど来年の生徒会長選挙に太陽が出るかどうかって話だ」
「えー! すごいじゃん」
決まりじゃ無いのでまだ里内と井端には話していなかったが、太陽は現生徒会長から次の生徒会長選挙に出ないか、という話をもちかけられていた。
「じゃあ、友達が生徒会長になるのか、そういうのは無かったから嬉しいなあ」
井端も言う。
「まだ出るとは決めてないぞ」
太陽が言った。
「え、なんで? 出ればいいじゃん。太陽君、人気あるし当選するんじゃないの?」
「そうなればいいけど、そんな簡単じゃない」
里内の言葉に太陽が言う。
「……そうかもなあ、簡単には当選できないかも」
井端も言った。
「なんでよ。対抗馬居る? あ、長月か」
「俺が出るわけ無いだろ」
里内がアホなことを言ったが、俺は生徒会に興味ないし当然会長選挙にも出ない。
「だったら対抗馬居ないんだし、当選でしょ」
「それならいいが、負ける勝負はしたくない」
「負ける? そんなことないって。なんか負ける要素ある? そんなの……あ……」
里内が気がついて黙った。他のみんなは気がついていることだ。場が静かになる。そこで上山が話し出した。
「……何よ。わかってるわよ。私でしょ。生徒会の嫌われ者だもん。こんな女が太陽君の彼女なもんだから太陽君が当選できない、って話でしょ」
「ち、違うよ、文佳。そんなこと思ってないし……」
「だったら、負ける要素って何よ! 私以外無いじゃない!」
上山が声を荒げた。まあ、確かにそうなんだけどな。上山はここ数ヶ月、派手に暴れ回っている。もちろん、生徒会のルールに従って、会長の意志に従い行動しているだけだが、いかんせん言葉や態度がきつい。上から目線の行動で敵もたくさん作ってしまった。
その上山文佳が太陽の彼女であることは誰でも知っている。もし、太陽が会長に当選すれば、上山の権力はさらに増すことは誰でも分かる。となると、それを望まないやつは太陽には投票しないだろう。
「……文佳。俺はお前が世界で一番大事だ。だから生徒会長選挙には出ないよ」
「太陽君……ごめんなさい。私のせいで……」
文佳が暗い顔でうつむいた。
「お前なあ、そこまで分かってるならなんで態度を改めないんだよ」
俺は我慢できずに言う。
「な、何よ! 何も知らないくせに」
「ああ、確かに俺は生徒会のことは分からない。でもなあ、お前が言うことは正論なんだろ?」
「そうよ。私はルールに則っていつも話してるわ」
「だったら、別に横暴にふるまわなくていいだろ。正義はお前にあるんなら堂々と余裕を持って相手を説得しろ。けんか腰になる必要ないだろ」
「そうだけど……だって、これが私だもん」
「だからそれを変えろって言ってるんだ。太陽のためだ。できるだろ?」
「……長月のくせに生意気ね。でも、太陽君のためなら何でも出来るわ。わかったわよ。態度を改める」
「……ほんとか?」
「ほんとよ! 見てなさい!」
そう言うと急に立ち上がり、俺の後ろの方に行く。見ると、うちの生徒の男女だ。まるでキスしようかというほど顔を近づけている。
「ちょっと、あなたたち!」
上山はそいつらに話しかけた。全然態度が変わってないけど……
「なんだ? って、生徒会の上山さんかよ……」
そいつらは突然の上山の登場にびびっている。だが、上山は笑顔で言った。
「……私たちと同じ高校生がそういうイチャイチャをするのは見てて恥ずかしいの。だから家でやってね」
「す、すみません!」
「いいのよ、わかってくれたら。これからも二人仲良くね」
上山はそのまま笑顔でそう言って俺たちのところに帰ってきた。
「……これでいいでしょ」
「まあ……それでいいよ」
なんか余計に恐い感じがするのは気のせいだろうか。
「うーん、それもいいけど、もっと文佳は生徒の気持ちになったほうがいいよ」
「どういうことよ」
里内の言葉に文佳が反発する。
「だから、文佳もこういうことしてみればいいのよ」
そう言って、里内は井端の腕に抱きついた。途端に上山が噛みつく。
「!! 公衆の前でそういう――」
「今の時代、このぐらいいいんだって。みんなやってるから」
「でも、生徒手帳には――」
「そういうのもアップデートしていかなきゃ。ほら、弥生もやってるでしょ」
気がついたら弥生が俺の腕に抱きついていた。それもかなりの密着モードでやわからいものが完全にくっついている。
「や、弥生まで!」
「文佳。私、いつも光輝とこうしてたいの」
「だからって――」
「ほら、私たちがこうやってるんだから、文佳もやらないと。太陽君、寂しそうだよ」
里内が煽る。上山が太陽を見ると太陽は腕を出してきた。
「……太陽君、して欲しいの?」
「もちろん」
「……仕方ないわね」
そう言って上山は太陽の腕に抱きついた。一度抱きつく出すと止まらなくなったのか、どんどん密着度を上げている。
「ほら、文佳もやれば出来るじゃ無い」
「……恥ずかしいわ」
「でも、気持ちいいでしょ。ほら、もっとくっついて」
「うん……」
上山がどんどん太陽に近づく。そんな上山の頬に太陽はキスをした。
「た、太陽君!」
「いいだろ。俺がしたいんだから」
「う、うん……」
「これで他の生徒に何も言えないね」
「う……クリスマスイブは特別なの!」
上山文佳の顔は見たことが無いぐらい赤くなっていた。
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(SS クリスマスイブ完)
※連載中「アリスとたっくん。ときどき黒猫 ~公園で偶然出会った女子に猫のなで方を教えたら~」
https://kakuyomu.jp/works/16818093087542087803
※連載中「 三つ編み眼鏡の文学少女好きな俺の前に理想の女子が現れた! と思ったけどなんか違う」
俺の周りの女子はみんな親友を好きになる、はずだった uruu @leapday
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