SS クリスマスイブ前編

(クリスマスに特別編を書きました)


 クリスマスイブのこの日。終業式が終わると教室の一角にみんなが集まった。みんなというのはもちろん俺・長月光輝と水崎弥生、そして井端厚師と里内葉子、さらに霜村太陽と上山文香のカップル3組だ。


「じゃあ、まずはクリスマスマーケットね」


 里内葉子が言う。


「うん」


 弥生が答えた。


「いいわね。私たちは生徒会の仕事があるし。終わったらすぐ合流するからそれまでは4人で楽しんで」


 上山文佳がうらめしそうに言う。上山文佳と霜村太陽はまだ生徒会の仕事が残っているので、すぐには行けない。すっかり、上山文佳も生徒会の仕事に慣れたようで、今では生徒会長・高山凛花の右腕として各所で恐れられているようだ。


「わかった。じゃあね」


 俺たち4人は上山と太陽を残して教室を出た。路面電車に乗ってクリスマスマーケットのある辛島町に向かう。その電車の中では弥生は俺の腕にしがみついていた。


「いつものことだけど、弥生はほんと長月にべったりね」


 里内さんが言う。里内さんは井端に抱きついたりしていない。普通に横に立っていた。


「だって光輝が横に居るんだもん。抱きつかないわけにはいかないでしょ」


「なんかそこに山があるから、みたいに言ってるけど」


「いいでしょ。教室では我慢してるんだから」


 つきあい始めて以来、弥生はすっかり俺のそばにいることが当たり前になった。だが、さすがに教室では自重するように里内や上山から言われているのだ。


「水崎さん、クラスのアイドルだったのになあ。急に長月にベタベタしはじめるからショック受けた男子がたくさんいたよ」


 井端が言う。


「知らないよ、そんなの」


 弥生はいつもそう言うが、俺も他の男子から恨まれたり、からかわれたりと、弥生の人気っぷりはこの何ヶ月かで身にしみて分かった。


「まあ、でも弥生はそういう風に長月にくっついていた方がいいかもね」


 里内が言う。


「え、なんで?」


「だって最近、長月が人気みたいなのよね。昔は太陽君が一番人気って感じだったのに、弥生が長月を選んだもんだから、急にみんな長月が格好いいとか言い出しちゃって」


「ええ!? そうなの?」


「そうよ。弥生にそういう声は入ってこないだろうけどね」


「うう……絶対、誰にも渡さないんだから」


 弥生がさらに俺の腕に抱きつく。もちろん、既に当たっていた柔らかいものも、さらにぎゅっと俺の腕に当たった。


「まあ、本気で奪おうとしている子はいないみたいだから安心して。あこがれみたいなもんよ。今では一番人気のカップルだからね」


 里内が言う。


「え? そうかな。太陽君と文佳の方が有名じゃない?」


「あー、知名度ではそうかもね。でも、あこがれのカップルとはちょっと違うから。あれはわがままな姫とそれに従う騎士、って感じだから


「アハハ、そうだよなあ」


 里内の言葉に井端が笑った。確かに優しい太陽は上山の言うことに振り回されてばかりになっている。このままじゃまずいと俺も思っているけど。


 そんな話をしていると電車は辛島町に到着した。そこで降りるとすごい人だ。やはりクリスマスイブのクリスマスマーケットの賑わいはエグい。


「弥生、はぐれないようにしろよ」


「うん、大丈夫」


 まあ、腕に抱きついてる弥生は大丈夫だな。ふと見ると、井端も里内の手を握っていた。


 俺たちは入り口そばにあるブースから見て行く。


「あ、猫のグッズある!」


「上山が喜びそうだな」


 クリスマスのグッズばかりかと思ったらこんなのも売ってるんだな。さらに瓶詰めのケーキやドイツのシュトーレン、いちごのケーキなど美味しそうなものも多い。


「腹減ったな」


 井端が言う。


「文佳たちが来る前にもう食べちゃう?」


「そうだな」


 里内の提案に俺も賛成した。すぐそばにピザを売っているので俺たちはそれを買う。そして、なんとか空いているテーブルを探して座った。


「すぐ食べないと冷たくなるよ」


 里内がピザにかじりつく。俺たちもすぐに食べ出した。ふと弥生を見ると寒そうにしている。俺はマフラーを膝にかけてやった。


「光輝、大丈夫だよ」


「いや、女子はスカートだからな。寒いだろ」


「う、うん……ありがと」


 弥生の頬が一段と赤くなった。


「うわ、弥生、まだそんなことで照れるんだ」


 里内が言う。


「だって……光輝が優しくしてくれるから」


「もう付き合って何ヶ月経つのよ。それぐらい当然、みたいな顔するのが普通じゃ無いの?」


「当然じゃ無いよ。光輝の優しさにいつもドキドキしてる」


 そう言って下を向く。


「まあ、弥生はそういう子だよね」


 里内が言った。


「だよなあ。だから、今でも男子人気衰えてないし」


「え、そうなのか?」


 井端の言葉に俺は驚いた。弥生はクラスのアイドルだったが、俺と付き合いだしてからは人気は衰えたと聞いていたが……


「まあな。最初は長月にベタベタしてたから男子人気も落ちたけど、それも自重しただろ。で、恋する乙女の表情を見せはじめてから、人気再燃ってやつよ」


「マジかよ……」


「最近はなんかエロいって言われてたぞ」


「エ、エロい!?」


 弥生が驚いて言う。


「確かにね。女の色気がでてきてるもんなあ、弥生」


「そ、そうかな……」


「うん。私なんて全然変わらないねって言われちゃってるのに」


 里内が文句を言う。


「葉子は教室とは違う顔を俺にだけ見せてくれるから。それでいいんだよ」


「厚師……」


 二人が見つめ合う。確かに今の里内の顔は教室では見られないな。色気を感じる。なんて思いながら里内を見ていた俺の顔を弥生がつかむ。自分を見るように顔の向きを変えられた。


「光輝は私だけを見てよね」


「わ、わかってるって」


「浮気はだめよ」


 にっこりと弥生は笑った。……ちょっとヤンデレ気質があるんだよなあ、弥生……


「なにダブルでイチャついてるのよ」


 そこに聞き慣れた声が響く。女王様の登場だ。上山文佳が太陽を連れて現れた。



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(後編へ続きます)



※連載中「アリスとたっくん。ときどき黒猫 ~公園で偶然出会った女子に猫のなで方を教えたら~」

https://kakuyomu.jp/works/16818093087542087803


※連載中「 三つ編み眼鏡の文学少女好きな俺の前に理想の女子が現れた! と思ったけどなんか違う」

https://kakuyomu.jp/works/16818093090433111285

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