小話:プリンツ・オイゲン一代記:5
激レアカード、未来の「欧州の影の皇帝」を、知らぬうちに、無料で手に入れることに成功した、神聖ローマ帝国皇帝レオポルト1世は、オイゲンと同じく、もともとは、兄のフェルディナント4世が家業? を継いで、自分は、聖職者になる予定であったので、皇帝になってからも、実に信心深く、どのくらい信心深いかと言えば「堅苦しすぎて嫌になるだがや!」陰でバチカンの特使が、ブツクサ言うくらいであった。
そして、若きオイゲンに「外見なんて気にするな!」そう言ったのは、自身もなかなかに恵まれない風貌を、なんとか風変りな衣装で、ごまかしていたからかもしれない。
しかしながら、彼は、真面目で勤勉な男であった。
それであっても、いや、そんな性格であるからこそ、支配者としての資質を持ち合わせることができなかった。
その最大かつ致命的な欠点は、決して拭い去ることはできず、教会と貴族の協力の元、なんとかかんとか、必死に帝国を維持していた。
彼には、神の試練とばかりに、無理難題ばかりが、次々と降りかかり、なんとか取り繕っていたフランスとの関係も、スペイン最後のハプスブルク家当主、カルロス2世が亡くなってから、悪化の一途をたどり、なんだかんだあって、
もう、なにもかも、悪化する一方、まさかまさかの転落劇……。
しかし、そこに、信心深い皇帝への、神の思し召しか、ようやく試練から抜け出すきざし、大転換の空気が流れ込む。
そしてそれらの協定や同盟関係は、1683年の夏、とうとうオスマントルコにウィーンが包囲されたときに、オーストリアと皇帝を救うのである。
そのとき、オイゲンは、どうしていたかといえば、彼の前には、オスマントルコとの「5年戦争」が待ち受けていた。
翌年にはポーランド、ヴェネチアと皇帝の間に、「対トルコ神聖同盟」が結ばれていた。
その頃のオイゲンといえば、まだまだ中間管理職的立場であったので、前線で、塹壕の中で、はたまた、どこかの戦場で、びしょ濡れになったり、泥水に浸して、なんとかふやかした「カチカチのパン」を咥えながら、戦場を走り回ったりしていたが、なんとか、「プリンツ・コンティ」とも再会し、その後、長きに渡り、もうひとりの親友であり右腕ともなる、フランス貴族ながら、皇帝に仕えたために、
このときの直属の上級司令官が、フランツの祖父、のちに英雄とたたえられ、マリア・テレジアの時代にも語り継がれるロートリンゲン公、「カール・フォン・ロートリンゲン」である。
彼らは、1684年の夏、ハンガリーにできていたオスマントルコの拠点、ブダにいたるドナウ川左岸全体を支配下におくと、勢いに乗って、約40キロほど北西に当たるエステルゴムで、10万の兵を擁して、オスマントルコを撃破していた。
***
【時代はマリア・テレジアが六歳の頃に戻る】
「プリンツ・コンティ! でも、コメルシー公子、シャルル・フランソワ……? そんな人は知らないわ。是非会いたいけれど……あと、フランツのお祖父さま、当時のロートリンゲン公は、本当にすごかったのね!」
「いやいや、コメルシー公子は、スペイン継承戦争で、戦死しておりますので、それは無理な話ですよ……あと、ロートリンゲン公、ここだけの話ですが、実は、大失敗もしておりましたけどね。まあ、それは、なかったことになっておりますな。それでは、また次回!」
「ロートリンゲン公……そうなのね、英雄にも失敗はあったのね。コメルシー公子の後継ぎは? 息子とか娘は、まだオーストリアにいるの?」
「いやいや、彼は生涯独身で、従兄弟も戦死しております……甥がいて、家族がある自分は幸運ですよ……」
「そうね、オイゲン公には、素敵な家族がいるんだもの!……コメルシー公子は残念ね……また、続きを教えてね!」
「はい、大公女殿下……」
オイゲン公は、そう言うと、再び窓からロープを伝って、姿を消していた。
「やっぱり、アルフォンソのことは、少し心配というか、心配に心配を重ねてもいいくらいね……しっかり、がっつり、わたしのモノにしておかなきゃ!」
オイゲン公が消えてから、マリア・テレジアは、ベッドに入らず、秘められた最後のスペイン・ハプスブルク家の跡継ぎであった「アルフォンソ」に、いつもの小まめな、それでいて「気遣い溢れる幼い大公女からのお便り」を書いていた。
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