プリンツ・オイゲン一代記:4
パリをあとにしてから約一か月、アルマンと別れたオイゲンは、ドイツ南東部、バイエルンのパッサウにたどり着く。彼は、従兄弟のバーデン辺境伯ツテをたどり、彼の友人をたずねていた。
バーデン辺境伯はオーストリアの帝国軍事参議会議長、つまりこのときは、未来のオイゲンの地位にあり、神聖ローマ帝国皇帝でありオーストリア大公、レオポルト一世の宮廷において、反フランス派の指導者でもあった。
この派閥には皇帝の信頼が非常に厚いスペイン大使のボルゴマネーロも参加しており、この二人がオイゲンの実質的なオーストリアでの庇護者になってくれる予定で、その証拠にボルゴマネーロはオイゲンの希望通り、すぐに皇帝との面会を取り付けてくれた。
「すぐに皇帝陛下へのお目通り! やった! ありがとう従兄弟! そしてその仲間の人!」
オイゲンは大いに喜んだが一抹の不安も抱えていた。フランス軍入隊希望のときの門前払い事件である……。
「せめて、もう少しかかとの高い靴を用意して、少しでも身長が高く見えた方がいいのかなぁ?」
「どうかしたの?」
「あのそれが……かくかくしかじかで……」
「なんだなんだそんなこと気にするなよ! あ、でもさ、フランス系よりも、うちはイタリア系の方が断然聞こえがいいから、イタリアの血筋を前面的にぐっと前に押し出した方がいいと思うよ!」
「イタリア、イタリア!……よし、両親はイタリア系! 大丈夫! 今度こそ大丈夫!」
「その勢いだオイゲン!」
オイゲンと皇帝との謁見は順調そのもので、手持ちの財産といえば、コンティが最後にくれた餞別、残り僅かになってしまった路銀と、質に入れている自身の指輪で用立てた小銭だったので、実は、心も懐もかなり心細かったが、なんとかなりそうであった。
「うんうん、大いに期待しているよ! 顔!? 身長!? そんなもん気にするな! うちは見栄っ張りのフランスとは違って実力主義だ! 頑張ってくれたまえ!」
「陛下……一生ついて行きます!!」
オイゲンにお目通りしてくれた皇帝は、そんな優しい言葉をかけてくれ、オイゲンは大いに感動したものである。しかしながら、あとで従兄弟とかわした言葉で、その感動はすぐに消えかけていた。
「え? ボランティア……?」
「いやほら、いま皇帝軍は赤字も赤字、絶賛金欠中でさ……お賃金を出す余裕がね……」
「でも、それじゃあ、どうやって食べて行ったらいいの!? もう指輪も質に入れちゃったのに!?」
「う――ん、わたしがなんとかする……」
従兄弟のバーデン辺境伯は、とりあえず彼の元で従軍することになったオイゲンがウィーン解放のときの活躍で、それから数か月後に竜騎兵の連隊長になって、ひとまずの「お賃金」が出るまで、なにかと面倒をみてくれ、質屋から指輪も引き取ってきてくれた。
「今日もパンと豆のスープか……修道院で慣れてはいるけど、いいかげん嫌になるなぁ、早く活躍しなきゃ……」
【時代はマリア・テレジアが六歳の頃に戻る】
「ボ、ボランティア……なんだか本当にごめんなさい……ウチときたらそんな安月給以下で……」
「いやいや、すぐに才能を発揮して竜騎兵の連隊長になりましたので、大丈夫ですよ! 鉄は熱いうちに打て! そう言いますからな! それではまた次回!」
「ものすごいレアカード(オイゲン公)をタダで手に入れた強運……さすがハプスブルク……」
「なにか言いましたかな?」
「う、ううん! なんでもないわ! おやすみなさい! また、続きを教えてね!」
「はい、大公女殿下……」
オイゲン公はそう言うと、再び窓からロープを伝って姿を消していた。
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