第24話 夢・これからのこと
目を開けると、部屋の中は薄い墨色に沈んでいた。窓の外がうっすらと青くなっている。
「ん……?」
いつの間にか、少し寝てしまっていたようだ。僕が頭を持ち上げると、ジャルガルの手が僕を抱き寄せた。触れ合う肌の感触に、まだ寝る前と同じ、耳の生えた人の姿なのだと気づいて尻尾を振る。
しん、とした空気に耳を回す。遠くで鳥の鳴く声がした以外、辺りは草木まで息を潜めたようにしんとしている。ひやりとした夜の空気が心地良い。
「……平気か、ノカイ?」
ジャルガルの手が、僕の首の後ろを軽く揉んだ。ずっと後ろから抱かれていたから気づかなかったけれど、その腕には大きな傷跡が走っている。
僕のせいでついてしまった、多分、もう一生消えない傷。
「ん……うん」
少しだけ苦しい気持ちを抱えながら頷く。ちょっと怠いし、お尻の――ジャルガルが入ってきた辺りはまだじんじんしている。でも、それぐらいだ。
昨晩の跡が残っているようで、今はむしろそれが嬉しい。鼻先を擦り付けると、ジャルガルが小さくくしゃみをした。寒いのかな、と思った瞬間、僕の背中から飛び出した羽がジャルガルの体を覆うように伸びていた。
「んだ、これ……犬になったんじゃねえのかよ」
小さく笑ったジャルガルが、僕の羽を広げる。
「えっとね……わかんない」
くすくすと僕も笑う。
――きっと、ローの力だ。
僕の、たった一人の馭者が、最後に残してくれた祝福。
僕が、自分の好きに生きられるように。
「ジャルガル、あのね」
ジャルガルの耳に口を寄せて、僕は小さく囁いた。
ささやかな、でも、犬のままじゃできなかった僕の夢。
それを聞いたジャルガルは、「しゃあねえな」と笑って起き上がった。のそのそと服を着るジャルガルの横で大きく伸びをして、羽と尻尾、それから爪を伸ばす。窓の格子に手をかけると、硬いはずの鉄は溶けた飴のようにぐにゃりと曲がった。
ピンと耳を立てると、小さく耳飾りが揺れる。
「行こ、ジャルガル」
「おう」
振り向いて体をかがめ、ジャルガルを背中に乗せる。たてがみの上に座ったジャルガルが僕の角を握ったのを確認して、窓枠に足をかける。
飛び出した空には、まだ星が瞬いていた。
遠くへ。
【終】
鹵獲キマイラ愛に翔べ @nikkyokyo
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