駄菓子神

仙 岳美

駄菓子神


 足元に一匹の蝉が落ちていた……


 そして夏は蝉が鳴く、俺は、その当たり前の事に感情が高まり、空を見上げ、その複雑に入り乱れた感情を歌った。



夏の風

 やがて向かうは

     核を超え

      蝉絶滅し

       時共に嗚呼……


 

 その日、二十二で社会人に成った俺は仕事でミスをし、それが思っていたより大事に成り、自分のミスは客の客に迄も迷惑をかけ、最後には、その客の家族迄にも間接的に迷惑をかける事を上司に諭され、仕事の恐らしさを知った、そして自分の認識の甘さを知り凹んだ。


 そんな怒涛の戦後処理の様な週も終わり、その週の休みの土曜日、俺は朝から部屋で仕事の失敗を心に引きずり悶々としていた、そして月曜日に職場に行く事を考えては溜め息を着き、何か子供の時に戻りたいと思った時、神社と駄菓子屋を思い出し、そして子供の頃、その駄菓子屋でよく見かけた、ある女性の事を思い出していた。その女性は大人だった、そう大人なのに、駄菓子を食べていた。

今思うと、おそらく仕事は、していなかった人だったと思える。

その人が口にしている駄菓子は、ある程度種類が決まっていた。

アイスは、チョコとバニラのハーフカップ。

有名な長い棒状な十円のスナック菓子はチーズかサラミ味。

そしてチョロいチョコ。

その他には、小さいカップメンなどもたまに食べていた。

その駄菓子麺をバリバリと音をさせて食べていた事から三分待っていなかった様に今は思える。

そんな彼女は、まだあの駄菓子屋にいるのだろうか?


……いった。


《ブツブツ……凶を引いた今日だけにプップ………ブツブツ…》


カウンター横に何故か一つだけ置かれていたドーナツ型の背もたれの無い丸椅子に変わらずに座り、何やらストーリーな独り言を呟きながらカップアイスを食べていた。

(ちなみ前はひとり事は言っていなかった……なにかが進行したのかもしれない……)

その手にしているアイスは代わらずにチョコとバニラのハーフのやつだった。

そんな彼女を子供の時は、見て見ぬふりをしていたが、大人になった今は少し興味が湧き、「こんにちは」と挨拶をすると。

「こんにちは、元気かね?」

「え、え……まあ元気です」

「そうかね」

「……」

そう一区切りの会話を終えると、その人は、うつ向き、またアイスを突っ着き、黙ってしまった。

あまり会話はしない人らしいと俺は思い、時繋ぎにとりあえず久しぶりに駄菓子を買う事にした。

ラインアップは、ほぼ変わっていなかった、それは時が止まっている様に思え、時を今進めたくない心境の俺には、ありがたく感じホッとする事ができた。


 ホッとすると当時話題を呼んだ、棒の先に吉などの文字が描かれている、おみくじアイスを俺は思いだした。

(この後に子供の頃よく遊んだ神社に行こうと思っていたからなのかも知れない)

そのアイスは[君は引けるか大凶アイス]と言う商品名で何故か数多の神々の取決めに抗うかの様に、凶は、一本当たりの大吉を凌ぎ、二本当たりと、変わったルールだった。そしてこの商品が常識を一回は覆し、考えて見る事も有りと言う、現在の社会的風習を作りあげてしまった様に思えた。このアイスが第九次世界大戦の引き金になったと言う経済評論家もいた、補足として凶が出る確率は宝くじの一等並と言われていた。今だにネットの写真でしかその凶は見た事がない。そしてこのアイスのもっとも世にウケた理由であり素晴らし所は、中吉二本・小吉三本・吉四本・末吉五本でも一本当たりと、完全なハズレは無く、誰も見捨てない精神の還元率の高さだった。

更に、袋を二十枚でも一本交換と地球にも優しかった。

ただ大凶は、キャッチフレーズだけで元々存在しなかった様である。

そこは経営戦略と考えれば大人になった今となっては、許せる範囲である。

 

 少しアイスの説明が長くなってしまったが、そんな訳で、アイスボックスの中を探ると、まだ売っていたので、その中から少し考え選んだアイスに手をつけると。

「それ当たり持ってるよ」

と先程会話した女性は唐突に言った。

「えっ」

「あげるよ」

と、ぶら下げているポーチから当たり棒を取り出し、俺に差し出して来た。

「いいんですか?」

「うん、二回連続で当ったちゃたからさ」

「でも悪いですよ」

「いいから、いいから」

「……」

と俺はそれ以上断るのも失礼にあたると思い、消費税分は行為に甘えるつもりで、百円をその人に渡すと、その人は何も言わずに黙って、その百円を受け取ってくれた、その時、俺は、何かツマラナイ憑き物が堕ちた気がした。

そして再び、アイスを選び直し、そのアイスを食べ進めると、当たりの証である大吉の文字が見えた。

当たった事は素直に嬉しかった。

ただすぐに、ある違和感を感じた、その違和感は、当たり棒に描かれた、その文字が明朝体からゴシック体に代わり、棒の触り心地もザラザラからツルツルに代わっていた事だった、それに加え、俺がこのアイスを買う事を何故、女性はわかったのか? 俺はアイスに手をつけただけで、アイスボックスから引き出していない。

気づくと、その女性はもう帰ってしまったのか、もうその場にはいなかった……


 俺はふと当り棒は交換せずにお守りにしようと思い、ハンカチで水気を拭き取ると札入れに挟み、予定通り、神社へ向かった。

着いた神社の境内では、その日も変わらずに、無数の蝉達が鳴いてくれていた……


命終えし

 空蝉拾い

  胸に当て

   重ねる我は

     ひと歌歌う


閉し落ち

  静寂成りた

     心世界

      助け呼び覚ます

          懐か蝉声



 そう歌い終わると、途中から誰かがハモっていってくれた気がしてならなかった。

    

   

[完]

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駄菓子神 仙 岳美 @ooyama1252takemi

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