その質問の意図は?

 ※※


 このエピソードの前に、阿須那のスピンオフ――


【短編4話完結】モブな私の、初恋の虹~必ず、また会える~

 https://kakuyomu.jp/works/16818622174673382310/episodes/16818792436109731834


 があります。

 読んでも読まなくても、繋がっては行きますが、

 阿須那の揺らめく気持ちをより理解できると思いますので、

 もしよろしければぜひ、読んでください。


 作者からでした。


 ※※



 ばったりと阿須那と会ったと報告が入っていた。


 江崎君も図書館に本を返した帰りにブラブラ歩いていたら雨が降って来て、傘を指して歩いていたら走って追い抜いていく女の子がいて、その後店舗の軒先の下に入り込んだその子が阿須那だと気が付いたらしい。


 突然の雨に降られて濡れまくっていたからそのまま傘を貸してあげて江崎君は近いからと走って家まで帰ったそうだ。


 ――どれだけいい男なの! そういえば表に見たことがない折り畳み傘があったなあ。あれがそうかあ。


 本当に今日健やかに角谷姉妹が過ごせているのは江崎様様のおかげでございます。ここに平に感謝申し上げますと言っても過言ではない。


 今日は美容室に行く前にコンビニのイートインコーナーで一人自習。


 美容室に行っている間に世間はえらい雨に。


 安いなあと思いきや新人に切らせるということで内心おっかなびっくりだったけど、それなりにうまく仕上がったから問題なし。


 家に帰って来てお風呂に入ってドライヤーで髪を乾かした後、ベッドでスマホを見ていたら江崎君からさっきの連絡が入った。


 この時間帯に彼からメッセージアプリが来ることは今までなかった。


 本当はいっぱい欲しいところだけど、お互い勉強をしていては邪魔になるから悪い、というのがある。


 だから今入ったその連絡もどことなく報告式なのが多分気遣い。あるいは本当に不慣れなのか……だとしたら凄く可愛く思える。


 今日は阿須那とは、帰ってくる時間帯が違ったから、晩御飯も一緒ではなかった。


 そのことに違和感はない。


 別に私が食べているからって阿須那が横に来ないとおかしいこともなんともない。


 けど今日は家にいるのかな?って思うぐらい全然部屋から出て来ない。


 何か大学で大変な宿題でもあるのだろうか。楽勝だと言っていたけど多分教授側が本気になれば私等より遥かにレベルの高いことをしているだろうから大変だろうなとは思う。


 そんなことを思っていると、ノックもせずに扉が音を立てて開かれた。当然――阿須那である。


 ただいつもの阿須那ではない。「はあ……」と溜息をついて浮かない顔をして私の寝っ転がっている横に、同じ頭の向きで、うつ伏せの私に対して仰向けに寝転がってくる。


「おーい、どうした……っておい」


 元気がないなあと思いきや、いきなり私のお尻をぐいぐいと鷲掴みにして揉み上げてくる。


「いいケツしてんなねーちゃんよー」

「ちょっと……千円いただきます」

「それ今日の美容室代の足し?」

「うう……当たり」


 当たっている――美容室代はもっとしたけど、ちょっとでも浮かしたいセコイ考えが金額をリアルにさせてしまった。


 阿須那とこういうスキンシップはちょくちょくある。私の色々大きなところが阿須那はおもしろいみたいでよく触ってくる。


 逆に私は阿須那をよくくすぐる。阿須那は敏感だから。すぐにこそばゆがりはるから……って大阪弁。くすぐったがるから。


「今日、江崎さんにばったり会ったよ」

「――うん、さっきメッセージが入った」


「あ、そうなんだ。傘レンタルしちゃって。悪いんだけど明日返しておいて欲しい」

「みたいだね。良かったやん。返却の件はオッケーよ」


「それが笑わす話でね……すっごい降られてビシャビシャになったの。それでダッシュで阿部野の旧商店街の一軒だけテント出している軒下に入ったんよ」


「うん」


「そして江崎君が親切に傘貸してくれて……さして歩きだしたら止んでいて空に虹がかかってんの。バカみたい」


「アハハハハ、こないだそういえば夜にかかる虹を江崎君と見たんだ。ムーンボウって言ってね……」


「私、バカみたい……」


「あれ? 阿須那?」


 会話が一瞬びっくりするぐらい噛み合わなかったので、ふと横を見やると、大きな欠伸をしていた。ハッとしたようになって、


「え、あ、え? お姉ちゃん何?」

「あ、いや……」


 阿須那が大欠伸の最中に私が見てきたのでびっくりさせてしまったようだ。


 質問返しをしてきたので思わず押し黙る。


 その私を見てはにかんでニヤリと笑う。特に何も問題は無さそう……たまたまボーッとしただけなのだろう。


 きっと阿須那の周辺では色んなことが劇的に変化して行っているはず。それは阿須那にも影響していて、阿須那も寒天方式で押し出されるように、その場に踏みとどまっていたくても変わらざるを得ない状況になっていく。私が経験したように必ず。


 だからいっぱい色々考えすぎて煮詰まっているのかなと。


「あのさ、お姉ちゃん」

「うん?」


「江崎さんとは……友達なんだよね?」


 別に深く考えなかった。今の阿須那にはシンプルな回答の方が良い。もうちょっとしたら『実は……』という胸の内を明かしてもいい。


 まだ阿須那には分かりにくいだろうし、自分のことで精一杯だろうから。普通のことを普通に答えるまでだ。それ以上でもそれ以下にするつもりもなく、そのままで。


「うん、そうだよ」

「そう……なんだよね」


 でも一応、自分の中で友達では収拾がつかない想いがあることを小出しにはしておく。


「でも特別な存在ではあるかな……友達は友達、だけどね」


「……………………」


 しばらくの沈黙が続く。


 ――というか……なぜ阿須那がそんな質問を?


 もう一度横を見たら――ああ、眠っている。


 心地よさそうな寝息を立てて眠っている顔はホントにあどけなくて、昔からずっと私の傍にいる、よく知っている阿須那。


 まあいつかは誰かのものになって、女性になって人生を歩んで行くんでしょうけど、今のところ、やっぱり阿須那は私の阿須那だ。


 そう思うと嬉しくなって、私がしたかったつまらない質問のことなど忘れてしまって、今日はこのまま昔のように添い寝するとしよう。

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