【簿記会ではありません】原価が分かる不思議な呪文
吉山先生が今日は何度も不思議な呪文を唱えていた。
確かその呪文は──復唱してみる。
「し~こいこいし~……し~こいこいし~」
「……亜香里、それ子供におしっこ促すやつ」
「……えっ? あれ? そうやったかな?」
「そうやったかな、ちゃう……」
茉優に突っ込まれて愕然とすると同時に周囲はドッとウケる。別にウケ狙ったわけじゃないから不服の方が『大なり』だ。
「俺ここで『し~』ってしようかと思ったわ」
「やめてくれ、誰が掃除するねん」
楽家君がさらに悪ノリをしたところで、彼の友達がまた突っ込みを入れる。
この頃になると検定試験前にもなってきているので、居残り勉強組が多くなった。
最初は私と江崎君しかいなかったのが、今は茉優、増子さん、矢野さん、楽家君とその友達の安本君。
今の私のグループだけでこれだけいる。
他にも複数の集合体ができていて大方クラスの三分の二はどこかのグループに所属して授業が終わった後も居残りで勉強をしていて、分からないところを相談し合って復習している。
──やっぱりスパルタ詰め込み式で有名な専門学校に自ら身を投じる覚悟のある子たちだ。勉学意識は高い。
もうすでに落ちこぼれている子もいるけど、それでも居残って何とかしようという気がある。
増子さん、矢野さんがそうだ──最初私ですら『ちょっとこの子ら大丈夫?』って思うレベルだったけど、江崎君と楽家君のアドバイスで見る見るうちに追いついてきた。
「らっく、おもしろーい」
矢野さんのちょっと惹きつけるような言い方。
「角谷さん天然?」
軽く無視して私に振る。
『天然ボケか?』という意味だ。『天然』かもしれないけど……
「亜香里は天然かなあ。朝に江崎君と私が歩いていると後ろから来てて、江崎君が振り向いて『おはよう』って言ったときもめっちゃリアクション、変やったもんなあ」
私への質問を茉優が横取りして、変な誤解を混ぜて楽家君に返した。
「ちゃう! あれは驚いたの!」
「『ビッ!』かなんかそんなん言ったよね」
「『ビッ』……って、ブザーじゃないんだから……」
私の真剣な返しに、周囲から失笑が漏れる。
「もう、茉優! 言わんといてよ! あれは突然空気を吸い込んだか吐いたかでおかしな音が漏れたの!」
「ごめんごめん、分かった分かった」
「早朝、王子と通学かあ」
「早朝王子?」
「うん、早朝王子」
楽家君と安本君が最近江崎君のあだ名を『王子』と呼んでいる。
普通に『江崎君』と言う時も多いが、不意に『王子』と──
確かにそのあだ名は合っているし、本人は『王子じゃないよ』と否定しているが、『王子』という言葉が飛べば、茉優も増子さんも矢野さんも普通にニンマリして『うんうん』と頷いている。
『あんなの違うよ』と否定されないところが凄い。
あと──早朝王子って言われたらなんだか『企画もののお笑い』みたいじゃない?
『早朝バズーカ』と同じに聞こえるじゃない。
某テレビ局でやっていた昔の伝説的お笑い番組の。今じゃあ絶対できないように危険な企画ばっかりやっていた中の一つの……
たまにお父さんが昔のお笑いはこんなに凄かったって動画で見せてくれるけど、今の私たち世代でも吹き出して笑ってしまう。
でもこんなことを『早朝バズーカ』と駆け合わせて妄想してしまう……
朝、目覚めると横に江崎君が寝ていたら……私は『早朝バズーカ』で起こされた級の驚愕と……爆笑してくれているお茶の間を想像して……ではなく、おそらくこの時間より前に発生していたであろうことを想像して──おいしい……♡
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