【短編4話完結】モブな私の、初恋の虹~必ず、また会える~
木村サイダー
第1話 1/4 ──それって本当なの?
とある夕方……
ちょっと早い気がするけど最近蒸し蒸しとしてきた。私はそんなに体力が無いから授業が五限中四限あって資料や教科書が多いとなかなかキツイ。
そしてこの鬱陶しい天気。スカッとしない感じ……スカッとしない。
――モヤモヤしちゃうんだよなあ……
天気のせい、リュックが重いせい、蒸し蒸しと湿気ていてそれでいてあまり風が吹いていないせい。そして、今歩いている天王寺の地下道に人が多いせい。いっぱい色んな『〇〇のせい』はあるけれど、とどのつまりは『そう感じている自分のせい』なんだ。
ようするに感じ方、捕らえ方。善に考えるか悪に考えるか……そして天気にしろ、荷物が重たいことにしろ、蒸し蒸しすることにしろ、天王寺の地下に人が多いことにしろ、本当に鬱陶しいんだけど、なぜかモヤモヤすることに関しては……鬱陶しくなかった。別物だった。
それなりに話をする子たちもできた。ただ何か違う……例えるならユニゾン感がない。
以前は学生会のメンバーで会長を中心に何かをやるんだ!という目標があって、そこに一致団結して役割を担い、それぞれの個性を発揮していた。
野球のようなものかなって思う。ショートはショートを守る人の個性があり、キャッチャーはキャッチャーの個性がある。
そしてこの個性を集めて何か一つ目標に向かって全力を尽くす。それがユニゾン感。
まだ私の歴が浅いから分かり切ったようなものの味方は決してするつもりはないが、大学というところは『個』ばかりだ。集まりがない。
一人一人の『個』がメインで誰かと何かをしようとするところが感じられない。部活に入れば何かしらの目標に向かって一体感があると思うが、あいにくまだ良いなあと思う情報には出くわせていない。
結局どれがいいか結局分からない。体育系となると、そもそも運動音痴だし、ちょっといきなりパッと出の私では入れないぐらいレベルの高い部活だったり、サークルとなると噂だけが先行してしまって『あそこのサークルは実は……』みたいなことを聞いてしまうと足が進まない。
また運も悪かったのか、一度覗いてみようと思って廊下を歩いていた時、サークルの部室かその隣の部屋から顔の見えない男子たちの声だけが数名分聞こえた。
『昨日あの胸のでっけー子とヤッたわ』
『マジ最高じゃん』
『新人教育乙っす』
『今度俺にも回してくれや』
――なんかやべぇ。お姉ちゃんの付き合っていた男たちの世界観やんか……
こんなワードが飛び出してくる場所の、例え隣の部室であったとしても危険極まりないところに、一分一秒居たくなかった。足音を立てずに即効で逃げてきた。
実際にすでにもう合コンというのをやっている女の子もいる。こないだ一緒にランチを複数人で食べた。私はそこに混ぜてもらった程度。
そこまであの子たちと気が合うとも思えなかったけど、何かその時の流れの中でそうなった。
話す内容は合コン、マッチングアプリ……恋愛がしたくないわけじゃないし興味もある。
けど、何か自分のなかで『それ単体でしたい』という気持ちが今のところない。
何かユニゾン感のある活動の中で、素敵な誰かと出会い、恋愛になって行く。そういうのが自分の中の理想である。
――だから、あんまり話していておもしろいとは思わなかった。
『アプリ入れなよ』って言われたけど『そうだね……今晩やってみようかなあ』ぐらいで逃げた。
私達の年齢なら一日で三十人ぐらいマッチングするらしい。つまり一日で三十人、二日で六十人あなたに興味があります。だからお話しませんか?ってくるわけだ。
『そんなことある?』って思う。嬉しそうにキャハキャハ言いながら、見せあって男の選別を行っている。
条件の良い順に降順にノートにまとめている子もいる。ダメだったら線を引いて消す。何かの立候補者選びのようだ。多分本当に楽しいんだと思う。
チヤホヤされたような、自分でモテるんだ、凄いんだって感覚を味わえて有頂天になるんだ。けど思うんだけど……お姉ちゃん見ていた時と同じ事を思うんだけど。
――それって本当なの?
って。まずそのモテている感覚って本当なの?って思う。だって学生時代はそんなにモテなかったよね。
モテるお姉ちゃんとかモテる友達を横目に見て、あ、やっぱりそっち行ったなあ、だった。そんなに自分が恋愛物語の中心になることなどなかった。
それがアプリを登録して自分という人間が、とある市場に出回ったかと思えば競りにかけられたように、次々とマッチングという名の入札が行われていく。
そこに本当に『私のことに興味がある』ということが存在しているのだろうか。若い女、というだけの価値に群がってきているだけなんじゃないだろうか、だとしたら……
――きっと身体だけが欲しい。それだけ。
それは彼女らも薄々分かっているんだと思う。その中で自分に本当の愛を与えてくれる人を選ぶからというのが建前であり、真実なんだとは思う。
けど、分かりながらも自分がどれだけ高値が付くのかを競い合って女性としての価値を求め承認欲求を満たしていることも、一つの真実だと思う。
――私まだそういうのいらない……ごめん、気持ち悪いわ。
それに『私が選ぶから』と言うが、私からすれば『じゃあ選んだ相手に選ばれると思っているの?』というのがあるし、もっと最悪は『私が選んだ相手に選ばれたふりをされて、良いように遊ばれただけ』だったなんてこともありえる。
そもそもマッチングアプリの年収や身長、経歴なんて、アプリの性能によってはどこまででも嘘を書いてしまえるし、写真も凄くカメラの高性能なスマホなら笑えるほど加工ができて誰でも別人に成りすませる。
そして実物とあって『あれ? 全然違う』ってなった時、案外『それじゃあ失礼します』って帰ってくることはなかなか言いづらくズルズルついていくように思う。
――それってお姉ちゃんが人生を踏み外していった崖のある小道のような感じがするんだけど……
『すぐできるから今から入れてあげようか?』と言われたけど、はぐらかして断った。それで嫌われても良い。そんなことより何か自分が得体のしれない市場で競り落とされる商品として陳列させられて、価格と価値を決められてしまう気がしたから。
そして登録してしまうとやはり自分の評価が気になってしまう。そんなところから頭が、感覚がおかしくなってきて、命からがら逃げてきて怯えて塞ぎ込んだお姉ちゃんみたいな状況に自分も陥るんじゃないかと思ったから。
※※※
お読みいただきありがとうございます。
本編はこちら!
https://kakuyomu.jp/works/16818093083999233254
このお話の一つ前のお話はこちら!https://kakuyomu.jp/works/16818093083999233254/episodes/16818622175637190738
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