対異世界殲滅兵器 ヴォルバル
水国 水
全ての始まり
「おい! 動力はどうなっているッ!?」
ドッグ内に声が響く。
次々と指示を飛ばし、皆が慌ただしく動いている。
「現在起動中です!」
「なるだけ早く急がせろッ! チッ、なんで奴らがもう攻めて来てるんだ……予測ではもっと先じゃなかったのか!?」
焦る声色。
男の視線の先には————大艦隊。
いや、大艦隊と言うにはいささか生物的すぎるものが多い。
空中を飛ぶ骸骨の馬。とそれにまたがるは首の無い兵士たち。
後方には生物的な飛行物体が多数確認できる。
空を覆い尽くすほどの敵にもはや勝てるのかと諦める人々も現れ始めていた。
それらが地球へ向けて進軍して来ていた。
大星魔帝国、それが奴等の名だと言うそうだ。
時は遡り、半年前。
地球に突如、未確認生命体が襲来した。
彼らは自らを魔族と呼称し、人類に一方的に宣戦を布告してきた。
『我は魔王、魔族を束ねる王である。この星に住まう者よ、今すぐ星を明け渡せ。さもなくば滅びの光を目撃することになるだろう』
聞くもの全てに恐怖を植え付けるような声は世界中全ての人類に届いた。
奴らは異世界から来たと言う。
『手始めに、我々の力をお見せよう。————では賢明な選択を願っている』
そして一方的に告げるとこちらの通信は一切受け付けなくなった。
一切の余地無し、明け渡さぬのなら滅びよ。ということだろう。
次の瞬間、世界に激震が走る。
ユーラシア大陸の一部が消滅したのだ。
消滅の情報は即座に世界中を駆け巡り、混乱と恐怖が走る。
人々はその異様な出来事を受け止めることができず、ただ呆然とするしかなかった。
各国は緊急事態宣言を発令し、国連議会により対策が話し合われていた。
それでも人類は絶望に屈することなく、様々な対策を講じ始めた。
軍隊が動員され、科学者たちは未確認生命体の正体を解明しようと研究を進め、政治家たちは一刻も早く国際的な協力体制を構築しようと奔走した。
だが、魔族の進軍は着実に進んでおり、その間にも多くの人々が避難を余儀なくされていた。
ただやられているばかりでもない。
魔族を撃退することに成功した事例も存在する。
だが、核を使用しても決定打にはなり得なかった。そこで敵の兵器などから発見した未知のエネルギーを使用。
魔族への対抗策を建造することになった。
これこそが対異世界殲滅戦艦ヴォルバルである。
そして今に至る。
「ヴォルバル起動準備整いましたッ!」
戦艦として建造されたそれは敵の技術を利用し、地球の技術全てを合わせられた。
「よし、艦長! いつでも行けます!」
その言葉に艦長は短く答え、深呼吸を一つした。その眼には決意の光が宿っている。
「これよりヴォルバルは地球防衛を目的とし、大星魔帝国へ反撃を開始する。全艦、発進準備」
ドッグ内の巨大モニターが一斉に点灯し、ヴォルバルの各セクションの状態が次々と表示されていく。
エンジニアたちが最後のチェックを行い、武器システムが起動されている。
メインブリッジには緊張感が漂い、誰もが固唾を飲んでいた。
その時、ドッグ内に衝撃と轟音が走る。
艦首方向、その先が爆炎に包まれた。
ドッグ内にいた全ての人が理解した。敵が攻撃を仕掛けて来たのだと。
「奴らが、もうここまで……!?」
外の様子を確認した者が絶望的な表情で叫ぶ。
空にはすでに、骸骨の馬にまたがる首の無い兵士たちが見えている。彼らは空中から攻撃を仕掛けてきていた。魔族の進撃は、予想以上に早かった。
「主砲発射用意ッ!」
艦長が声を張り上げ、指示を出す。
「主砲、チャージ開始。エネルギーコアの安定を確認。機関部、異常なし」
それに船員が答え、発射準備が始まる。
艦首に備えられた主砲六門にエネルギーが充填されていく。
「メインエンジン点火。主砲発射と同時に発進する」
「「「了解」」」
「発進準備完了!」
「よし、主砲、目標を前方の敵兵力に合わせろ!」
艦長が命じると、モニターに敵の位置が映し出される。
骸骨の馬にまたがる首の無い兵士たちが不気味なほど近くに迫っているのが確認できた。
後方には敵艦隊——おそらく歩兵を載せた船だろう。それが目視でも複数見える。
「主砲、目標捕捉完了。エネルギーチャージ80%…90%…100%! 発射準備整いました!」
「発射ァ!」
艦長の一声で、ヴォルバルの主砲が火を噴く。
六門の巨大な砲から放たれた青白いエネルギーが、空間を切り裂いていく。その光はまるで雷のように瞬時に広がり、目標に到達するやいなや、敵を次々と飲み込んでいく。
骸骨の馬も兵士たちも、無慈悲な光の中で跡形もなく消滅していった。
「やった!」
「命中確認! 敵の前衛部隊、ほぼ壊滅!」
オペレーターが歓声を上げる。艦内のモニターに映し出された映像でも、敵の大半が爆炎の中に消えていくのが見える。
そして同時にヴォルバルは発進する。
煙の中を突き進み、待ち構えていた敵艦隊の横を突破。
「反転180度、全砲門開け。一斉掃射だ」
艦長の命令が鋭く響く。
ヴォルバルの巨大な艦体が迅速に旋回を始め、その全砲門が敵艦隊に向けられた。
「全砲門、目標をロックオン。敵艦隊に対する射線クリア!」
「発射準備完了! 砲門開けッ!」
「————撃てッ!」
艦長の号令とともに、ヴォルバルの全砲門が一斉に火を吹く。
無数の光弾が放たれ、それがまるで光の雨のように敵艦隊に降り注ぐ。その威力は圧倒的で、敵艦は次々と爆発し、粉々に砕け散っていった。
「待ち構えていた敵艦隊全て撃破。敵影無し————いや、待ってください。後方1km先敵影出現。大艦隊ですッ!」
「反転180度、正面から迎え打つ」
「了解」
艦長の冷静な命令が艦内に響き渡る。
ヴォルバルの巨大な艦体が再び迅速に旋回し、その艦首が新たに出現した敵艦隊に向けられる。モニターには、数え切れないほどの敵艦が迫ってくる様子が映し出されていた。大星魔帝国の本隊が姿を現したのだ。
そして艦を反転させた瞬間、敵からの砲撃がヴォルバルを襲う。
「艦前方にシールドを最大出力で展開。 これからが本番だ、気を引き締めろ!」
「シールド出力100%、全方位に展開!」
「全砲門、発射準備完了! 敵艦隊の射程内に入ります!」
ヴォルバルのシールドが青白い光で艦全体を包み込み、その防御態勢を固める。一方で、艦体の側面に並ぶ無数の砲門が再び開き、その内部に備えられた高エネルギー砲が敵に向けられた。
そしてシールドに敵の攻撃が衝突。
衝撃波で艦内が揺れた。
「ぐっ……。敵の数は?」
「敵影の数は……少なくとも500以上」
「500……恐らく歩兵を含めるとそれ以上か」
艦長は目を細め、前方のモニターを凝視する。
そこには、無数の飛行物体が迫ってくる様子が映し出されている。それはまるで闇が押し寄せるかのような光景だった。
「どうしますか?」
「迎え撃つ他無いだろう。ここで引けば我々は助かる。しかし、後方のドッグにはまだ人が居る」
「了解」
艦長の選択に意を唱える者は無く、全員が迎撃を選択した。
「奴らにはお礼をしておかないとな」
「ッ!? あれを使うんですね?」
「ああ、エネルギー変更。魔粒子エネルギーへ」
「了解!」
機関室へ通信が送られ、慌ただしく人が移動し機械を操作し始める。
「準備が終わるまで持ちこたえよ。全砲門展開ッ」
「了解! 全砲門、発射準備完了。ミサイルも同時発射します!」
「発射ッ!!」
ヴォルバルの側面から無数の光弾とミサイルが発射され、敵艦隊に向けて放たれる。
空間には無数の爆発が生じ、敵艦の中には混乱して進路を乱すものも見受けられた。
その時、突然モニターが異常を示し始めた。敵艦隊の中から、一際巨大な影が現れ始めた。
「エネルギー変換完了しました!」
「よし————」
「艦長、新たな敵影を確認! ……これは……!」
モニターに映し出されたのは、今までのどの敵とも異なる、圧倒的な大きさを誇る巨大戦艦だった。その艦体は黒く、まるで闇そのものが形を成したかのように見える。
「……奴らの旗艦か」
艦長は低く呟いた。
「シールドを前方に展開せよ。これより本艦は高機動戦闘形態へ移行する。総員、衝撃に備えよ」
艦長がレバーを引いた。
瞬間、ヴォルバルの全体に青い光の筋が走る。
それはまるで生きているかのように脈打ち、艦体全体を包み込む。そして、ヴォルバルの巨大な船体がゆっくりと変形を始めた。
船体は垂直になり、両側面が展開。
鋼鉄の腕部が出現する。
主砲は左腕部へ移動、巨大なガトリングガンを形成する。また、胸部に当たる船底に新たな砲門が姿を表す。
そうしてヴォルバルは巨大な戦士のような姿へと変貌した。
「これが……高機動戦闘形態……」
「ああ、戦艦では対応できないような物量を相手にする時に使用する形態だ」
船員の呟きに艦長が告げる。
「全システム正常稼働! エネルギー出力、100%を維持!」
「まずは前線を崩す。照準合わせ」
艦長の声に合わせて、ヴォルバルの巨大な腕が動き出す。
肩部の高エネルギー砲が不気味なほど静かに輝き、照準を敵の先頭部隊に合わせる。
艦体の各部に配置された砲門も連動し、複数の敵機をロックオンする。
「全砲門、目標を捕捉。発射準備完了!」
「撃てッ!!」
艦長の号令と共に、ヴォルバルの高エネルギー砲が一斉に火を吹く。
空間を切り裂くような青白い光の奔流は直進し、前方の敵機に次々と命中する。
光弾が敵機を貫き、連鎖的に爆発が発生する。骸骨の馬や首の無い兵士たちは、まるで稲妻に打たれたかのように粉々に吹き飛んでいく。
「前線の敵機、撃破!」
「この機を逃すなッ。我々も突撃する。腕部エネルギーソード展開! 続いてメインエンジン点火」
ヴォルバルの右腕が動き出し、その先端にエネルギーソードが形成される。
そして背部ユニットに移動したメインエンジンが点火。凄まじい速度で敵艦隊へ接近する。
青白く輝く光の刃が空間を切り裂き、敵艦隊の中へと突き進んでいく。
ヴォルバルの巨体が無数の敵艦を次々と切り裂いていくさまは、まるで巨人が小人たちを踏みつけるような圧倒的な力を思わせる。
「左腕部ガトリングガン、照準合わせ。目標、後方部隊」
「了解!」
ヴォルバルの主砲六連ガトリングガンとなった左腕が動き、敵艦隊後方へ照準を合わせる。
左腕が徐々に、そして勢いよく回転を始める。
ガトリングガンの銃口から連続して光弾が放たれ、敵艦隊の後方部隊に雨のように降り注ぐ。無数の弾丸が飛行体や小型艦を貫き、次々と爆発を引き起こしていく。
「よし、前進を続けろ! 全砲門を開け、あらゆる方向の敵を一掃するんだ!」
ヴォルバルの全砲門が展開し、各部のエネルギー砲が火を噴く。
周囲を囲む敵艦隊に対し、連続的に攻撃を加え、次々と撃墜していく。
そして背部メインエンジンを噴かし、敵艦隊の間を縫って移動しながら攻撃を続ける。
敵艦も負けじと反撃を繰り出してくるが、こちらの動きについてこれず、空を切るばかりだ。
「エネルギーソード、最大出力に! 目標、敵旗艦ッ」
右腕のエネルギーソードがさらに輝きを増し、青白い光がより鋭く、強烈に放たれる。
ヴォルバルは巨体を軽々と動かしながら、敵旗艦に向かって突き進んでいく。その間、左腕のガトリングガンが絶え間なく弾丸を放ち、周囲の敵を撃ち抜いていく。
敵旗艦もヴォルバルに向けて火力を集中させ、シールドを最大限に展開している。しかし、ヴォルバルの勢いは止まらない。エネルギーソードを振りかざし、そのまま敵旗艦に突撃する。
「いけぇぇぇぇッ!」
甲高い音が周囲に轟く。
敵旗艦の展開したシールドはより強固なのか、エネルギーソードでは貫けないものだった。
「クソッ」
艦長が歯ぎしりをしながら呟く。
瞬間、敵主砲がヴォルバルへ直撃。
ヴォルバルは煙を上げながら後退した。
「どうしますか?」
「……胸部主砲を使う」
「しかし、あれを使っては数十分は武装を使用できません。こんな敵のど真ん中で使用しては……」
その言葉に艦長は静かに首を振る。
「だが、このまま退却しても地上に攻撃がいくだけだ。それにあれを使えば敵を粉砕できる。リスクを取らなければ未来は掴めんだろう? 敵艦隊から距離を取れ。胸部主砲、最大出力でチャージ開始!」
「……了解ッ」
ヴォルバルの胸部にある巨大な砲門が開き、その内部が赤く輝き始める。
艦内全てのエネルギーが胸部に集中され、ヴォルバル全体が微かに振動している。
「エネルギー充填率、50%……60%……」
敵旗艦もヴォルバルの動きに気づき、火力をさらに集中させてくる。主砲がヴォルバルに次々と命中し、その巨体が揺れる。
「エネルギー充填率、80%……90%……!」
ヴォルバルのシールドが限界に達し、薄くなっていくのが見える。艦内にも警告音が鳴り響く。
だが、誰もが口を噤んで耐えている。胸部主砲が発射されるその時まで。
「100%! エネルギー充填完了! 発射準備整いました!」
「————撃てェッ!」
艦長は短く息を吐き、力強く号令を下した。
ヴォルバルの胸部主砲が赤く輝き、一筋の光の奔流となって敵旗艦めがけて直進する。
直進する中で敵艦隊は回避を試みるが、かすっただけ、掠らずとも近くに居ただけで甚大な被害を受けている様子が見て取れる。
敵旗艦もシールドを最大限に強化し、全力で防御を試みていた。
だが、ヴォルバルの胸部主砲の威力はそれを遥かに凌駕していた。光がシールドを突破し、敵旗艦の装甲に直撃する。
凄まじい爆音と共に、敵旗艦は爆発し、その巨体が内部から崩れ落ちていく。火の玉となって散るその様は、まるで宇宙空間に新たな星が生まれたかのようだ。
ヴォルバルの進路を塞いでいた敵艦隊は一隻、一匹残らず殲滅することに成功した。
こうして対異世界殲滅兵器ヴォルバル、そして人類の反撃が始まるのであった。
対異世界殲滅兵器 ヴォルバル 水国 水 @Ryi-
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます