第31話: 不在の重み
朝の教室。いつも通り、窓から柔らかな光が差し込み、クラスメートたちの楽しそうな会話が飛び交っていた。だが、くるみにとって、その喧騒はまるで遠くの世界で響いているかのように感じられた。シノンの席は今日も空っぽだった。
「また来てない……」
くるみは心の中で呟いた。3日間、彼が学校に姿を見せない。病気なのか、それとも何か別の理由があるのか――そのことが頭を離れなかった。彼の不在が、さらに自分を孤独にさせるようだった。
ふと、背後から誰かが近づいてくる気配を感じ、くるみはゆっくり振り返った。そこにいたのは、小金井みこだった。彼女はいつものように冷たい微笑を浮かべて、くるみを見下ろしていた。
「シノン、また休んでるみたいね。」
みこの声には、どこか挑発的な響きがあった。くるみは視線を落とし、何も言わなかった。みこはそれに気づき、さらに言葉を続けた。
「どうせ、あんたのせいじゃないの?最近、シノンと妙に仲良くしてたけど……何か問題でも起こしたんじゃないの?」
くるみは、胸の奥に不安が広がるのを感じた。みこの言葉は、いつも心の弱い部分を正確に突いてくる。自分がシノンに迷惑をかけたのではないか――その考えが頭を離れない。
「ねえ、何とか言ったら?あんた、本当に変よ。シノンがあんたから離れたのも当然だって、みんな思ってるわよ。」
みこの言葉は痛烈だったが、くるみは無言を貫いた。声に出して反論する力も、意思も、今の自分には残っていなかった。ただ、心の中でシノンが戻ってくることを祈るだけだった。
「おい、もうやめろよ。」
突然、別の声が響いた。振り返ると、そこにいたのは高梨とおりだった。彼はいつもと同じ軽い表情をしていたが、その瞳には明らかに不快感が宿っていた。
「みこ、くるみをほっとけよ。シノンが休んでるのは、彼女のせいじゃないだろ。」
「ふーん、正義の味方登場ってわけ?」みこは冷たく笑ったが、とおりの存在を前にして、これ以上何も言わずに引き下がった。
みこが去ると、とおりはくるみの方に視線を向けた。
「シノン、どうしたんだろうな。あいつが学校休むなんて、珍しいよな。」
くるみは、小さく頷くことしかできなかった。シノンのことを聞かれるたびに、不安が募るばかりだった。彼に何かあったのではないか、という疑念が頭から離れない。
「まあ、あいつのことだし、すぐに戻ってくるだろ。心配するなよ。」とおりは軽く笑って言ったが、その言葉の裏には、自分も何かを感じ取っているようだった。
「ありがとう……」くるみは小さな声で礼を言ったが、それ以上何も言うことができなかった。
昼休み、教室の片隅にいたくるみの元に、今度は学級委員長の宮乃ころねがやって来た。ころねはいつもと変わらぬ優しい表情を浮かべて、くるみの前に座った。
「田村さん、鈴木くんのこと心配してるの?」
ころねの柔らかい言葉に、くるみは思わず顔を伏せた。ころねは、いつもくるみの気持ちを敏感に察知してくれる。
「うん……シノンがいなくて、心配……」
くるみは、言葉に詰まりながらも、なんとかそう答えた。
「大丈夫だよ、きっと。シノンくんは強いから、何かあってもきっと乗り越えて戻ってくるよ。」ころねは優しく微笑んだ。
その笑顔を見て、くるみは少しだけ心が軽くなった。ころねの言葉には不思議と安心感があり、彼女の存在がくるみにとって救いになっていることを改めて感じた。
「ありがとう、宮乃さん……」
くるみは小さな声で礼を言い、少しだけ笑みを浮かべた。ころねは、そんなくるみの変化に気づいて、さらに優しく微笑み返した。
放課後、くるみはまた一人で歩いていた。シノンのことを考えながら、彼が早く戻ってくることを願っていた。彼がいない学校は、どこか色彩を失ったように感じられる。いつも支えてくれた彼がいないことで、自分がどれほど孤独だったかを痛感していた。
「シノン……どこにいるの?」
心の中で、彼の名前を呼び続けながら、くるみは静かに歩き続けた。彼が戻ってくることを信じて。
パラレルトワイライト 紅間いちご @itigo
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