第2話

赤いカーペットが敷かれた豪勢なお城には玉座があって、童顔の王様がいた。

イキリチートなろう系主人公みたいで、ムカつく。いつもはうるさい幻覚のレインボー多眼ユニコーンも、今日は怒ってるよ。

「皆の者、驚かせてしまってすまない。私はカゲハル王国の王カゲハル、君たちは異世界に召喚されたんだ。……早速だが、スキルの鑑定を行う」

そー言って国名のネーミングセンスガバガバな自称カゲハルは自慢げに水晶を手から作り出して、側近のデカパイ女騎士に渡した。男じゃないのにむかむかする。

女騎士はきもい色の水晶を持ち、校長先生みたいにダサく荘厳に話しだした。

「この水晶になりたい自分を想像しながら手を当てれば、望みの姿とスキルが手に入るぞ!始める者はこちらに来てカゲハル様への忠誠を誓え!」

女騎士はチュートリアルキャラみたいにご丁寧に説明してくれた。

私たちみたいなパンピーからしてみれば、え?なにそれwwって感じなんですけど。

意味わからんことで忠誠誓えとか、中世でも言わないでしょ。なんちゃって。

当然友達や先生も何が起こってるのか分からないみたいで、モブみたいに反抗する子がいっぱい。さっきの話を鵜吞みにして、異世界転生に喜ぶバカもいた。

私が必死に吐いていたのに、このクソみたいな異世界のせいで全部忘れ去られる。


一番先に水晶へ手を伸ばそうとしたのは、ほのかと沙羅だった。

私を置いて、抜け駆けで。「見た目何にする?」「可愛いエルフがいい!」「じゃあ、とりまエルフにしよ?」なんて相談して。

楽しそうに、私など人生の舞台装置でしかないように。

絶対に許せない、絶対に許さない。

濁ったドロドロの感情に脳内を支配された私の手は、ほのか達が手を触れた刹那

水晶に突っ込んだ。

目の前が酸欠みたいに暗くなると、全身を虫が這いまわるような気持ち悪い感触が全身を包む。耳が長くなって、ブスが別人のように可愛くなったほのかと沙羅が汚物を見るような目で見てくる。ブスで私以外友達がいないほのかが好きだったのに、今では何もかも変わったんだよね。みんなに好かれるけどほのかだけが大好きなほのかのヘルプキャラは、もういらなくなった。ほのかの人生というゲームですてるコマンドを押された私は、彼女の意思を歪んで受け取ってしまったんだ。


そうして悠長に絶望していると、女騎士は私の首を即座に刎ね、血しぶきが紅いカーペットに掛かる。振り下ろされた剣が鏡になって、初めて自分の姿を目にした。

彼女と同じ「エルフの体」にはなれたんだ。でも、漆黒の肌とハートの瞳、大きな単眼は、エルフと呼ぶには余りにも醜かった。

そのまま首が転がって落ち…落ちない!?はー、よかった。…じゃなくて、首を切られたのに頭が落ちずに再生するなんておかしいよ!考えが追い付かないよーっ!

当の現行犯は、「可笑しいな…斬ったはずだが。再生のスキル持ちか?」なんて首を傾げてる。今まで人だった罪のない女の子を斬り殺した奴だ、真面じゃないよね~。

「ていうか、その『スキル』ってえ、なんですかあ?副作用の説明もしないで出してくるのって詐欺ですよお。フィーリングで分かるってか?こっちは知るわけないっつーの!!勝手に呼び出されて勝手に殺されて、嬉しい訳ねえだろ!」

有無を言わさず殺されたんだから、怒ってもいいよね。オタクの妄想みたいにキレてやった。めっちゃ不快なデカい金切声を久しぶりに出せて嬉しい!えへ!

「カゲハル様直属騎士団長のこの私をコケにしやがって!お前は100回打ち首に…」

それはそれとして、女騎士が顔赤くしてキレてる内に水晶の文字を見た。

『メインスキル』と『サブスキル』が表示されてて、メインにはこう書いてあった。

「メインスキル 不治の不死身:老衰以外、生きている時は絶対に死なない。もし死んだ時は周りの魔物にこのスキルを受け継ぐ。」

不死身?八尾比丘尼てきな?おもろー、当たりやん。知らんけど。

サブスキルは種族毎のスキルっぽいけど、エルフのだけじゃない。単眼の種族とか、そっち系?ここでもほのかとは一緒じゃないんだ。まぢ病む…

「サブスキルLv1. 観察眼:目を凝らすと、15㎞先までよく見える

サブスキルLv15. 半人前エルフ:魔法威力が1.5%上がる」

よわそー…私バカだからよくわかんないけど。Lvとか書いてあるんだから強化される系だと思うし少しはましになるといいな。

ほのかと沙羅のスキルもあったけど表示でさえ隣同士なのが嫌で見ないことにした。


ヤジは私が変身してからひと言も喋らず、皆は只黙って固まっていた。

吐いた時とは違う意味で青ざめた顔をしているみんなを見てのんびりしてたら、魔法の鎖で体中を縛られた。女騎士がにやにやして、童顔の王様に媚びながら話す。

「カゲハル様!この無礼な魔物の処遇はどういたしましょう?」

「えー…殺すまではしなくても。可愛いし、エルフなんでしょ」

「了解致しました、カゲハル様。此奴は長寿種族なので、永久労働の刑に処します。衛兵!この者を永久独房に!」

え?

嘘だよね、他にヤジ飛ばしてた奴らも大勢いたのに。なんで私だけなの?

ほのかも、

沙羅も、

先生も、

3-5の皆も、

気持ち悪いモブの目で見つめてくる。聞こえないはずの声が聞こえる。

「何やってんだ、あいつ」「気持ち悪い…やっぱりそういう人だったんだ」

「もう無理だよ」「俺もやってたけど、流石にあいつはやばいな…」

抵抗もしない。そんな資格ない。だって全部自分のせいだから。

水晶に触ったのは私。暴言を吐いたのも私。異世界じゃ殺されてもしょうがない。

自分への叱責と庇護の気持ちが渦巻きながら、私は監獄へ連れていかれた。

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メンヘラ単眼ダークエルフの復讐劇~一人だけ魔物に転生した私は、異世界で魔生を謳歌します~ えふちゃん @efuchan

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