お父さんは世界を救う勇者だったらしいです

藤川みはな

父と娘の会話

「お父さんな、実は異世界召喚

されたことがあるんだ。」


ねぼけ眼でコーヒーをカップに注いでいた

リリナは父の言葉に耳を疑った。


「お父さん……今なんて?」


「だからお父さんは高校生の頃、

異世界ムーンライトに勇者として

召喚されたことがあるんだ」


新聞から視線をリリナに向けると

真面目な顔でメガネをスチャッと上げる父。


「……は? お父さん頭大丈夫?」


「失礼な! お父さんはまだボケてはないぞ!」


「いやそっちの心配じゃなくて、

いやそっちの心配もあるんだけど……え?

何言ってんの、お父さん?」


母がふふふと笑いながら食卓に皿を配膳する。

「そういえば、そんなこともあったわねぇ」


「えぇ?」

母も何かを知っているような素振りを見せ

リリナは戸惑いを隠せない。


「お前にとっては信じられない話だろう。

しかし、お前もそろそろ16歳。

知っておくべきだと思ってな」


「ちょっと! まだ続けるの? この茶番」


「茶番ではないっ!

これは事実なんだよ! ちょっと待ってろ」


父は席を外すとどこからか鞘に入った剣のような

ものを持ってきた。


「これを見ろ」


「何これ? 剣?」


「そうだ。剣だ。

だが、これはただの剣ではないのだよ」


フフフと怪しく笑い、鞘から剣を抜く。

すると黄金に輝く剣身が姿を現した。


「綺麗……」

思わず漏らすと父は満足げに頷いた。

「そうだろう。これは勇者に授けられる

剣だからな」


「はぁ?!」

父はヤバイブツにでも

手を出してしまったのだろうか?

しかし彼は堅物と有名で

クスリに手を出したことなど一度たりともない。


だとすると、父の言う通り

これは真実だということだろうか?


頭がガンガンしてきた……。


「お父さんが勇者だなんてありえない!!」


「ふっふっふっ。本当のことなんだな。これが」


リリナは野菜のサラダを咀嚼しながら口を開いた。


「……でも、なんで突然曝露したの?」


すると父は居住まいを正し、

真面目な顔をさらに引き締めた。


「実はな、リリナ。

お母さんにも秘密があるんだ」


「わたしね、ムーンライトを創った女神なのよ〜」


着席しながらのほほんとした口調で手を頰に当てる

母に空いた口が塞がらない。


は??


つまり、お父さんが勇者で、

お母さんが女神なわけ??


「いやいやいや!それは嘘でしょ!!」


「嘘じゃないわよ〜 今は女神としての力を

封印してるけど、ムーンライトにいた頃は

星をひとつ滅亡させることができたのよ〜!」


怖っ!!!

そしてマジかよ!!


「そしてリリナ、お前には勇者と女神の娘としての

使命がある。ムーンライトは今世界滅亡の危機を

迎えている。どうかムーンライトを

救ってくれ!!」


「え、えぇぇぇーーーーーっ!!!!」


わたしが勇者と女神の娘なんてありえない!!

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