第三十話 最強のブレイバー③
何度でも言おう。
めぐるはアホだ。
「え、なになに!? 占い? 興味あるある! やってよ!!」
元気にぴょこぴょこ跳ねてるのはめぐるさんだ。
彼女は現在、件の占い師に話しかけられて、完全にその術中に落ちてしまった。
剣聖、朱奈めぐるよ。
本当に気がついていないのか。
お前が絡んできたから、俺たちはすでに遅刻寸前。
このままここで占いしようものなら、時間ぶっちぎりの完全遅刻だ。
あとさらに言うなら。
その占い師のおばあちゃんは、おそらく占い師ではない。
昔からここで占いしてるけど、当たった試しはないし、最終的に高額のお守り売りつけてくるからだ。
だがしかし。
めぐるは純粋に占いを楽しみたい感を全開にしている。
だったらやらせてあげるべきかもしれない。
まぁ。
最後のお守り売りつけだけ俺が介入して、さらっと断りつつめぐるを伴って脱出すればいいだけだもんな。
などなど。
俺がそんなことを考えていた。
まさにその瞬間。
ガタンッ!!
と、聞こえてくる音。
見れば、占い師のおばあちゃんが驚きに満ちた表情で立ち上がっている。
そんなおばあちゃんは、めぐるをじっと見つめ。
「あ、ありえない…….こんなっ」
「どうしたの? ボクなんかやっちゃった?」
「い、いや…….お前さんの身体は、特別だ……」
「?」
「全身のチャクラが開いている…….拳法の達人であっても、生涯をかけて一つを開くのがやっとなのに…..いったいどうやって」
「なになに、ボクってすごいの!?」
「すごいなんてものじゃないよ。人間の完成系、人間が至れる極地……お前さんの肉体は完全だ」
「ふーん、で……占いは?」
「黒い翼に気をつけるが吉」
さて。
時は進んで現在。
俺たちはブレイバー協会南大沢支部へとやってきていた。
着いて早々、ロビーで俺たちを待ち受けていたのは。
「遅い!! 遅刻するとは何事じゃ!! ワシをどれだけ待ちぼうけさせる気で……む、どうして飛び出して行っためぐると渋谷隊長が一緒にいるのじゃ!?」
お怒りな様子の朱奈イロハ支部長。
すると。
くいくい。
俺の服の裾を引っ張ってくるのはめぐるだ。
彼女は俺の耳に口を近づけると小声で。
「神社の前でキミに仕掛けたこと、黙っててくれないかな……お願い、何でもするからっ!」
わーんっ!
と、かなり焦った様子のめぐる。
というか、容易になんでもするからとか言わないでほしい。
なんであれ仕方ない。
別にチクったっていい事ないしな。
「めぐるとは偶然そこで会ったんです」
「本当かの? それにしては随分と仲がいいようじゃが…….」
「あ、え〜っと」
「じ〜〜〜〜」
「め、めぐるが男の人に絡まれてたんで、それを助けたら仲良くなっちゃって!」
「な、なんじゃと!? めぐるに絡んで、しかもめぐるを困らせる男じゃと!? い、いったい誰じゃ、その実力者は!?」
「っ」
し、しまった。
そうだ、めぐるは剣聖だ。
男に絡まれて困る事態になるわけがない。
「はぁ……で、本当のところはどうなのじゃ?」
と、呆れた様子で聞いてくる朱奈支部長。
なるほど、どうやら嘘はバレていたようだ。
それならば。
「ちょっと色々あって仲良くなりました。正直、遅れた理由もそこにありますけど……ちょっと」
「詳細は言えないと? まぁ大方、めぐるが渋谷隊長に迷惑かけた感じじゃろ?」
「ボク迷惑なんてかけてないよ!」
わーわー!
と、騒ぎ出すめぐる。
朱奈支部長はそれを手で制しながら、さらに言葉を続ける。
「で、本題に入るのじゃ。竜宮隊長が居ないのはもういつものことだから仕方ないとして、本当に仕方ないとして本題に入るのじゃ……うむ、出番じゃ! 入ってくるのじゃ〜!」
と、廊下の方へと手を振る朱奈支部長。
すると、ロビーにやってきたのは年齢層幅広い、十数人ほどの男女。
「近隣の街から援軍で来てくれたブレイバー達じゃ。これからは南大沢支部の正式隊員として、ここで活動してくれることになっているから、みんなで仲良くして欲しいのじゃ! それでは各自自己紹介タイムなのじゃ!」
続いて、朱奈支部長に言われた通り順番に自己紹介をしていくブレイバー達。
最後に俺とめぐるも自己紹介をしたところで、ふと思ったことがある。
戦力過多じゃないか?
剣聖、朱奈めぐるは強かった。
おそらくだが、戦った感じあの強さは飛鳥の数倍のものだった。
そう、他の隊長格と隔絶した強さを持っていた、あの飛鳥の数倍だ。
つまり。
南大沢支部の援軍は本来、めぐるだけでも事足りるはずだ。
などなど、俺がそんなことを考えていると。
「で、じゃ……顔合わせに続いて、渋谷隊には新しい任務を言い渡すのじゃ」
「渋谷隊って、俺たち三人にですか?」
すなわち。
俺、天音、めぐるだ。
「うむ! その通りなのじゃ! 渋谷隊はまだ経験不足の上、明らかに戦力不足じゃからな! それを埋めるために、めぐるを呼んだのじゃ!」
なるほど。
それならば納得がいく。
現状、隊として単独運用するのには戦力不足な渋谷隊。
それを可能にするためにめぐるを隊長代理とし、単独運用を可能とする。
要するに厳密に言うと、めぐるは俺たちの増援であり、南大沢支部の増援ではなかったわけだ。
となると、任務の内容はおそらく。
「任務の内容は堀之内への増援なのじゃ!」
やはり他の街への派遣。
俺たち三人が外に行くから、その間の守りも兼ねての十人の増援に違いない。
「渋谷隊員は堀之内について知っているかの?」
「もちろん知ってます。
「うむ、流石に知っておったか」
大魔霊災。
その爆心地である多摩センター、魔科学研究所。
有名な話だ。
魔王がこの世界に現れてすぐ。
最初に放たれたモンスター。
黒帝竜バハムート。
次元を操る能力を持つ最強のモンスター。
まだ日本に壁がなかった頃。
全世界の協力のもと、全世界の兵器半分を代償にに葬り去られたモンスター。
そして。
バハムートの残骸は多摩センターに作られた、魔科学研究所という場所に送られたのだ。
モンスターを研究し、その弱点を見つけて対策を講じるためだ。
その結果は大失敗。
弱点など見つからなかっただけでなく——。
黒帝竜バハムートの残滓。
その力が暴走。
多摩センターは全壊——堀之内含むその周囲の街は半壊する事態になった。
この人災を大魔霊災と呼び、以後研究は行われなくなった。
もっとも、ゴブリンなどの危険性が比較的少ないモンスターの研究については話が別だが。
「でじゃ、数日前からその堀之内で問題が起きているようでの」
と、再び話し出す朱奈支部長。
彼女はそのままさらに言葉を続けてくる。
「堀之内はあの事件以降、復興を続けて今では小規模の町になっているのじゃ——そしてそんな町に今、謎のモンスターが大量に押し寄せているそうなのじゃ」
「謎のモンスターって、未確認のモンスターってことですよね? しかも押し寄せるって……それってまずいんじゃ」
朱奈支部長も言った通り。
堀之内は復興途中の小さな町なのだ。
故に外部への防御も他の街ほど頑強ではない。
さらにこれはおそらくだが。
「うむ、相当まずいのじゃ。なんせ堀之内に配置されているブレイバーの数は、最低数の二人じゃからな」
「やっぱりですか」
「正直、そんな大量のモンスターをどうにか出来るとは思えないのじゃ」
それゆえの朱奈めぐるの投入というわけだ。
たしかに剣聖ならば、謎のモンスターの群れであろうと充分に対処できるに違いない。
となると。
俺と天音の役割はどちらかというと学習だろう。
新人隊長として、めぐるの立ち回りからしっかり学習するところにあるに違いない。
もっとも。
「渋谷隊長。めぐるは少しおっちょこちょいなのじゃ……よければフォローしてあげて欲しいのじゃ」
と、心配そうに小声で言ってくる朱奈支部長。
そう、俺と天音の役割にはこういうところもあるに違いない。
などなど、俺がそんなことを考えていると。
「あぁ、それと堀之内からの連絡によると謎のモンスターはこう呼ばれているそうなのじゃ」
まるで映画に出てくる存在。
ゾンビ、と。
魔物に支配された日本から異世界転移でレベルアップ出来るのは俺達だけな件〜でも戦うたびに幼馴染がスキルの副作用で発情するので困ってます〜 アカバコウヨウ @kouyou21
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