殺人鬼Kの告白
ハルヤマ ミツキ
殺人鬼Kの告白
「……ぼ、僕は……僕は女性を……な、何人も殺しました……」
そう言って、彼は自分の犯してきた罪について語り始めた。
「△◇県S市に住んでいた……天野……レイナさん。ま、まだ若い彼女を……僕は誘拐した後に、首を絞めて殺しました」
天野レイナ。
半年ほど前、△◇県S市の山間部で遺体として発見された女子高校生の名だ。
「遺体は鋸でバラバラにして山に埋めました。ご、ごめんなさい……」
被害者に対するものか、はたまた被害者の親に対するものか分からない謝罪を口にしたあと、彼はずずっと鼻を啜った。
泣いているのだろうか。
ここからでは彼の顔をハッキリと窺うことができない。
「二人目は△◇県K市に住んでいた……な、七瀬ツムギさん。彼女は……彼女は僕の恋人になるはずの人でした。で、でも……ある日、とてもひどいことを言われて……つい、カッとなってしまったんです……」
七瀬ツムギ。
天野レイナの死体遺棄事件から三週間ほど経った頃に起きた、新たな死体遺棄事件の被害者だ。
「れっ、レイナさんみたいに首を絞めて殺そうとしました。けど、すごく暴れたから……大人しくさせようと何度も……か、かおを……何度も、殴りました。そ、そしたら……いつの間にか……つ、冷たくなってて……それから、ちゃんと死んでるか確認して……また、バラバラにして山に埋めました……」
彼の自供どおり、七瀬ツムギの遺体は△◇県K市の山岳部で発見された。
短い期間で二度目の死体遺棄事件。その衝撃と注目度は一度目を凌駕した。
各チャンネルの報道番組はこの件で持ち切り。
付近の小学校では集団下校を強制し、中学校と高校では当面の間部活動を停止、地域の住民たちには不要不急の外出を控えるよう県警から通達が行くほどの騒ぎとなった。
彼の自供は、まだ終わらない。
「三人目は、△◇県T市に住んでいた……た、田井中……ユナさん。ぼ、僕がたまたま立ち寄った……ほ、本屋の店員さんでした……」
田井中ユナ。
死体遺棄事件三人目の被害者となってしまった彼女の遺体が見つかったのは、△◇県T市のスクラップ場。
終わらない悲劇に対する世間の反応は言うまでもない。
「と、とても綺麗だったから本を買うついでに……こ、このあと一緒に飲みに行きませんかって……さ、誘ったんです。で、でも……断られて……負けじと何度も……な、何度も誘ったけど……ダメで……それどころか……か、彼女は僕のことを気持ち悪いって……き、気持ち悪いってっ!!……言ったんです。だ、だから……」
殺した。
自分の思い通りにならないからと、罪のない女性を彼は殺したのだ。
何人も、何人も。
「か、彼女が仕事を終えて店から出てきたところを……う、うしろから顔にビニール袋を被せて……で……ち、ちかくにあった人気の無い公園まで引き摺って……そ、それから……ベンチの下に落ちてた……び、ビールの瓶で頭を……何度も叩いて……こ、殺しました……」
そのときの凄惨な情景が生々しく頭に浮かんでくる。
閑散とした夜の公園で一人の女性が、無残に、残酷に、理不尽に、撲殺される様。
私はもう彼の話を聞きたくはなかったが、彼は自供を辞めない。
「よ、四人目は石上アヤメさん。僕の家のき、近所に住んでいた……だ、大学生の女の子です……」
石上アヤメ。
田井中ユナの遺体発見から二週間後、四人目の被害者となる彼女の遺体は△◇県K市の■■川で発見された。
「し、仕事帰りに電車の中で彼女を見かけることがお、多くなって……す、すこしずつ彼女のことが気になっていって……そ、その……あ、あとを尾けたりして家を特定しました。そ、そしたら僕の家と、とても近くて……ぼ、僕は運命を感じました。だ、だから……思い切ってデートに、誘ってみました……け、けど……けど、断られて……断られたから……む、無理やり僕のおすすめの場所に連れて行こうと……で、でも……でも、でも、でもっ!!」
その時のことを思い出したのか、彼はイラついたように頭を掻きむしった。
「かっ、彼女は僕の腕を振り払ったっ!!そっ、それにまたっ……あ、あの女みたいにっ……ぼ、僕をっ……僕をっ!!き、気持ち悪いってっ!!気持ち悪いから離せって言ったんだっ!!」
それから彼は『許せない、許せない』と何度も連呼した。
「こ、殺されても文句言えないですよね……ぼ、僕に、僕に暴言を吐いたんだから……」
彼の言っていることのすべてが理解できない。
デートの誘いを断られた結果、強硬手段に出たら『気持ち悪い』と言われたので殺した?
見ず知らずの人間からのデートの誘いなど大抵の人が断るし、無理やり何処かに連れて行かれそうになれば抵抗もするし『気持ち悪い』と感じるのも当然だ。
石上アヤメさんは何も悪くない。
もちろん、他の殺された女性たちも。
そして、あの子も……。
それなのに……この男は……。
「す、すいません……取り乱しました」
落ち着きを取り戻しらしく彼はそう謝ると、ついに『最後の自供』を始めた。
「……ご、五人目は……堀北ヤヨイさん。ぼ、僕と同じ職場の女性です……」
堀北ヤヨイ。
石上アヤメの遺体発見から一週間経たずして起きた、五度目の死体遺棄事件の被害者。
発見場所は、△◇県に隣接する□○県N市の山間部。
「か、彼女のことは入社した時から……ず、ずっと気になっていて……い、いつか……絶対に付き合いたいと……お、思っていました……はい……か、彼女は……彼女は、今まで殺してきた四人とは違うんです……だ、だから……も、もう僕には彼女しかいない……そ、そう思って告白したのに……」
断られた。
なぜなら、彼女には……。
「か、彼女には……も、もうすでに付き合っている男が……い、いたんです……」
彼は悔しそうにギリッと歯軋りした。
「ど、どうして……どうして……だ、誰も僕を……僕をっ!!」
彼は声を荒げ、ずっと腰掛けていた椅子から立ち上がった。
「……い、言ったんです……わ、別れてほしいって……別れて、僕と付き合ってほしいって……けど……か、彼女は無理だって……そ、そんな他人の意思を無視して自分勝手なことを言うなって……ぼ、僕を叱ってきたんだ……」
一歩、また一歩と彼は私との距離を詰めてくる。
そして、焦点が定まっていない目で私は見下ろした。
「か、彼女は……彼女のことを誰よりも好きな僕を叱りつけた……ぼ、僕の想いなど無視するみたいにっ……ぼ、僕が他人の意思を無視してるって?……ふ、ふざけるなっ!!無視しているのはそっちの方だろっ!!」
私と彼女を重ねているのか、彼は私にそう怒鳴りつける。
「……け、結局……彼女も他の四人と同じだった……ぼ、僕に殺されて当然の人間……」
ふざけるな。
私は彼にそう言ってやりたかった。
彼女は殺されて当然の人間ではない。
それはお前の方だと。
……ほんとうに……ふざけんな。
彼女は、堀北ヤヨイは、私の友人なのだ。
代わりなどいない、唯一無二の親友。
それをこの男は、この人でなしは、奪った。
私からヤヨイを奪ったのだ。
「そ、それはもう……む、無残に……ぐちゃぐちゃにっ……こ、殺してやったよ……」
ゆるさない。
「……な、なんですか……なにか、言いたそうですね……」
彼はしゃがみ込んで、冷たい地面に横たわる私の口元に張り付いたガムテープを剥がし取った。
「あ、あなたも馬鹿な人だ……は、犯人が僕だと気付くや否や……ふ、不用意に近づいてくるとは……」
「殺してやるっ……!」
「ハッ、ハハッ……そ、それは……それは無理ですよ……こ、殺されるのは……あなたの、あなたの方なんですから……」
震える右手で掴んだそれを彼は振り上げた。
「……さ、先に死んでいったみなさんに……よ、よろしく伝えてください……」
ああ、いやだ。
まだ、まだ死ぬわけにはいかない。
こいつを殺すまで……。
ヤヨイの敵を討つまで……。
「……さよなら」
いやだ。
いやだ、いやだ。
まだ、死にたくな
殺人鬼Kの告白 ハルヤマ ミツキ @harumitsu33
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