第9話 お天気同盟
「ええと……どうしよ」
何とか精神が落ち着いてきたところで、惨状を見渡してそう呟いた。
学校は一部崩壊、木は裂けて倒れている、私達は皆傷だらけ……。
いったいこれをどうしろと??
「とにかく学校を魔法で直すか」
「あー、うん、そうだね……」
案外冷静にそう指示を出したレインに従って、学校を直そうとイメージする。
2人は魔法があまり使えないんだから、人間の私がやらなくちゃ!
うーん、元はこんな感じでもっと綺麗で……。
あ、内装はあんな風で、あれとかがあって……。
そうやって一通りイメージした校舎を再構築するために、私は呪文を唱えた。
「ウェザーズ!!!」
辺りが煙のようなものに包まれる。
煙が消えた頃には、校舎は綺麗に元通り!!
おおー!なんて声が雪ちゃん達から聞こえた。
すごい、って褒める言葉も聞こえて、えへへ、とつい照れる。
魔法だから私がすごい訳じゃないんだけどね……。
「次は――私達の怪我か」
私、レイン、クラウドは傷だらけ。
雪ちゃん、霜葉ちゃん、風斗君はどうやら傷は無いみたいでほっとする。
よし、それじゃ1人ずつ治してくか!!
「んー……ウェザーズ!」
まずはレインを見て、怪我をしていない健康なレインをイメージし、魔法をかける。
瞬く間に傷が治っていく。
慣れた様子のレインに対して、雪ちゃん達は物珍しげに眺めている。
「えと、ウェザーズ!」
じーっと雪ちゃん達と、クラウドに見つめられながら、今度はクラウドに魔法をかけた。
同じように消えたのを見て、クラウドは嬉しそうに、
「晴、ありがとう」
と、涼しげにお礼を言った。
「俺も助かった、ありがとう」
レインも同様に感謝を告げてくれる。
全然大丈夫だよ、と返しながら私も自分に魔法をかけた。
その瞬間、あったはずの傷も痛みも無くなって、改めて魔法のすごさに気付く。
こんな力を私が使ってたんだ……。
最後に近くの木だったりなんだりを魔法でなおして――
「よしっ、できた!」
じゃじゃーん、全部元通り!!
明るく声をあげてみるけど、まだ空気は少し重い。
……これを願った人の事があるから、だよねぇ。
誰も話そうとしないから、まず初めに私が口火を切った。
「……それで、クラウド。代償って、どういう事なの?」
その言葉にクラウドは案外サラリと反応する。
「結構簡単な話だけど。願った子自身が代償として操られそうになってたから、それを庇っただけだよ」
えっ、と誰かが声を漏らした。
「――それ、願った子誰なの?」
質問を続けた私に、少し沈黙を作ったあと、クラウドが答える。
「……確か、晴と同じクラス」
「っ!……教えて」
本当は、私達のクラスにそんな願いを持ってた子が居るなんて思いたくない。
何かそうしないとダメな理由があったんだ、って信じたい。
でも、それだと皆に危険が及ぶから。
皆が固唾を飲んで見守っている。
クラウドが、口を開いた。
「それは――」
「ぼぼぼっ、僕だよ!!」
そこに同じクラスの――田辺輝君が来て、そう叫んだ。
たっ、田辺君が……?
「せっかく学校を壊すように願ったのにっ、き、きみらが、邪魔を……!」
田辺君は悔しそうに呻く。
「……っ田辺君、なんで……」
掠れた声で聞いた。
皆も息を呑んで田辺君の話を待つ。
「きっ、きみらが、ぼぼぼ僕を省くから悪いんだっ!!」
田辺君は、そう話を切り出した。
私達が田辺君を省いてる……?
そんな事無いよ!?
「僕はいつも影が薄いから省かれてっ、小さい頃から名前が“輝”なのに、なんて馬鹿にされた!!!」
そう悲痛な面持ちで私達に気持ちをぶつける。
スッと息を吸うと、恨めしげに目を細めて私達を見た。
「……今年のクラスの皆は、面と向かってからかわなかったけど。それでも適当に扱ってるし、心の中ではどうせ馬鹿にしてるんだろ!?」
「なっ、そんな事ないよっっ!!」
「うるさい!!君らのせいだっ、そんな奴ら全員居なくなっても良かった!でも情けをかけて、学校を壊すだけにしたんだ」
田辺君の言葉に反射的に否定の言葉を放つ。
田辺君が私をどう思ってるかなんて分からないけど、私は友達だと思ってる。
分かってる、友達の言葉を信じないのは、友達自身を信じないって事。
でも、これは、この言葉は絶対に違うから。
「君も可哀想だね!俺の代わりにわざわざ操られたみたいで!!」
クラウドを指差して口角を歪める。
あはは、と虚ろで空っぽな笑い声が、田辺君の唇の隙間から漏れた。
「もう良いさ、ここまでおかしな事が起きて、僕は君らに自白した!どうせこの後ウワサも出回って更に孤独にでもなる。僕に失うものはもう無いんだ!!」
狂ったように田辺君が叫ぶ。
雨が、まるで檻のように田辺君を囲い濡らした。
彼の必死の叫びは、皆の耳に届く。
――どこかで一筋の雷鳴が轟いた。
ゆっくりと田辺君に近付く。
じりじり、と距離を縮めると、別方向から来ているのも見えて、こんな状況なのにニンマリと口角が上がった。
「僕が……僕はもう……はは、あはははは」
ブツブツと呟いている田辺君に、バッと飛びかかる。
「うわあっ!?」
大声を出した田辺君を包囲するように私達が立っている。
田辺君は、ぽかん、と気が抜けたように私達を見た。
「田辺君っ!私達は皆、田辺君の事好きだよ!!日直の日登校してる時に、田辺君がお婆さんの荷物持って運んであげてるところ見た事あるし!」
まず私がトップバッターとして話し出す。
「私は急いでたから手伝えなかったんだけどっ、そういうところがすっごく優しい!!」
そう締めくくると、次は雪ちゃんが切り出した。
「田辺君、前グループ決めでくじを引いた時、晴ちゃんと同じ班になりたかった私とくじを交換してくれたでしょ?そういう、周りを見ていて気遣いが出来るとこ、本当に尊敬するなぁ」
雪ちゃんは、しっかり田辺君と目を合わせて告げた。
「私はちゃんと見れてなくて、こんな風になっちゃったけど……これからは見るから、まずは今困ってるであろう田辺君を助けたいなっ!」
その次に霧夜が、バツが悪そうに謝る。
「田辺、そんな事思ってたのか……俺、何も知らなかった、わりぃな。これから、最高のダチになろーぜ」
霧夜は、普段滅多に見せない笑顔を見せた。
「んの前、」
霜葉ちゃんが、優しく声をかける。
「田辺君はいつも課題を提出期限までに出してくれるし、私が先生に頼まれてノートを運んでいた時に手伝ってくれた事もありましたよね」
目尻を下げ、あだやかな声で囁いた。
「そういう素敵なところを持ってるんですから、皆さん話を聞いてくれます。だから悩みを溜め込まないでください!」
風斗君が、
「俺もノート書けなかった時に、近くに居たたなべんに貸してもらってさ。快く貸してくれたし、超丁寧で分かりやすかったし、まじ助かった!」
風斗君は、明るい太陽のような満面の笑みを浮かべた。
「だから、たなべん、そういう悩み俺達に打ち明けても良いんだぞ!てか打ち明けて!!助けになるから!」
田辺君は目を開きながらぎょっと私達を見詰めている。
確かにレインとクラウドは無言のまま囲んでいて、ちょっと怖いけど。
もう、せっかくならもっと怖がらせちゃおっかな!
なんて、冗談のノリで、皆で息を合わせて真ん中に進んで行き、田辺君を閉じ込めていく。
「ななななななんですか!?どっ、どうせ僕の下の名前さえ言えないくせに!!」
田辺君が迫ってくる私達に恐怖の視線を向けながら、そう言った。
「輝、でしょ?分かるよ!……というかさっき自分で言ってたけど」
「あっ」
気まずい、というより笑ってしまいそうな沈黙が流れる。
この状況ではまずい、でも普通に面白くて笑いそう……!!
慌ててゴホン、と咳払いをしたあと、何とか話を変えようと、
「というか、何でそんな事聞いて……」
頭に浮かんだ疑問を口にする。
それに霧夜が、あ、と素っ頓狂な声を上げた。
「分かった、もしかして下の名前で呼ばれたいのか?」
「うぐっ」
それに言葉が詰まった田辺君を見て、皆で目を輝かせた。
「え!?呼んでいいの!?やったぁ、輝君っ!!」
「そーなのぉ?じゃっ、これからよろしくね輝君!」
「あだ名とかも良くない?……てるっち、とか!!」
「てるっち……まあまあじゃねーか?」
「え、えええとじゃあ、てるっち君で良いですか……?」
田辺君、改め輝君(てるっち派が多いみたいだけど)は、私達の話を聞いて、完全に毒気を抜かれたような顔をしたあと、くしゃりと顔を崩して笑った。
「ごめんなさい、皆。僕が間違ってた」
土下座しながら輝君が謝罪する。
黒髪を雨が叩き付け、その雫が毛先に伝った。
あわあわと皆でしながら、急いで何とか床にへばりつく輝君を起こし、立ち上げた。
「……ゆっ、許される事だとは、おおお思ってないです。ただ、め、迷惑をかけた事、危険に晒した事、勝手に酷いこと言った事、他にも全部、ほっ、本当にごめんなさい!」
立ち上がっても深く頭を下げた輝君。
その体が寒さだけじゃない何かで震えていた。
皆と目を合わせると、そこに怒りの色が無いのに安心して。
「大丈夫だよ、輝君。私が全部元通りにしてあげるからさっ!」
ぽん、と背中に手を置いて、そう口元を緩ませて言った。
バッと身を上げた輝君に、うおっと驚いで、その真剣な、だけどそんな馬鹿な、みたいな顔に思わず皆で吹き出した。
「なななななんで笑うんですか!!そ、それに僕、許されない事を……」
「もー、良いって言ってるじゃん!!もちろん皆に怪我させた事とか、もし私が魔法で治したとしても、確かにあったその痛みだとかは無くなる訳じゃないから、全部許してはないよ?」
私はしっかりと輝君の瞳を貫いて語る。
「でも、最悪この世からその子が怪我をした、という事実を世界から無くすようイメージすれば良いし!規模が大きいとイメージ出来ないし、それを実現する力も無いんだけど」
「――なんで、そんなに優しいの……」
段々と輝君の顔に喜色が浮かんだり、また落ち込んだり。
コロコロと、最近の天気のように表情が移り変わる彼に、私は屈託の無い笑みを浮かべた。
「だってもう、友達じゃん!!」
「ぶえっくしゅんっ!」
くしゃみを1度する。
輝君は私の言葉にありがとう、と返して、それでも先生達にこの騒ぎは自己申告すると、裏口に避難しているらしい皆の所へ向かった。
私達の無事も教えてくれるらしいから、抜け出してきた皆もホッと息をつく。
少しモヤッとするけど、もう私達は友達だから。
さあ、これで一段落ついたな……なんて思っていたら。
そのせいか、忘れていたはずの寒気が今になって襲ってきた。
よくよく考えてみれば、私はあの土砂降りの中、傘もささずに戦っていた訳で。
レインやクラウド、はてはサンダーとは違い魔法でそれを防ぐ事もなかった訳で。
というか、なんなら今も雨に打たれてる訳で。
そう、つまり……。
――これ絶対風邪ひいちゃったよね!?
周りを見ると、他の皆はなぜか平気そう。
えええっ、なんで、私だけ!?
いや、皆に風邪ひいて欲しい訳じゃないけど、神様は不平等って言うか……。
ま、まあいーや。
魔法でパパっと治しちゃうかっ!!
「ウェザ――えくしゅんっ!!」
呪文を唱えようとするとくしゃみが邪魔する。
ちょちょちょ、もしやこれって……!
「ウェ、ハックション!っっっ!!」
――じゅ、呪文が唱えられないよー!!!
そんな事、ある……?
わざわざレインかクラウドに頼むのもアレだしなぁ。
というか、あまり魔法を使わない方が良いんじゃないかな?
なんかレインが、クラウドがすごい魔法使った時に慌ててたし!
「……大丈夫か、晴」
レイン含めた皆が私を心配そうに見ている。
「っうん、大丈夫!!そ、そういえば、私達って皆天気に関係する名前なんだね!」
心配をかけないためにも、話題を変える。
突然の話に驚きながらも、皆の名前を1つずつ確認していってるのか、私の体調の問題にはそれから触れられなかった。
「えと、晴ちゃんは、晴そのまま、霜葉ちゃん……も、霜、でそのままだね!」
「夢鐘――雪もそのままだな、風斗は風か」
「レインさんも、日本語で雨ですね。霧夜さんも霧が入ってます!」
「君はクラウドだよね、雲……いや、曇りでもだいたい一緒じゃん!」
確認し終わって、本当だー!って皆でわちゃわちゃしてる。
皆で1度はサンダーを退けた、のかは分からないけど、すごい偶然……いや、奇跡なんじゃない?
「あっ、じゃあさ、皆でお天気同盟組まない!?」
雪ちゃんが名案を思い付いた、みたいに叫ぶ。
「お天気同盟……って何だ?」
「さあ、人間界の文化とかじゃねぇの」
レインとクラウドの疑問の声に、
「お天気同盟はね、ここに居る7人で組むチームみたいなもの!!さっきの魔人――サンダーだっけ、ってあれ、天気の名前だ……」
と、楽しそうに話し始めた雪ちゃん。
途中で話が止まっちゃったけど、確かにサンダーも雷だから天気だなぁ。
「えっと、お天気同盟でサンダーを倒すの!!願われたとはいえ、あんな酷い事するの良くないし!それに、どうせ晴ちゃん達は、サンダーとこれからも戦うんでしょ!!」
ズバッと言い当てられた事実に動揺して、
「ええっ、なんで分かるの!?っていうか、一緒に戦ってくれるって事!?」
と、しどろもどろになりながら答える。
その質問に答えるように、皆がそれぞれ私に語りかけた。
「じゃ、俺もお天気同盟とやらに入る。少しくらいは助けられる、と思う」
「もっ、もちろん私も入ります!晴ちゃんの助けになれるように頑張りますから!!」
「俺も俺も!!はるるんみたいな魔法使いは、俺の憧れだから!これから狙われるかもしれない人達を守るの手伝う!」
「ふむ、素敵なものだな、お天気同盟。俺達も入ろう」
「レイン、俺らは元から入るの決まってるぜ……まあ、僕もあまり強い魔法を使えないなりに、晴の手助けをしたいから入るけどね」
皆が、お天気同盟として私を手助けすると微笑みかけてくれる。
心の奥底から気持ちが溢れるのが止められなかった。
「――っ、ありがとう!!皆っ、お天気同盟として頑張ろうね!!」
大声で感謝をして、目を合わせて誓う。
絶対に皆――お天気同盟でサンダーを倒してみせるっ!
打倒サンダーを志に、えいえいおー!と皆で高く拳を突き上げた。
はれときどき 幻想りと @-WEATHER-
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