第3話
ベッドに入ると瞳を閉じる。もし、本当に人生をやり直せるならやり直したい事は沢山有るんだ。
数分後__
私がいた場所は薄暗い公園。
一緒に居るのは、初めての彼氏である直人だ。
優しい直人の事が大好きだった。
でも、この男の正体は粘着質で自分勝手なDV男だ。
直人に気に食わない事が有ると殴られる。
それは、私が何かした時だけで無く、直人の虫の居所が悪い時という自己勝手な物だった。
何でこんな男と付き合ったのかと言うと、自分に自信が無かったから。
私なんかの事を好きになってくれる男性なんて、現れないと思っていたのに、直人が現れたんだ。
しかし、イジメの過去を変えたのに、再度この男と付き合うなんて__
とりあえず、コイツと別れなきゃ周りに心配を掛けてしまう。しかし、今公園にふたりっきりの状態。
今、別れ話なんてしたら100%殴られるよな。出来れば、痛い思いはしたくない。
でも、これ以上直人と一緒に居るのも地獄だし。。。
「ねえ、直人……」
「どうした?」
「私達、上手くいかないと思うんだよね」
そう口にした瞬間、直人の目付きがガラリと変わる。
「どういう事!?」
直人は私にとって変えたい過去だ。
この人と関わらないで良い過去が有るなら、大金を積んでもそうしたい。
直人は私の人生の癌だ。
「別れたい……」
そう口にした瞬間、身体に衝撃が走る。
直人に蹴られたのだ。
正直怖いが、直人みたいな幼稚な人間と関わり続けたく無い。
「と、いうか別れて!」
これで、別れられるような簡単な人間じゃない。それを理解しながら、その場を立ち上がると公園から出ようとする。
しかし、引き止められてしまった。
逃げようにも男の力で押さえつけられて動けない。
直人と付き合ったのは、紛れもなく私。
古い記憶を蘇らせ、直人と付き合っていた頃の事を思い出す。
そういや、直人の暴力に耐えられなくなり何回も逃げ出したっけ。でも、離れたら不安になって直人の元に戻っていたっけ。
そんな事を繰り返して、周りを心配させていた__
「離してよ。
私、どんな理由だろうと女を殴る男が嫌いなの!!」
気は強くなっても、力まで強くなる訳じゃない。結局、暴力を振るわれ直人に怯えていた。
チャンスを見て逃げ出そう。そう思った瞬間、直人が私を抱き締める。
「ごめん。俺だって、優花を殴りたくは無いんだよ。でも、優花が俺と別れるなんて言うから。俺は、優花無しじゃだめなのに……」
昔は直人のこんなセリフに心揺れていた。
ああ、あの時の私は自分自身が誰にも必要とされない人間だと思っていたから、必要とされる事が嬉しかったんだ。
結局、コンプレックスを誤魔化す為に直人を利用していたのかも知れない。
にしても、昔の私は何故こんな台詞に感動していたのだろう。結局、直人は人を殴る理由を人のせいにして逃げる最悪な男じゃないか。
心底気持ち悪い。殴られるのは怖いが、コイツから一秒でも早く離れたい。
しかし、一対一の状態で逃げるのは無理だろう。
とりあえず、今は出来るだけ人が多い場所に向かうのが吉だ。スーパーなんかに行ければ沢山人が居るから助けを求められるかも知れない。
でも、失敗したらまた殴られる?
もう、直人の事は忘れたはずだったのに、また関わるなんて悪夢だ。
辛すぎて記憶が曖昧だが、私は直人と三年近く交際していたはずだ。
直人と別れられた理由はなんだっけ。
ああ。直人が浮気をして、その女と同棲を始めたんだ。
「直人」
「どうした!?」
「私達今交際何ヶ月?」
「三ヶ月くらいかな!!」
冗談じゃない。あと、二年九ヶ月耐えれる訳が無いじゃないか。
お願い。夢なら一度覚めて!!!
強くそう願ってみたが、都合良く目が覚める訳でも無い。
もし、私が夢によって過去に起こった事を変えているのだとしたら、目を覚ますトリガーは何なのだろう。
もしかして、未来を変えなきゃ戻れない?
そして、未来を変える何かが起こるまで直人とふたりっきり?
「勘弁してよ。もう」
「優花どうした?」
「いや、お腹空いて、死にそう」
「あー、最近まともに食べてないもんな!
俺も、タバコ切れそう……」
直人にそう言われ、思い出したのは、タバコが無くなるとイライラする癖。
なんて、めんどくさい男なのだろう。
過去の私よ、なぜ、よりによってコイツを好きになる。
「とりあえず、お腹が空いたからスーパー行こう!タバコ代は自販機の下とかを探すしかないね……」
働いたほうが早い。
しかし、直人という人間は働く事を嫌う。
記憶の中では直人が働いた事が一度だけ有るが上手くいかなかった。
直人はまともに働ける人間じゃないのだ。
仕事中も自分勝手な行動が多く、びっくりするような事をする。
何より__
直人はかなりのヤキモチ妬きで、私が仕事で男性と会話する事すら許さない。勿論、そんな事が上手く行くはずもないから、その度に殴られていたっけ。
はあ、私ってばよりによって関わったらいけないレベルの人間と付き合うなんて。
「とりあえず行くか!」
「うん!」
スーパーに行く途中に自販機を見つける度に、お金が落ちてないか確認する自分が惨めだ。なんていうか、歳を重ねて干物女になっている自分が惨めだったが、この頃に比べたらマシに思えるくらい大変な生活をしている。
ああ、過去の自分と話す事が出来るなら、世の中には関わったらいけない人間ってやまつが居る事をミッチリ教え込みたいよ。
それでも、理解しなそうだから怖いけど。
結局、お金が落ちている事は無くスーパーに辿り着く。
今なら、助けを呼べる__
絶好のチャンスである事は理解出来るが、もし誰も反応してくれない可能性が恐ろしい。
でも、直人に関わりたくない。その一心で、スーパーに足を踏み入れた瞬間レジに向かって走る。すぐに、私の異変に気付いた直人が追い掛けて来て、私の腕を引っ張った。
「すいません!助けて!!」
レジ係の女性がギョッとした表情で、私を見た。その女性の考えている事が手に取るように分かる。関わりたくないんた__
面倒事に__
「どうかしましたか?」
「彼氏に殴られて、怖いんです!」
私がそう訴えた瞬間、直人が微笑み、信じられない事を口にした。
「優花……。
喧嘩しただけで、変な事を言うのはやめてくるれよ!!周りを巻き込むなって!!」
「殴ったじゃない!!」
そんなやり取りをしていると、呆れた顔で皆が私を見る。
「迷惑掛けるから、嘘は辞めよう」
「嘘なんて付いてない!!」
これは、何!?
頭がおかしいのは直人なのに、私が悪いみたいになっている。
大体、実際狂っているのは直人なのに、何故こういう時だけ常識人を演じるの!?
周りが私を信じてくれないと、また直人に殴られる。もし、かしたら殺されちゃうよ。
なんで、皆私を疑うような目で見ているの?
助けて。助けて。信じて。
どうしたら、理解してもらえるか模索していると私の周りには野次馬が集まっている。
それは、騒動に興味を示しているだけで、私を助けようとしてくれる人は一人も居なくて、心が折れそうだ。
「優花。騒いでないで落ち着こう。
一回外に出て深呼吸でもしよう」
直人は悪魔。なのに、人の良い男を演じるから厄介だ。
「私は外に何て出ない!!
あんたとふたりっきりになったら、何をされるか分からないじゃない!!」
「なにもしないよ。
ほら、周りの人に迷惑が掛かるから!行こう!!」
直人は爽やかな笑顔を浮かべると、「迷惑掛けてすいません」とだけ言って、私の腕を引く。
「私!本当に殴られているの!!
せめて警察を呼んで!!」
必死に助けを求めているのでに、誰も信じてくれないのは何故だろう。
私は野次馬からすれば、ただの頭のおかしい女なのだろう。冷たい視線が突き刺さる。
上手く行くはず。そう思っていたのに、何も上手くいかない。私はピエロだ。
どうしょうもない絶望を感じながら、直人に腕を引かれスーパーから出てしまった。
「よくも、俺を裏切ったな」
直人が低い声でそう呟く。それは、絶望。
ふたりっきりになった私は直人が殴り飽きるのを待つしか無いから。
私は今迄無いくらい直人を怒らせているから、何をされるか分からない。
だ、れ、か、わ、た、し、を、た、す、け、て。
神様からの贈り物 十枝 日花凛(とえだひかり) @osousama
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