第2話

 鳥の囀りに、カーテンから洩れた光。

 ああ、やっぱり夢を見ていたんだ……

 

 ワンルームの少し散らかった部屋。

 いきなり現実に引き戻されて嫌な感じがするが、夢の中でイジメに立ち向かえて少しだけ気分が良い。


 ああ、昔の自分がもう少しだけ今の自分に近ければ、私の人生変わっていたのだろうか。

 そんな事を考えながらボーッとしていると、インターフォンが鳴り響いた。

 現在10:45

 宅配かなんかかと、考えながらドアを開けると見覚えの有る顔が立っている。

 しかし、変だ。私に、友達なんて一人も居ない。でも、私はこの顔に見覚えが有る。


「あっ!ギャル!!」

「優花さー、たまに私の事ギャルって呼ぶよね。笑える〜」


 そう言って豪快に笑うギャルの名前はたしかひとみだったはずだ。学生時代は男子のマドンナ的存在で目立つ女の子だったから私は覚えていたが、何故ひとみが私の家を知ってるのだろう。


「で、何故此処に?」

「此処って?」

「何で、私の家知ってるの?」

「なんでって。うちら、友達じゃん!!」

「へ???」


 友達?

 は?マドンナと私が友達!?

 もしかして、まだ、夢を見てる!?


「優花って、たまに意味不明な反応してくるよね。ウケる。て、事でお邪魔します!」


 そう言って、華奢な靴を脱ぐと部屋に上がり込んで来たひとみを阻止する。


「あ、あ!今、部屋汚い!!」

「今更何言ってるのよ!優花の部屋が散らかってるのは何時もの事でしよ!!」

「何でそこまで知ってるのよー!!」


 昔はギャルだったひとみ。でも、今はThe.仕事が出来る女って感じの綺麗な格好に変わっている。というか、この子相変わらず綺麗だな。


「何言ってるの?あー!!懐かしい!!」


 部屋に上がり込んだひとみの視線の先に有ったのは、卒業アルバムで目を輝かせながら、それを手にとった。


 おかしい。おかしい。おかしい。

 だって、私の部屋に卒業アルバムなんて無いはずなのに。

 だって、卒業アルバムに写った私の顔は気持ち悪過ぎたから捨てたのだ。卒業アルバムを捨てるなんてとも思って悩んだが、学生時代に良い思い出も無かったから、確かに捨てたはずなのに。


 パラリ、パラリ。

 ひとみが、卒業アルバムをめくる。

 そして、私のクラスの写真に辿り着いてしまった。


「この時の優花は本当に垢抜けたよね!」

「垢抜けた?」


 ひとみの言葉の意味が分からず、恐る恐る卒業アルバムに目を向けた。

 そこに映る私は、記憶の中の学生時代の私では無い。野暮ったい眼鏡はしていないし、髪型だって可愛らしい。それに、何より。


 無表情だったはずの私が、笑ってるんだ。


「一体、ど、ういう事?」

「優花ったら、どうしちゃったの?」

「私ってもっと、ブサイ...じゃなくて、垢抜けなかったはずだよね!?」

「優花と仲良くなった時は垢抜けなかったけど、すぐ可愛らしくなったじゃない?」

「そ、うなの?」

「そうそう。優花、私と仲良くなったその日にかなり変わったんだよ?」


 そんな記憶全く無い。

 

「そうなの?」

「そうそう。懐かしいな!優花って、梅木さんに目の敵にされていたの覚えてる?」

「あ、確かに嫌われていたね」


 というか、さっきその時の夢を見たばかりです。て、夢!?

 そういえば、あの夢を見てから何かがおかしい__


「私、ずっと優花が言われ放題なのが気に食わなかったんだ。でもさ、あの日優花が梅木さんに正論を言い返した時スッキリしてさぁ!!」


 それ、夢の中での話ですよね?

 て、現実!?


「その後、どうなったの?」

「どうなったのって、、、あの日の事覚えてないの?」

「あ、うん」


 ひとみが懐かしそうな顔でフフフと笑う。

 そして、まさに夢の後のストーリーを話し始めた。

 あの後、私とひとみは仲良くなったらしい。ひとみはあの時の私がかっこよかったと褒めてくれた。

 そして、放課後私の家で遊ぶ事になったらしい。それは、私を垢抜けさせる為。家に行くと、何故か祖母がコンタクトレンズを買いに行く為に待機していて、ひとみも一緒に眼科に行ったとか。


 ああ、確かに朝祖母にコンタクトが欲しいとねだったっけ__

 祖母は私の何気ない一言を覚えていてくれたんだ。そう思うと涙が溢れた。


「次の日ねえ、学校では可愛くなった優花を見て、皆ビックリしていたんだからぁ!!」

「そうなんだ」


 私の人生が変わっている。

 きっと、その原因は夢のせいだ。

 て、事は、夢を見ると私の人生をやり直せるのだろうか?

 人生をやり直す事は、私がずっと思い描いていた夢。最初のやり直しが学生時代。イジメられて登校拒否になりかけギリギリで学校を卒業した過去が違う過去になっている。


 この日、ひとみとご飯を食べに行き、家に帰ると1人ベッドの前で考える。

 もし、また夢を見れたら大きく変えたい過去が有る。

 でも、夢の中で人生をやり直す事なんて可能なのだろうか。いや。

 可能でも不可能でも、可能性が有るならしたい。それが、どんなに辛くても。


 この夢は神様からの贈り物。

 ううん、神様からの試練なのかも知れない。


 

 

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