面白くないコントは、永遠に

白鷺(楓賢)

本編

トイレの一角が舞台となるシュールなコント。観客は一人の青年だけだが、彼はその奇妙な舞台に捕らわれていた。


舞台は古びた公衆トイレ。照明は薄暗く、湿った空気が漂う。壁には汚れたタイルが並び、便器が一つ中央に鎮座している。そこに立っているのは二人のおっさん。彼らは始まってからずっと、延々と無表情でコントを続けている。


青年は、最初は興味本位でこの奇妙なショーを観ていた。だが、おっさんたちのやり取りが繰り返されるにつれ、何とも言えない不快感が募っていった。おっさんたちはトイレットペーパーを手に取り、無意味に投げ合ったり、便器に腰掛けたりするだけ。台詞もまともに意味を成さず、ただ抽象的な言葉をぶつぶつと繰り返している。


青年は時間を確認した。もう2時間が経っている。コントは一向に終わる気配がない。最初は笑おうとしていたが、次第にその努力すら無意味に思えてきた。観客は最初は何人かいたはずだが、いつの間にか、青年一人だけが残っていた。


苛立ちは次第に募り、やがて怒りに変わっていった。「なんでこんなことをやっているんだ?」青年の頭の中に、その問いが渦巻く。彼はついに耐えきれず、立ち上がった。目の前にあるパイプ椅子を手に取り、舞台に向かって叫びたくなった。「もうやめろ!」


だが、叫ぶ前にふと気づいた。おっさんの一人が、青年をじっと見つめているのだ。まるで彼の心を見透かしているかのような目だ。だがその表情には、何の感情も浮かんでいない。ただ、無表情のまま、ゆっくりとトイレットペーパーを手に取り、また何かを言いかけて口を閉じた。


この瞬間、青年は何かが壊れるのを感じた。パイプ椅子を握りしめ、彼はついに叫んだ。「いい加減にしろ!」


その叫び声は、舞台全体にこだました。だが、おっさんたちは一切反応せず、ただゆっくりと舞台の後ろに消えていった。青年はその場に立ち尽くした。何も起こらない。ただ静寂が戻っただけだった。


やがて、青年は力尽きたように舞台の中央に倒れ込んだ。パイプ椅子を持ったまま、彼はその場に崩れ落ちた。「俺の怒りは…どうすればいいんだ…」


その言葉は虚しく響き、誰にも届かなかった。舞台は再び暗闇に包まれ、青年はそのまま深い眠りに落ちていった。目を覚ましたとき、舞台は消え、トイレには誰もいなかった。彼はただ一人、冷たい床の上に横たわり、遠くで滴る水音だけが聞こえていた。


そして彼は立ち上がり、何もなかったかのようにトイレを後にした。だが、彼の心には、消えない苛立ちと虚無感が残っていた。それは、これからも彼を追い続けるのだろう。永遠に。


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面白くないコントは、永遠に 白鷺(楓賢) @bosanezaki92

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