第4話 まるで決められていたかのように

あの背中ぶったたき事件から私と彼は、毎日のように意味のない喧嘩ばかりを繰り返した。私たちは、まさに真逆だった。

人の心を開くのも、自分が開くのも得意だった愛されキャラの彰人と、うまく人に心は開けないし、開いてもらうのもへたくそな私。

大切だと思うことも、得意だと思うこともまるで真逆で。だからいつも、決して私たちは向き合って慰めあったり、お互いが自分についてきているかなんて振り返りもせずに背中を向けあって進んでいった。それでもまるで決められたかのように、背中を預けるのはお互いだったし、そこに相手がいることを疑うことはなかった。


夏を迎えて繁忙期を向かえ、外部のステージに選ばれたメンバーのみが出演するようなチャンスも増えてきた。そこで私ははじめて、見ようとしなかった彰人の背中を見ることになる。彰人だけが何個も飛び級をしてメンバー入りした。今まで背中を向けあって、同じように進んでいたつもりだったのに、気づいたら彰人は。私に随分差を勝手につけて、振り返りもせずに遠くへ行っていた。同じ力で押しあっていることで立っていた私は、背中を支えるものをあっという間に失うことになる。その瞬間に、私がいかに嫌いだと、いけ好かない奴だと思っていたあの男に寄りかかっていたのかを知った。


悔しかった。離されることが。置いて行かれることが。

置いて行かれることをどこか知っていたように納得している自分がいたのが。

寂しかった。


手を伸ばすのも、待ってというのも言ってはいけない言葉な気がして。

そこに寂し気に私は立っていたんだと思う。どうやって立っていようかなと考えながら。ぽっかり空いてしまった背中を丸めて、縮こまっていた。もう、背中を預けてられないんだって、勝手に寂しくなっていた。


でもあいつは何にも変わらなくて。当たり前に隣に一つの空席を空けていた。

私がそこを通り過ぎようとすると、あいつは心底不思議そうに、こちらを向かずに言う。


「おい、初音。席、ここ」


決められたように空いた席に、私が座るとあいつはいつもと変わらずに腹立つ悪態を並べる。こっちを向きもせずに悪態をついて、ただ前を見据える横顔を見る。


「ぼさっとしてんな」


あいつは昔から深く考えないたちだったからその言葉に意味もなかったんだろうし、いつも通りの悪態だったんだろうし。

私が何を考えているかなんて、気遣ってすらいなかったんだろうと思うけど。

私には、その言葉が「早く追いついてこい」と言われている気がして。

腹が立ったから、背中をまたぶん殴ると、目を吊り上げたあいつがこっちをみる。


「だからいてぇんだよ!馬鹿力!」


ねぇ、私絶対追いつくからさ。

あんたがどんな天才になったって、背中を正せる相手でいるからさ。

だからもう少しだけ、背中は誰にも預けないでいてよ。

すぐに追い越して見せるから。今度はあんたに追いかけさせてあげるから。

だからもう少しだけ。

この席は私のためにあけておいてよ。

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