第7話 ご先祖様
そのノートを見て僕は思わずページを捲る。
そこには驚く事が書かれていたんだよ。横から一緒に見ていたタマリちゃんも驚いている。
けれども僕もタマリちゃんも読んでる途中で大きな失敗をした事に気がついた。
「フフ、二人とも読めるんだぁ。どうしてかな?」
ステラ様のその言葉でハッとしてしまう僕とタマリちゃん…… 思わず二人して顔を見合わせてしまったけれども、それもまた失敗だよね。
「フフ、教えて欲しいなあ〜」
僕もタマリちゃんも前世の記憶があるから英語で書かれているこのノートの内容は母国語同様に読めてしまう。それは見れば直ぐにバレてしまう事だったのに…… この場では分かりませんって言って直ぐにノートをステラ様に返すべきだったね。
けれども肉体に引っ張られているのか精神年齢も幼くなっている今の僕たちはそこまでの知恵がまわらなかったんだ。
うん、とりあえず開き直ろう。
「とりあえず、後でご説明しますねステラ様。今はこちらのノートをもう少し見させて下さいね」
ニコッと笑ってそう言い切った僕を見てステラ様が驚いた顔をしているけど僕はもう開き直っているから気にせずに続きを読んでいった。
タマリちゃんも僕の言葉を聞いて開き直ったみたいで僕の横で一緒にノートを読んでいく。
数分後にタマリちゃんが僕に言った。
「ねえ、ローラン。このノートを書いた人ってあの人じゃない?」
タマリちゃんがアヤナの口調で僕にそう言う。なので思わず僕も前世の口調で返事をする。
「うん、そうだねアヤナ。絶対にそうだと思うよ」
「やっぱりそうよね……」
「うん……」
このノートを書いた人はバステン·アンドルーズ。僕の前世の
バステンさんは行方不明者扱いで、僕の曽祖父がアンドルーズ家を継いだんだけど、まさか異世界に来ていたなんて!?
家に残っていた曽祖父の手記によるとバステンさんは破天荒な人で、十一歳の頃に何を思ったのか単身でシルクロードに向かったとか、十三歳の時にはドイツに行ってヒトラーと喧嘩したとか何とか……
当時の伯爵家当主だった曽曽祖父はかなり頭を悩ませていたんだとか。そんなバステンさんは二十歳の頃に姿を消して、二年後に死亡届が受理されて曽祖父が後を継いだ。
ノートに書かれている内容はというと……
「ローラン…… ほんっとうに貴方の血縁者ね」
「うん…… 否定はしないよアヤナ……」
だってさ、先ず第一声が、
『ヤッターッ! 未知なる世界に来たぜっ!! さすが俺様!!』
だよ…… 次に書かれているのが、
『ウヒョーッ!! び、美人さんがこんなに多いなんて、異世界サイコーッ!!』
だよ。うん、間違いなく僕のご先祖様だね。ちゃんと僕にも自覚はあるんだよ。
で、その後はステラ様の遠い遠いご先祖様である生涯の伴侶と一緒になって、この辺境の地で根を下ろして魔物たちを退治して開拓者となり、気がつけば王家から子爵位を賜っていたと。
その後は子孫に向けた言葉が書かれている。これはステラ様に伝える必要があるけど、もう一つ地球の子孫に向けた言葉もあったんだ。
『我が子孫に告ぐ。もしも私と同じようにこの地に訪れた者が居るのならば、敵味方を的確に見極めて行動するように。そして、願わくばこの地に誕生して続いている親戚が困っていたならばその力を貸してやって欲しい…… それが我が願いだ、ハーティン、頼むぞ』
だった。ハーティンというのは曽祖父の名前だよ。う〜ん…… コレを読んだ時には
「どうやら読み終わったみたいね。どうかな、二人とも。私たちの始まりの祖は何て言ってるのか教えてくれるかな?」
僕たちが読み終わったとみたステラ様がそう聞いてきた。僕とタマリちゃんは思わずヤーラちゃんを見る。どうしようかな? ヤーラちゃんにも真実を教えたい気持ちはあるんだけど……
そんな僕たちを見てステラ様が言う。
「大丈夫よ。何があってもヤーラはあなた達の友だちをやめたりしないわ」
うん、そうだよね。僕が外れスキルだと言われてもヤーラちゃんはずっと友だちで居てくれた。それを疑うなんて馬鹿な事だったよ。
なので、今度はナルディさんを見る僕たち。
「ああ、そうね…… ナルディ、しばらく離れていてくれる。ここならば誰も私を害する人は居ないから」
ステラ様の命令にナルディさんは一礼をしてこの場から離れて行ってくれた。
さて、それじゃ覚悟を決めて話そうか。
「ステラ様、僕がこれから言う話はとても信じられないかも知れません。ですが、どうか僕が最後まで話すまで口を挟まずに聞いていただけますか?」
僕の言葉に覚悟を決めた表情でステラ様が頷いてくれたので、僕は話を始めた。
僕とタマリちゃんには前世の記憶があり、そしてその記憶では二人は夫婦であった事。そして前世の僕が王家より伯爵位を賜っていた事。それから、僕のスキルが前世の言語によるものだという事。
更には、フロント辺境伯家の始祖であるバステン·フロントが実は前世の僕の血縁者で、曽祖父の兄に当たる人物である事。だから現在は血の繋がりは無いにせよ、前世の事を言えばステラ様と僕とは血縁者となる事。
なんかを話して差し上げたんだ。
「えっと…… 多分だけどローランくんが嘘を言ってないのは分かるの。でも、本当なの? だって私たち辺境伯家の祖であるバステン·フロントは四百年前の人物なのよ」
うん、出たね。時空が違うんだろうね。たまたまバステンさんが飛んだのが今から四百年前の時代だったんだろうと思うんだ。
何しろ何処からどうやってこの世界に飛んできたのか僕にも分からないからね。
その事を僕が説明すると、ステラ様は感極まった様子で言ったんだ。
「そうなると、ローランくんはうちのご先祖様って事よねっ!?」
いえ、違います。前世の僕とバステンさんは血縁者だけど、今の僕はこの世界に産まれた農民のローランですから。
その事を説明したんだけどステラ様には通じなかったようで……
で僕が困っていたらタマリちゃんがバステンさんがこの世界の子孫に向けた言葉をステラ様に説明をしたんだ。
「ステラ様、バステンさんからの子孫に向けてのお言葉をお伝えします。『我が子孫に告ぐ。もしも異世界からの我が子孫が現れたならば、その希望を尊重し決して無理難題を押し付ける事なかれ! また他の貴族たちに目をつけられる事のないようにしっかりと保護するようにっ!!』と、書かれておりました」
タマリちゃんのその言葉にステラ様はハッとされて、僕たち二人に頷いてくれた。
「そう! そうね! 二人は前世とはいえバステン様の子孫になるのだから! 勿論だけどフロント家の総力を持って二人を守る事をここに誓うわっ!! それとは別に…… 少しお願いがあるのだけど……」
守ると言って下さったステラ様のお願いだから聞きたいとは思うんだけど、何かな?
「来れる時で良いので領都に来て父と母、兄にもその話をしてくれないかしら? もちろん、私の両親も跡継ぎである兄も二人の事を利用したりしないのはここに誓うわ。何なら神前契約書を交わしても良いわよ」
何だ、そんな事か。それならば僕とタマリちゃんの両親が良いと言えば直ぐにでも領都に行けるよね。だから僕たち二人はステラ様に両親の許可が得られたらとお伝えしたんだ。
それから、ヤーラちゃんを見る僕とタマリちゃん。
「エヘヘ、やっぱり私の友だちは凄かったんだね! 私は前世の記憶なんて無いけど…… 二人ともこれまで通り私と友だちでいてくれるかな?」
「「もちろんだよ! ヤーラちゃんとはずっと友だちだよ!!」」
僕とタマリちゃんの言葉にヤーラちゃんが泣き出したんだ。僕はオロオロするばかりだったけど、タマリちゃんが直ぐにヤーラちゃんを優しく抱きしめて、
「ヤーラちゃん、いつも有難う。そして、外れって言われて迫害されていたローくんを守ってくれて、ずっと友だちで居てくれて本当に有難う!」
そう言って更に泣かせちゃったんだよ。まあ、ヤーラちゃんが嬉し泣きをしてるのは分かったから、僕はここでこう言ったんだ。
「ヤーラちゃん! 僕はヤーラちゃんが友だちでいてくれて本当に嬉しかったんだよ。だから、これからもよろしくね!」
笑顔でそう言い切った僕に何故か不機嫌になるタマリちゃん…… アレ? そんなに変な事は言ってない筈なんだけど……
「フフフ、ローランくんは乙女心をまだ分かってないみたいね。前世でもこんな感じだったの?」
「ハア〜…… そうなんです、ステラ様」
「ウフフ、大丈夫よタマリちゃん。私はローランくんとは友だち以上の関係を望んでいないから」
えっと、僕もヤーラちゃんとは友だちとしてこれからもよろしくって宣言したつもりなんだけどな。
「フフ、まあそこがローランくんの良いトコロなのかもね。タマリちゃんは苦労しそうだけど」
ステラ様がそう言って僕たちを見て微笑む。
そうかなあ? 僕としては生涯の伴侶はタマリちゃんしか居ないと心に決めているんだけどね。
そんなに苦労することは無いと思うんだけどな。
「フロント家の始まりの祖であるバステン様も口伝だけど似たような話が多く残っているわ。まあ、それでも心配にはなるわよね。でも、信じる事も大切よタマリちゃん」
「はい、分かってます、ステラ様。前世でも同じでしたから私も慣れてますし」
フフフ、アハハと笑い合う三人(ステラ様、タマリちゃん、ヤーラちゃん)。僕は何でだろうと不思議に思うだけだったけどね。
「さてと、それじゃ二人には明日にでもご両親と話をして貰わないと。もちろん、私も二人のご両親と話をさせて貰うわね。あ、それとヤーラは私付きの護衛兼狩人として雇う事に決まってるから、それも二人に知らせておくわ」
サラッと言うステラ様に驚く僕とタマリちゃん。何故かヤーラちゃんも驚いてますけど?
「あれ? ヤーラに言ってなかったかしら?」
「いま、初めてお聞きしましたステラ様……」
「そうだったかしら? ああ、ヤーラのお父さんに話をして了承して貰ったからヤーラにも話した気になってたんだわ! ゴメンねヤーラ。嫌なら断ってくれても良いからね」
だけどステラ様のその言葉にヤーラちゃんはフルフルと首を横にふり、
「いいえ、嫌だなんて事はありません。どうかよろしくお願い致します、ステラ様」
そう言ってステラ様付きになる事に。
そして、今日のお茶会は解散となり、僕たちはそれぞれ家路につきよく早朝……
ステラ様、善は急げとジャパニーズことわざにありますが、朝五時は早すぎると思います……
使えないスキルだと言われたけど、分かってみたら最高のスキルでした! しょうわな人 @Chou03
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