第6話 スキル検証
辺境伯様の次女であるお嬢様ステラ·フロント様が村に住まれてはや
当初は村の空き家でも大きめの家に住んでおられたのだが、それではダメだと村長が音頭を取ってステラ様のお屋敷を村長の家の隣に建てた。
村長宅よりも大きく立派な、けれどもお貴族様が住むには慎ましい辛うじてお屋敷と言えるレベルの家をステラ様は気に入ってくださり、狩りに毎日のように行かれて獲物を持ち帰って来られる。
その強さは近接戦闘で発揮されるそうで、ヤーラちゃんが二度ほど一緒に行ったそうだけど、華麗なる剣さばきだったそうで目を輝かせて話してくれたっけ。
そんなステラ様は屋敷に住むようになって、お付は侍女の人が一人だけだったけど、屋敷が出来てから辺境伯様から侍女の方が二名に執事の方が一名、追加で村にやって来たんだ。
ステラ様も早々に村に馴染んだように、後から来られた侍女のお二人や執事の方もすんなりと村に馴染まれたのにはビックリしたんだよ。普通はお貴族様にお仕えする方たちって、村人を見下してると思ってたからね。まあ、そう思ってたのは前世で読んでたラノベの影響なんだなってお三方を見て思い知ったよ。
で、困った事が一つ…… いや二つ…… 三つかも?
ステラ様が僕やタマリちゃん、ヤーラちゃんのスキルの詳細を知りたがるんだよね。僕は村長に言われた通り、僕にも詳細は分からないですって言ってるんだけど、ヤーラちゃんは一緒に居る時間が長いからか一緒に検証しましょうって言って狩りの時にスキルをバンバン使わされてるそうだよ。
ご愁傷様です、ヤーラちゃん……
僕とタマリちゃんは上手にステラ様を躱してるんだけど、そこに伏兵がいて何と侍女の方が何かと探りを入れて来るんだ。侍女の方も何らかの訓練を受けている人みたいで、僕には気配を掴めないんだけど、幸いな事にタマリちゃんがちゃんとその人の気配を掴めるから、いる時にはスキルの検証をしないようにしてるんだよね。
でもその所為で僕のスキルの検証はあまり進んでない。もちろんだけど、七歳でスキルの事が分かってからも一所懸命にスキルの検証をしてきたんだけど…… 魔力が低すぎて検証にならなかったんだよね。
で、やっとまともに検証でき始めたのが魔力が三桁を超えた九歳から。
それでも村の人たちの目があるからそんなに頻繁には出来てなくて。
で、この間の魔物襲撃で僕のスキルを村の人たちにも見せたから、これからは大っぴらに検証していこうって思ってた所にステラ様がやって来てしまい、タマリちゃんと二人で悩んでいるんだ。
「ローくん、どうしよう? 今日も来てるよナルディさん」
「あっ、そうなんだ…… う〜ん、困ったな。まあ知られたからってどうという事は無いんだけど、辺境伯様にお仕えをとか言われたら面倒臭いしねぇ」
二人で今日も悩んでいた。ナルディさんっていうのがステラ様にはじめから付いて来てた侍女さんで、隠密スキルを持ってるみたい。
僕には全く気配を感じさせないからね。まあスキル【神農】を授かってるタマリちゃんにはバレバレらしいんだけど。
今のところ、僕のスキル【alphabet】で分かっているのは、職業系の名称を選んでその職業になるのに必要な魔力はどれを選んでも固定で30の魔力が必要なこと。
攻撃系の場合は僕の目視できる範囲が対象になること。またその場合は単語の組み合わせによって必要な魔力が変わること。
治療系の場合は最小が3最大が50の魔力で発動できること。怪我や病気によって必要な魔力が変わること。
レベルは50に届いてないからh.b.e.tの単語はまだ使えないこと。
これぐらいは分かっているんだよね。本当は一つの単語で二つの意味がある場合は、僕のイメージによってどちらかを選択できるのか? とかを検証したいんだけどね。
まあまだ十歳なんだしタマリちゃんと二人でぼちぼちと検証していこうねって話してるんだ。
タマリちゃんのスキルの検証も同時にやってたんだけど、そちらも今はストップしてるしね。
【神農】は凄いよ。なんたって神様の名前を冠したスキルだからね。
主に農業と薬草についての能力が凄いらしいんだけど、農業の方はともかく薬草の方は僕たち二人ともがまだ幼いというのもあって村の外に出られないから売っている薬草で検証してたんだ。
でも限られた薬草だけだから今ひとつスキルの凄さが分からないんだよね。
でもそれも魔物を退けた功績を認められたから村の外に出て良いという事になったんだけど……
ナルディさんが付いてくるんだよね。僕たちのスキルを探って何をさせたいのか分からないからタマリちゃんと相談して村の外では魔獣狩りをして素材を狩人組合に卸しているんだ。
本当は薬草関連の事を調べたいんだけどね。
中々難しいねと二人で話し合う日々が続いてたんだ。そんなある日ステラ様にお屋敷に呼ばれた。
ヤーラちゃんも居るからとのことでタマリちゃんと二人で行ってみたんだ。
「ようこそ、お二人とも! やっとゆっくりとお話出来るわね」
ステラ様ご自身にそう出迎えられた僕たち二人は、庭に案内されたんだ。そこにはナルディさんも居て、セットされたテーブルに僕たちのお茶を準備してくれていた。
「どうぞこちらにおかけ下さいませ」
ナルディさんに言われた席に座る僕とタマリちゃん。そんな僕たちを見ながらステラさんがおもむろに語りだした。
「あのね、二人にお話があるの。私がローランくんやタマリちゃんのスキルについて知りたいって言ってるのは、二人を守る為なの。私の父は辺境伯なんて地位にいる貴族だから、それなりに力は持っている。今はまだローランくんやタマリちゃんのスキルについて他の貴族には知られていないけれども、この先は分からない。もしも知られたら利用するために二人をこの村から攫っていく悪い貴族も中には居るから…… その時に守れるように私たちは知っておきたいと思っているのよ。決して知って悪用しようとかいう訳じゃないから、詳細にとは言わないから、何が出来るのかとか教えておいて欲しいのよ」
う〜ん…… ちょっとステラ様には悪いけど信用出来ないなぁ。だってスキルの事を知らなくても、自分の領地の領民を攫われたなら守る必要が領主にはある筈だよ。
僕の不審げな視線を感じたらしくステラ様が言葉を続けた。
「勿論だけど領民を攫われたなら守る義務が領主にはあるわ。でも、その際に優先順位がつくのも当然の事になるのを知っていて欲しいの。本当はそんな順位なんかはつけてはいけないのだけどね。希少なスキルを持つ人はそれだけで助けるに値すると貴族は考えるものだから……」
ああ、それは分かるかな。必要ならば領民を切り捨てる事だってあるだろうし。それは前世の僕も貴族だったから言ってる事は良く分かる。
はあ〜、仕方ない。当たり障りない程度で僕やタマリちゃんのスキルについて話をしよう。
以前からタマリちゃんとはこういう時の為に何処まで話をするのかを決めていたしね。
そこで僕は自分のスキルについて話した。何やらa.b.c.d.e.f.……zまでの記号があって、それらを組合せる事によって意味のある言葉になるらしい事。そしてそれによって魔法の様な力を発揮出来る事などをステラ様に伝えた。その際には制限があって、スキル名のa.l.p.h.b.e.tから始まるようにしなくてはダメな事やレベルが上がらなければ使えない記号がある事までは伝えたんだ。
タマリちゃんのスキルについてもタマリちゃんが自分の話して良いという範囲でステラ様に説明をした。
僕たちの話を聞いたステラ様は
「有難う、二人とも話してくれて。それじゃ、その事は父に報告させて貰うわ。それとは別にローランくんには見て欲しい物があるの。ナルディ、アレを」
「はい、ステラ様」
そう言ってナルディさんが一冊のノートを手に戻ってきた。それを手にしたステラ様は僕にそのノートを手渡した。
「このノートはうちのご先祖様、それも始まりのご先祖様が書いたと言われているの。今では誰も読めないんだけど、良かったらローランくん、見てくれる?」
そう言って手渡されたノートは英語で書かれていたんだ。
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