匿名短文元神童企画 感想

奈良ひさぎ

感想

01 麻里子を月に連れてって

タイトルに違わぬストレートにぶっ飛んだ(物理)作品だったと思います。

地球に「ごみばこ」ってルビを振るセンスよ。ポストアポカリプス好きとしてはたまりませんね。

天宮くんの口ぶりを見て、こんなしゃべり方する小学生いるかよ、と一瞬思ったのですが、よく考えなくても神童でした。企画の根幹。今回の企画作品を読む時に常識を持ち出してはいけない。胸にとどめます。

※03まで読んで:これが最初に来てくれていて本当によかったと思いました。ちょっと03がいかつすぎる。感想書けるかこんなん。



07 元神童はメイドに押しかけられる

この手の企画で西洋系の名前が出てきたり、舞台が西洋チックだったりする作品はだいたい読み飛ばす傾向にあるのですが、これは読みました。サミュエルってどっかで自作に浸かった名前な気がするんだよな。気のせいかな?

途中でサミュエルとクレア、どっちがどっちか分からなくなりましたが、もう一回読んだら分かりました。カタカナを覚えるのが苦手なだけでした。

かつての天才少年が落ちぶれた後も押しかけと称して、メイドとしてお世話してくれる展開、いいですね。魔力の強さで家の中での地位が高くなったり、かと思えば科学の概念もあったりと、どういう世界観なのかこのお話だけからでは分かりませんが、楽しませていただきました。



13 お節介かもしれへんけどな

「元」神童というテーマからしてそうなんですけど、ここまで読んできて、大人になって落ちぶれてしまった、あるいは堕落してしまった大人かその周辺の人間の視点で書かれている作品がほとんどでした。この作品もそうなんですけど、「どういう理由でその昔神童だったのか」がすごく現実的な作品は、01から順番に見るとこれが最初でしたね。数学オリンピック、懐かしい響き。

ちなみに私も学生時代いろいろ受けていまして、数学オリンピックは1次予選で3~4点/12点満点取るのが関の山、化学オリンピックも予選に当たる化学グランプリで、高3の時に1次予選でそこそこいい成績を取ったくらいの人間でした。化学グランプリの1次予選は300点満点でだいたい230~240点くらい取れると2次予選に行けるのですが、確か高3の時は210点くらいだった気がする。記憶が上方修正されているかもしれません。ちなみに、2次予選でも優秀な成績を収めると銅賞、銀賞、金賞、大賞(ベスト5)がもらえるのですが、この実績をひっさげていくと場合によっては東大の推薦入試に行けるレベルになります。保証はできませんけどね。

そんなわけで、作品の話を全然していませんでした。しれっと過去の自分とご対面しているところがポイントですね。過去の自分が対面したのが未来の自分であることを認識したうえで恋のキューピッドを務めていますが、「将来こんなんになっちゃうのかあ」って失望なり絶望なりしてないあたり、救いがある気がします。

幼い頃から神童と呼ばれ、大人になっても秀才・天才であり続ける河野玄人・藤井聡太パターンもあるにはあるんですが、大抵はどこかの時点で挫折するか、現実を見てしまった結果、そこそこ~普通くらいの人間に落ち着いてしまう。頭がいいから神童なのに、頭がいいせいで現実をより冷静に分析できてしまうというのが、何とも皮肉ですよね。頭がよくて偏差値の高い学校に行くと、周りも自分以上に頭がいい人間になってしまうので、上には上がいることを嫌というほど思い知らされ、その結果やさぐれてしまう。この話に出てくる彼女がそういう過去の持ち主かどうかは分かりませんが、「元神童」と呼ばれるからには、そういう人が多いんじゃないかと私は思います。



16 凡人でしか叶わぬ恋

いつからでしょう、テレビなどで活躍する子役を真っすぐ、純粋な目で見られなくなってしまったのは。嫉妬するのとはまた違う感情ですね。どうせ裏で汚いことしてんだろ、という気持ちがあるにはあるけど、それが100%というわけでもない。もちろんそういう人ばかりではないですが、子役自身がというより、彼らを「商売道具」として使い潰そうとしているのではないか、というメディアへの不信感が募っている気がします。

私が小学生かそこらの頃は、ちょうど『マルモのおきて』で愛菜ちゃんと福くんが活躍していました。そこから上の世代、たとえば今パッと出てきたのは坂上忍ですが、飲酒運転の悪いイメージもあって彼が画面に出てきたらチャンネルを変えていたのは昔の思い出。今ではテレビ自体見なくなってしまいました。下の世代は正直よく分かりません。なんだか見たことあるような子役の子がいつの間にか成人していたり、高校生になっていたりと、時の流れの速さにひたすら驚かされる日々です。

福くんはいつの間にか福さんになり、ゴリゴリの仮面ライダーオタクとしてギーツに準レギュラーくらいの位置で出演したのが記憶に新しいですね。あの二人は比較的世代が近いのもあって、世俗にまみれすぎずに清らかに生きてほしいな、と思ったりします。



17 治癒の神童と呼ばれた少女と、その従者の話

ところで神童というと、どうしても男の子のイメージがついてしまっているのですが、そんなことないですよね。神かと思うほどに賢い子どものことを指すのだから、女の子も入ってますよね?

それはどうでもよくて、このまま話が続けばいいバディものになるんじゃないかという気がしました。もうちょっと長めの短編に仕立て上げてもいいのかも。



18 住めば都

おそろしいタイプの作品でした。因習ものって分類していいのかな。

そもそも村が「邑」な時点でだいぶ雰囲気があります。いわゆる俗な意味での「神童」ではなく、文字通り神の童。疫病神という表現が作中にも出てきますが、まさしく疫病神の化身と言ったところでしょう。「元神童」というワードでほとんどの人が(私含め?)、かつて天才だった人を思い浮かべ、作品を書いた中、この発想に至った作者さんに感服です。



19 僕は今日も『彼女』になる

タイトルの時点でノクタ沼、TS界隈の片鱗を覗いている私は「おや?」と思いましたが、やはりそういうことでした。でもその裏には辛い過去があって、これもまた攻めた「元神童」なんだな、と感じさせられました。双子だからお化粧すれば妹そのものにもなれる、というあたりでなぜか『推しの子』みを感じました。ちなみに私は『推しの子』にわか中のにわかです。



20 元神童は人知れず神に至る

どなたかが「今回の企画は将棋多め」みたいなことを言っていた気がしますが、前から数えるとこれが1作目ですかね。これを書いている時点ではまだ以降の作品を読んでいないので、ここからどれくらい将棋被りが出てくるのか楽しみです。(え?)

確かに天才、鬼才、神童といえば将棋がパッと出てくる気持ちは分かります。特に藤井聡太さんが出てきましたからね。最近叡王を奪取されて、まだ人類でも彼に敵う相手がいるんだ、と話題になりました(それでもプロ棋士という選りすぐりの中の選りすぐりでようやく敵う棋士がいるかどうかという話なので、いまだ人類最強と言って差し支えないのですが……)。将棋界にAIの波が来て久しいですが、昨今の生成系AIを非倫理的に使う人間を見ていると、将棋の世界においてはAIはすごく理想的な使われ方をしているな、と感じます。そのうち藤井さんよりも年少でプロデビューする未来の人類最強が出てくるでしょう。もともと、藤井さんが四冠、五冠とタイトルを持つようになった段階で、


「ここからは藤井さんがどこまで記録を伸ばすかよりも、『誰が』最初に牙城を崩すのか、に注目するともっと楽しいのでは」


と私は思っていましたし、一部の将棋ファンもそう思っていたでしょうが、すでに伊藤さんが最初の奪取者となり、すさまじい勢いで実力を伸ばしている棋士がたくさん控えている状況。将棋界の健全な発展を願うばかりです。

ところで、現在プロ棋士になるためには、アマチュア大会優勝などの実績をひっさげたうえで、プロ棋士の門下に入って奨励会を受験、合格したのち、三段まで昇級と昇段を繰り返し、最後に40人近く在籍する三段リーグで上位2人に入らないといけないという、とてつもなく厳しい道のりをたどらないといけないのですが。理論上最速で駆け抜けた場合、一体何歳でプロ入りできるのか知りたいですね。詳しい人がいたらぜひ教えてください。



22 カミサマの子供たち

こっちの方がより将棋詳しい人が書いてますね。ちなみに奨励会を経てプロ棋士になる道があまりに厳しすぎるので一見かすむのですが、女流棋士もめちゃんこ強いです。それでも女流棋士が奨励会に合格するとそれだけでニュースになったり、過去含め三段リーグ経験のある女流棋士は福間さん、西山さん、中さんの三人だけ(合ってる?)だったりと、プロ棋士の凄まじさが改めて分かります。ちなみに現行制度では女流棋士は奨励会三段リーグ突破、またはプロ棋士編入試験の合格を経ていないので、確かプロ扱いではなかったはずです。合ってるよね?



23 別解の帝王

元神童が二人登場するパターンでしたね。元天才どうしの掛け合い結構好き。これでもっと話が続いてくれれば最高です。タイトルというか、「別解の帝王」というワードもまとまりがいいし、センスがあっていいなと思いました。

私もこの手のコンプレックスがないかと言われれば嘘になります。たぶん。



27 弟子入り志願

将棋三作目ですね。確かに将棋の話多いわ。

この作品にもありますが、奨励会って受験条件にプロ棋士を師匠につけることがあるんですよね。それにしてもどうしてアングラな世界観にしたのかよく分かんないですが……。雰囲気はあんまり日本感がなくて、むしろ香港とかを彷彿とさせる描写でしたね。



33 脱・神童宣言

これも他とは違う「元神童」の解釈で面白かったです。登場人物の男女の掛け合いが『トップ・ギア』みあって好きでした。

そうですね。潜水艇免許より、ヘリの免許より先に、普通自動車免許を取るべきかもしれませんね。「でも免許ない、免許ないよ~」って歌を思い出しました。



35 転がり落ちる星空

タイトルの意味までは残念ながら読み取れませんでした。興味を惹かれる内容だったかと言われれば、微妙なところなのですが、それを差し置いて文章にまとまりがあって、上手い人が書いてるのかもなと感じました。それを言いに来ただけです。



これは感想書きたいな、と感じたのは以上。この中から投票作品を選びました。

やはり一番いいなと思ったのは、18 住めば都 でした。「元神童」の解釈が他とは一線を画していて、「天才!」と思いました。正直、羨ましいです。これは個人的に不動の1位ですね。

あとは01、13、16、33あたりが横並びでよかったのですが、それよりももうちょっと、個人的にお気に入りだなと感じたのが、19 僕は今日も『彼女』になる と、23 別解の帝王 でした。この2作品に優劣をつけるのがめちゃんこ難しいのですが、別解の帝王 の元神童ながらどこかお互いを認め合ってる爽やかさがいいなと思ったので、こちらが2位。19を3位にしました。


ということで、最終的な投票は以下。

1位 18 住めば都

2位 23 別解の帝王

3位 19 僕は今日も『彼女』になる



ちなみに今回は作者予想はしません。が、私の作品もどこかに隠れているので、もしお時間あれば探してみてください。

最後は元神童たちに幸あれということで、Creepy Nuts「かつて天才だった俺たちへ」でお別れです。さようなら。

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