「よつすば様 ~口承文学者・橋爪怜の怪異譚~」を読んでしまった方々へ

葉島航

こちらへ

 まずは謝罪せねばなるまい。

「よつすば様 ~口承文学者・橋爪怜の怪異譚~」のことである。

 それを読んでしまった方々が、この文章を見てくださっていることと思う。

 あの短編に取り掛かり、先日カクヨム上にアップしてからと言うもの、災いとしか言えないような出来事に私自身見舞われている。

 それはあの物語に含まれている怪談がもたらした呪いかもしれない。あるいは、私が真実を捻じ曲げたが故に生じた祟りなのかもしれない。

 いずれにしても、読者である皆さんに何らかの異変が起きる可能性がある。そのことをお詫びしたい。

「よつすば様」は今でも閲覧可能である。消そうとしてもできなかったのだ。それはカクヨムのシステム的な問題ではないだろう。きっと、私に降りかかっている何かが邪魔をしているのだ。

 手が震える。悪寒が止まらない。きっと、私に残された時間は多くないだろう。

 いいいいいいいいいいいいいいいまのうちに、真実を伝えるべきだと思う。

 あの物語は、私自身が調査した内容に基づき、かなり手を加えたうえでフィクション化したものだ。罪滅ぼしになるのかどうか分からないが、ここへ真実を綴ろうと思う。

 それが解呪につながることを祈って。


 簡単に「よつすば様 ~口承文学者・橋爪怜の怪異譚~」の内容に触れておく。

 口承文学者の橋爪教授が伊崎という学生とともに、「よつすば様」という怪談に隠された真実へと迫る、という筋書きだ。二人は九州のとある村へと出向き、千葉という女性に話を聞く。その過程で、「よつすば様」が妖怪の二口女であり、村では弁如法師の像に菖蒲を巻いて祀ることで、二口女に対抗していることが分かる。千葉が語った話もオーソドックスな二口女の怪談だったが、話の末尾に「この話を聞いた人は、後ろを振り向いてはならない」という文言が付け加えられていた。なぜ二口女の話にそんな尾ひれが付いているのかを探る二人だったが、最終的に橋爪がそれを看破する。実は千葉が二口女で(あるいは二口女に生贄を差し出している人物で)、二人のことを狙っていた。「振り向いてはならない」という情報を付け加えることで、二人の意識を水平方向へ固定し、真上から食らう算段だったのだ。橋爪の機転により、二口女の襲撃は失敗し、二人は村を脱出する。

 作中には、「こんげなもうたあ、みんじょくれ」という呪文のようなものが登場する。二口女を追い払う呪文とも、二口女の鳴き声であるとも言われる。伏線として回収するつもりが、すっかりそれを忘れていた。これについても後々触れていこんげなもうたああああああああああああああああああああみんじょくれええええええええええええええええええええ

 もともと、私は弁如法師について調べを進めていた。歴史小説を書いたことがなかったので、彼を題材に挑戦してみようと思ったのだ。

 弁如法師は知る人ぞ知る存在である。「よつすば~」の作中でも触れたが、実在した陰陽師であるとも、夢枕に立って助言を与える伝説上の僧であるとも言われる。『新・寝殿造絵巻』をはじめとする平安時代の絵巻が初出だ。彼を実在の人物として扱ったのは室町時代の『海月草子』であり、弁如は怪異を封じる旅の僧として描かれた。近代では大正時代に上梓された随筆、尾形慶安『蓑虫日記』に、弁如という僧に憑きものを祓ってもらったというエピソードが登場する。

 当然、平安から大正まで一人の人間が生き続けるというのは不可能だ。だから、伝説上の存在であるという見方が研究者の中では一般的だ。どこかの貴族なり豪族なりが「不思議な夢を見て、啓示を受けた」と言えば、すぐにその存在へ名前が与えられる、そんな時代だったのだ。あるいは、強い力をもった霊能者が『弁如法師』の名を世襲していたという説もある。

 とにかく、弁如法師を巡る調査の中で、二口女の風変わりな伝承に私は出会うことになる。


 私には私には私には、高野さんという知人がいる。大学の先輩であり、ルポライターを本業としつつ小説の執筆をしている方だ。小説に関する悩みは、彼女に相談することがほとんどだ。出来上がった作品に、最初に目を通してもらうのも彼女である。

 私が弁如について調べていると知った彼女は、興味深い話をもってきた。それがすべての発端になったのだ。

 北九州で、弁如法師が登場する怪談があると言う。ネットや文献にも上がっていないと思われる、村内で語り継がれてきた伝承らしい。彼女も又聞きで入手した情報で、詳しくは知らないとのことだった。

 私はその話に飛びつき、その週末には一人で新幹線に乗っていた。そうして役場や村民への取材をしたというわけである。誰だうるさい黙ってくれええええええええええええええええええええええええええもちろん、娯楽作品にまとめる上で、伝承をそのまま記載することは避けた。だから、「よつすば~」には、相当な嘘が盛り込まれている。たとえば、「よつすば様」とその別称である「にろめ様」の二つは、完全に私の創作である。方言を基にした謎解き要素の一つとして足した。

 村で語られていた二口女の怪談は、弁如が登場する後半部分を除けば、非常に一般的なものだった。夫の連れ子を殺した女の後頭部にできものができる。そしてそれは二つめの口となり、彼女の罪を白状する。ただし、。「よつすば~」の物語中では妖怪による狂言として描いたが、実際にはちゃんと怪談内に含まれていたのである。それがなぜなのかは最後まで分からなかった。村の中に、菖蒲の葉を頭に被った弁如像があったのは本当だ。二口女が菖蒲を嫌うので、そんな習わしが広まったのだと言う。


 私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私私が物語内で語らなかったのは、その弁如についてである。作中ではただの「二口女を退けるヒント」として弁如像を出しただけだったのだが、村に伝わる怪談の後半部分には弁如法師が二口女と対峙する場面が含まれていた。

 ここに、本来の伝承を記す。


 二口女と化した女は、山中へ身を隠す。そして、道行く旅人を甘言でたぶらかしては、二つめの口で喰らう、ということを繰り返していた。

 女の旦那であった男――伊彦はそれに胸を痛めていた。なんとしても彼女の悪行を止めねばなるまいと決心し、ある夜、討ち死に覚悟で家を出ようとする。

 ちょうどそこへやって来たのが、旅の僧、弁如法師であった。弁如は伊彦に一晩泊めてくれないかと頼む。伊彦は一度断るのだが、彼の物々しい手荷物(鎌と包丁だ)に目を留めた弁如に問いただされ、自分の置かれている状況を白状した。

 弁如は告げる。

「そなたの妻はもう人間ではない。妖怪として討たねばなるまい」

 そして、自分がその役目を担おうと進言した。

 客人に危険なことはさせられないと首を横に振る伊彦だったが、相手が名の知れた法師であると知るや、地に伏して妻の介錯を頼む。

「できれば、苦しませずに逝かせてやってください」

 弁如はそれを承諾する。

「夜半には戻る。もし私が戻らなければ、翌朝、葉菖蒲を刈って村中の家に配りなさい」

 そして弁如は山へと向かった。

 落ち着かないまま、伊彦は家で待ち続けた。しかし、約束の夜半をとうに過ぎても、弁如法師が戻って来る様子がない。

 もしや、二口女に返り討ちに遭ったのでは。

 そんな不安を抱きながら、さらに待つこと数刻。戸を叩く者がいる。

 弁如法師が戻って来たのか、それとも彼を喰らった二口女がやって来たのか。おそるおそる、伊彦は戸口へ声をかける。

「誰じゃ」

「わしじゃ、入れてくれ」

 弁如法師の声だった。伊彦は戸を開ける。

 法師は、這う這うの体といった様子で土間へと上がり込む。被っていたはずの笠もなくなっていた。伊彦は悲鳴を上げて後ずさった。

 弁如法師の脳天には、二つめの口が大きく開き、ざりざりと蠢いていたのである。

「こんげなもうたあ、みんじょくれえええええ」

 弁如は叫んだ。

「こんげなもうたあああああああああああああ」

 そして、山の中へと走り去り、二度と戻ることはなかったという。


 こんげなもうたあ、みんじょくれ。


 こげなこつなってしもうた。みないじょくれ。


 、という意味である。


 弁如像が葉菖蒲を被っていたのは、二口女を退けるためではない。穿


 これで、「よつすば様 ~口承文学者・橋爪怜の怪異譚~」にについてはあらかた説明したはずである。私は作者としての役目を果たした。あるいは、危険な怪談を流布し、怪異に対して数多の餌を提供するという役目を。

 もう許されてもいいはずだ。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいただの娯楽にあなたの伝承を引っ張り出してごめんなさい私は何かを起こしてしまったんだせっかく眠っていた何かを


 後ろから来るのだろうか

 それとも、一度後ろを向いてから前を見たときにそこに何かがいるのだろうか

 後ろが気になるときにそれは上にいるんだよいるんだよいるんだよいるんだよ

 高野さんごめんなさい高野さん

 私が「よつすば~」の作品を見せた後、彼女との音信は途絶えてしまった彼女は消えてしまったんだ

 私が資料として買った木彫りの蓮如像が昨日作品をアップした直後に砕けてしkmまった

 まるでjzうしろからかじられたみたいに

 さむいのにあついこわいねむいねむれない

 さっきからだれがしゃべってるのさっきからだれが

 ふyりbnかhggえっftrdちゃpqpqpだめ

 なにもかもなくしてしまったしもうぼくはここまでなのかもしれこんげなもうたあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ”ああああああああああああああああああ

 うしろからあああああだれかがはなしかけてくるぼくのうしろからふりかえっちゃだめだけどきになるそんなときはうえにいるんだよちがうこれはぼくのあたまのうしろからだれかのこえがきこ、えてずっとじゅそをつぶやいてるだからぼくはもうこれいじょううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううあなたのまうえにいるのはだれ?

 







































 ――この作品はフィクションです。実在の人物や団体、伝承などとは関係ありません。

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