ん、俺の夢なり。

@yakiniqu

8月26日

木々を腕で掻き分け、必死に重い脚を動かす。

辺りを見回したくても首はまわらない。

視点の先はただ一点、草木の隙間から垣間見れる光を映していた。

自分から出る荒い息、踏まれた枝や毟られた葉から鳴る音。

状況を理解しようとしても寝起きの脳は働いてくれない。

紛れもなくこれは自分の体だ。痛覚はある。

走り続けた脚は酷く重く、唾を飲み込むと喉が焼けるように痛む。

なのに何故、身体は俺の言うことを聞かずに動き続けるんだ?

水を飲みたい。ゆっくり深呼吸をしたい。お家に帰りたい。ついでに綺麗なお姉さんにヨシヨシされたい。

それでも身体は走り続ける一方で、立ち止まることは無かった。


瞳に映った木漏れ日が一層強く光った。

ああ、もうすぐだ。もうすぐこの森を抜けられる。

この身体が何処へ向かっているのかは分からないが、ようやく関門を突破することが出来るのだろうか。

そんな淡い期待を抱き、光の方へと大きく踏み出した。


森を抜け、太陽が俺を照らす。

軽く吹いた風が俺の前髪を靡かせた。

頭部の汗が首を伝い、全身の熱が徐々に下がっていくのが分かる。

先程まで駆け回っていた森からは、悠長な葉擦れが鳴り響いていた。


「はぁ…何なんだよ…」


一体どうなっている?

どうして俺はあんなに必死に駆け回っていた?

突然の出来事に脳に処理が追い付かない。

目が覚めるとそこはマラソン地獄だったなど、あってたまるか。


手のひらを膝に落とし、前屈みになって息を整える。

呼吸に合わせて視界が上下に揺らぎ、前髪から滴る汗が土の色を変えていく。

とその時、視界に映った自分の衣服に違和感を感じた。


「ん?……着物?」


そう、和装なのだ。

麻のうすい生地の衣に稲藁で作られた草履を身につけ、ひと時代前の貧乏臭い格好をしている。

これはもしかして…いやこれは絶対にアレだ。

そう、これは……。


「タイムスリップ……!」


脳の思考に全集中させる。

現段階で得られる情報、今俺が置かれている状況。

考えろ。考えろ焼肉。

目が覚めるとそこは森の中。

しかも俺自身はいかにも以前から走り続けていた様子だった。

となると俺は寝ながら走っていたことになる。

夢遊病か…?…夢遊病の俺、かわいいな。

いや、そんな事よりもあれほど緊迫な様子で走っていたのが気になる。

もしかして俺は、誰かに追われていたんじゃないのか…!

そう気が付いた瞬間、ゾッとするほど嫌な予感が走った。

俺はここで立ち止まっている場合では無かったのだ。


「居たぞ!こっちだ!」

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