これは(飯)テロである!素敵なステーキ編

義為

本編

 テロリストという言葉は、恐怖テラーを語源とします。恐怖をもたらすヒト、テロリスト。では、飯テロリストとはなんぞや。飯への恐怖をもたらすヒト。ただし、饅頭の次は渋いお茶が怖いといった類の恐怖です。

 今、私は、皆様に恐怖をもたらす、飯テロリストとして、ここに現れます。記念すべき第一のテロ、それは……ステーキ!日本の庶民にとっては少し贅沢な、ただし少し、なのがポイントなのです。この文章を読み終わる頃には、皆様もステーキを怖がることになるでしょう……!もしかしたら、今夜枕元にステーキが届けられる恐怖体験があるかもしれませんよ?


※※


 ステーキを作るには、主な材料が1つあります。

 ご存知、ステーキ肉です!

 皆様を馬鹿にしている訳ではありませんよ?肉選びは奥が深いのです。産地としてはアメリカン、オージー、タスマニアン、そして和牛……さらに部位としてサーロイン、ランプ、フィレ……(正直よく知らない)と様々。現れる違いは、赤身と脂身の味、その混ざり合い。赤と白のフラクタル模様霜降りか、コントラストがっしり赤身とこってり脂身か、赤一色締まった赤身か……それは、肉質という絵画。好みで選ぶことに……は!しかしながら!ならないのが現代社会の現実なのです。

 何故好みの肉質でステーキ肉を選ばないのか。それは、エンゲル係数お財布との戦いがあるからです。社会の荒波で如何に賃金等の収入を得るか、それと双璧を成す、如何に効率的な支出で幸福を得るかという命題。日本人は幼少期からお小遣いをどう使うかに苦心して、食を自身で賄う際にその経験を活かすのでしょう。というわけで、私が選ぶのは、アメリカ産サーロインステーキ肉、それも半額シールが貼られ、1 ¥/gというグラム単価に近付いたものです……!(一人暮らしなら奮発して和牛にするのも悪くないですが、家族に供するとなると、要らぬ心配値段への萎縮を招きかねないということもありますので)

 さあ、ステーキ肉を選びました。では、焼く……ま、え、に!下ごしらえをします。大まかに2つの工程。それは、トリミング、塩振りです。説明いたしましょう。トリミングとは、脂身を適度に取り除きつつ、肉の外縁部と筋に切り込みを入れることで火の通りの均一化、肉の縮みによる歪みの防止を狙う工程です。塩振りとは、塩を振ることです。ただし、意図は塩味を付けることに留まりません。タンパク質を溶かし、それでいて水分を出し過ぎないように、焼く直前に均一に塩を振って揉み込むのです。ステーキには直前に塩を振って焼きましょう。これだけは言いたかったのです。

 さあ皆様お待たせいたしました。焼きます!ステーキを!

 熱したフライパンに油、ないしは脂を行き渡らせて、ニンニクを投入。弱火で熱して強い香りが立ったところでニンニクを取り除き、強火にしてから肉を入れます。ガッと表面に焼色が付いたら、裏返してから弱火にして蓋をします。肉から立ち昇る水分と油分の蒸気がフライパンの内部で対流し、焼色が残された片面に付くと同時に内部に火が通ります。汁気が減ってきたら、蓋を開けて焼色を確認。理想の表面を見届けたら、アルミホイルで包んで粗熱を取ります。肉を休ませる、という工程ですね。これは、たとえ理想の火の通りであっても、焼いた直後に刃を入れると肉汁を逃がしてしまうからです。肉汁とはつまるところ水分と油脂なのですが、皆様お好きでしょう?脂。粗熱が取れたら出来上がり!です!


※※


 嗚呼、私は恐ろしい……!安物のステーキ肉が、こうも我が獣性を掻き立てることが……!肉を喰らうこと、それは生きていく闘志に薪を焚べることなのです。少なくとも私にとっては。ナイフでサクリと切り裂いた肉の断面は、見事なミディアム。もにゅりと喰めば刺激的な芳香と雄大な旨味。五感の興奮は眠気を吹き飛ばしますが、皿から口内へと運ばれる肉は、その全てをもたらして、今、私は原始に還る……!

 嗚呼、私は、素敵なステーキが恐ろしいのです。

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