俺の妹は小説を書いているー龍村兄妹物語4

磯崎愛

俺の妹は小説を書いている


 俺の妹は小説を書いている。

 それがどうしたと問われたら、先日ついに「BL小説家」としてデビューしたとこたえればいいだけのことやもしれん。さらに言うと、デビュー作は俺と浅倉(こいつは大学の後輩だ)がモデルになったそれだ。俺でさえ名前を聞いたことがある雑誌に掲載が決まり、その報告を携えてやってきた。

 そして今、俺の隣で眠っている。

 この、真夜中に。

 

 あー、

 その、

 なんだ、

 つまり、

 そういうことだ。

 みなまで言わすな、恥ずかしい。

 

「お兄ちゃん、結婚して! 今日はここに泊まるってお父さんとお母さんに言ってきたから!」

 

 妹の茉莉は、硬直したままの俺を見かねて、ちゃんと了解とってきたと、結婚したいとも伝えたと言ってのけた。恐ろしいことに、「許可」はおりたそうだ。茉莉いわく、小説家らしい丁寧な観察と入念な読み、渾身の根回しの結果だそうな。そう言いおえた茉莉は晴れやかに、そして誇らしげに笑った。

 そのときすでに俺の腰は抜けていた。

 

 ところで。 

 ひとつはっきりしたのは、俺が「鬼畜攻め」ではなかったという点だ。

 読者の諸君、すまない。期待を裏切って大変申し訳なく思う。

 

「思ってたより大変じゃなかった」

 

 終わったあと、そんなことを言われてしまった時点で鬼畜は返上せねばなるまい。

 しかも。

 

「お兄ちゃん、優しいね。すごく、やさしい。優しくしてくれてありがとう。あたし、お兄ちゃんが優しくて、とってもうれしい。しあわせ」

 

 誰がどう聞こうと、俺がずっと優しくなかったと言い切られているようなものだ。とはいえそれは罷り間違いようもなく真実だがな。だがしかし。最中に、言うか? 本当に、俺の妹はどうしようもなく性格が悪い。

 だが、そんなところも大好きだ。

 ああ、大好きだとも!

 

 そんなわけで、ここで俺たち兄妹のはなしは唐突に終えたいと思う。

 なに、ただたんに、俺の妹が目をさましそうなだけだ。

 新しい物語の始まりは俺にも一緒に描かせてくれ。

 そう、頭をさげてお願いするべきときだろう。

 

 俺はかつて、俺と茉莉の幸福を祈ることはないとあるひとへ向けてしたためたが、それは今ここで撤回する。

 俺は、俺と茉莉ふたりの幸福を何かへと希う。茉莉は、俺が不幸ではツライだろう。俺も同じだ。だから両方いっぺんにその幸福を願う。何かへと、希う。そして最大限に努力する。

 

 そして王子様とお姫様は末永く幸せに暮らしました 

 

 ひとは変わる。その気持ちは永遠ではない。当たり前だ。

 だが今は、俺はそれを思う存分否定する。

 そう言い切るほどに、茉莉は俺を変えてくれた。

 こういう気持ちがあることを、あったことを、俺は記さずにはいられない。だからこれは俺の手記だ。当然のことながら。

 

 俺の妹は小説を書いている。

 それも、とびっきりの恋愛小説を。

 

 さあ、俺のお姫様が目をさました。

 この先は、誰も知らない。知る必要もない。

 俺たち二人だけの物語(ロマンス)だ。

                         了

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