私たち、ずっと友達です!

卯野ましろ

第1話 知られてしまった、知ってしまった

 昼休みの後半、もう昼食を済ませている私たちは、それぞれ何かに夢中になっていた。


「やっぱり……かっこいいよねぇ、井道いどうくん」

「うんうん。マジイケメン~」

「目の保養だわぁ」


 私の友人たちは、イケメンなクラスメート・井道愛世あいせくんの話をしている。井道くんは今、仲良しグループで楽しそうに会話中。色々チラッと確認した後、私は自分の世界に戻ることにした……が。


「ねぇ~……。ちょっとは不二代ふじよも興味を持ってよぉ~」

「は?」


 しかし私の友人たちは、それを許さなかった。ポカンとしている私は、やれやれと言いたげな彼女たちに注目されている。


「やっぱり不二代は、二次元しか愛せないの?」

「それとも趣味に生きるタイプ?」

「まさか他に好きな男子とか、いる……?」


 うわー、質問攻めだぁ。即答しよっと。


「好きな人は、いません。それ以外の質問に関しては、まだ答えが分かりません」


 自分には今、好きな人がいない。それだけしか答えが分からなかった私。私は自分がどのような人間なのか、よく分かっていない。恋愛しないのか、できないのか、趣味に生きるのか……。まだはっきりしていない。


「そっか。今は好きな人、いないのか」

「いやー、はっきり言ったね! なかなか気持ちが良いわ!」

「かっこいいね不二代……」


 かっこいい……?

 私が?

 ふと時計を見て私は、自分の世界に戻るのを諦めた。気になることができてしまったからだ。


「こんな私の……どこが、かっこいいの?」

「えー、はっきり言ったところが」

「はっきり……? 私、自分のことを分かっていないんだよ?」

「いやいや、そんなふうに言い切れるのが良いんじゃん! むしろ今の自分のこと、知っているんだし! まだ自分が、どんな人間だか分からないって……」

「あー、なるほどね。それ自体が答えになっている、みたいな感じの」

「そう! それだね、きっと!」


 ああ、そういうことか。とりあえず私は「恐れ入ります」と言った。すると「アハハ! 不二代って律儀だね~!」と友人たちは笑った。そして「そりゃどーも」と私は返した。


「じゃあさ、不二代! 井道くんって、どんな男子と……」

「ああーっ、そんな話! こんなとこで、できません!」


 これまでローテンションだった私だが、話題が話題だったので取り乱してしまった。言葉は途中だったが、もう私は話の内容に気付いている。そんな私を見た友人たちは、おめめ真ん丸。


「……そういう話は、この場では控えさせていただこう……」


 私のコメントに、友人たちは「はい」と答えてくれた。うんうん、みんな良い子たちだ。


「不二代って、しっかり者だなぁ……。ごめん、変なこと聞いちゃって」

「そんな風に、きちんと弁えられるなんて……オトナだよ!」

「なーんか、オタクっぽくないんだよね不二代って。真面目系クズじゃなくて、真面目だし」


 そう、私はオタク。腐女子だ。ボーイズラブも百合もヘテロも好き。カップリング最高。やり過ぎカプ厨にならないように頑張りたい。これは私の家族や、本当に仲の良い友人しか知らないことだ。

 さっきの話を中断した理由は、私がオタバレをしなくないというのもある。しかしナンバーワンの理由は、やはり聞きたくない人に聞かせたくないからだ。井道くんはBLなら……なんて話、井道くん本人や彼の関係者たち、そして純粋に井道くんラブな方々が許せないだろう。……まあイケメンな彼で、そういうことを考えたくなるのは否定できないが。




 そんなこんなで昼休みは過ぎ、午後の授業も平和に終わり、あっという間に下校の時間。


「……あ」


 高校の校門を出た瞬間、私は嫌な予感がした。そしてカバンを探ってみたら、案の定。


「ごめん、みんな! 先に帰っていて! また明日!」


 一緒に下校している友人たちには、先に帰ってもらった。私は持ってきていた本を、机の中に入れっぱなしにしてしまったのだ。昼休みに読もうとしていた本だ。きちんとカバーが掛けられてある本。どんな物語か他人には知られたくない本。それは……BL小説だ!




「はー……」


 迷惑にならない程度に急ぎ、私は無事に教室に到着した。さあ忘れ物を回収しよう……と私が教室のドアを開けると、


「……あれ?」

「はっ!」


 そこには、一人で読書している井道くんがいた。しかも彼が読んでいたのは……。


「そ、それ私の……!」

「えっ!」


 私が取りに来た、忘れ物だった。


「ああっ! これ、吉田さんのだったんだ! ごめん! 本当に、ごめん!」


 あーあ、やっちったよ私……。

 バーカバーカ不二代のアホマヌケ。

 なぜ忘れ物をしたんだ、おっちょこちょい。

 かっこいいわけねーじゃん、こんな奴。

 バレたじゃんかよ、どこがしっかり者だ。

 何がオタクっぽくないだよオタクだよ私は。

 オトナじゃねーよドジだよ。

 真面目つーかバカ正直だな。

 そんなにバレたくなきゃ誤魔化せって。

 律儀に「私の」なんて言いやがったな。

 あーあバーカ……。


「僕……日直の仕事で、教室に残っていてさ! 相方の子は委員会活動だから先に退室させてあげたんだ! それで、一人で色々とやっていたんだけど……慌てていたらガン! って自分の足を机にぶつけちゃって……。そしたらポロッと本が出てきちゃったから、拾って元に戻そうとしたんだけど……でも落ちた拍子に開いたページを見てから、どんな話か気になっちゃって……読んじゃったんだ! ごめんなさい!」


 あのイケメンが、こんなキモオタの私にペコペコ頭を下げている。井道くんは私に、オタク特有の早口に負けないくらい、一生懸命に説明してくれた。その申し訳ないという気持ちは伝わった。わざとじゃないことも分かる。でも、もう遅い。


「……井道くん、もう大丈夫だから。気にしないでね。そもそも、忘れた私が悪いんだよ。こんな本、学校に持参した私が……」

「いや! 吉田さんの本を勝手に読んじゃったんだ! 僕が悪い! だから言うよ、僕も!」

「は? 何を?」

「僕、実はさ……」


 井道くんから本を受け取った後、私の耳に予想外の言葉が入ってきた。


「僕……男しか愛せないんだ!」

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