18.おねがい

第43話(終)


 あたしは、〝呪い屋さん〟をやめた。

 でも、ちゃんとやめられたかどうか、確かめていないから、やめられているかどうかわからない。

 ただ、あたしの心の中では、もう呪わないぞって決めたっていうだけ。

 あれから、たくさんの時間をかけて、あたしは考えた。

 どんな時に、人を呪っていただろう? って、考えた。

 そうして、あたしは気づいた。

 怒りを感じたときに、ついそれをしてしまっていたことに気づいた。

 だから、今は呪わないぞっていうことを意識するっていうよりは、怒らないぞってことを意識するようにしてる。

 こういうのを、アンガーマネジメントっていうらしい。

 アンガーマネジメントってやつは、難しい。

 でも、これを少しでも身につけられたら、あたしは呪いと少しずつ距離をおけるような気がする。

 だから、頑張る。

 あたしは怒らないで、ありがとうをたくさん伝えながら、これからを生きていくんだ。


『やっと捕まったって。ジュアの誘拐犯』

『あれ? コンビニから逃げた後、事故って死んだんじゃなかったっけ?』

『いや、死んでない。死にかけて入院してた。まぁ、ほぼ無理だろうって言われてたみたいだけど。神の手を持つ医者が、そう遠くはない病院にいたってことだな』

『そんな人がいるなら、いつ怪我しても大丈夫だな!』

『そんなわけないだろ。怪我はしないのが一番だよ。痛いし』

『ま、そっか。ってかさ、医者ってすごいな。オレ、医者になりたいかも! すごくなりたいから!』

『なんだよ、すごくなりたいからって。ってか、おバカなお前にはムーリー』

 学校へ行くと、いろんな話が漏れ聞こえてくる。

 そして、その聞こえてくる話で、あの日のあの人が逮捕されたことを、あたしは知った。


 あれは本当に、最悪な出来事だった。

 でも、あの出来事のおかげで、あたしはチルちゃんと友だちになれた。

 人を呪うことが良くないことだってわかったし、〝呪い屋さん〟をやめようって思えた。

 怒らないぞって意識して、ありがとうをたくさん届けながら生きていこうと思えた。

 とても大切なことを学んで、きっとこれからの人生を豊かにしてくれる気づきを得ることができた。

 

 だから、あたしは伝えたい。

 直接は言わないし、手紙に書くわけでもない。

 でも、あたしはあの日のあの人に、心からそっと、一方通行の言葉を送りたい。


 たくさんの気づきをくれて、ありがとう。

 それと、あのね。

 あたしから、あなたにお願いがあるの。

 もう、あんなことをしないでほしいの。

 誰かを悲しませないでほしいの。

 あなたがあたしにくれた気づきは、あたしが誰かに伝えるから。

 だから、あなたからはもう、教えてくれなくていいからね。

 あなたがあの日、なんてことをしたんだろうって思いながら、けれど前を向いて生きてくれたら、あたしはとっても嬉しいです。


 呪うことをやめたら、なんだか今までよりも、日常が穏やかなものになった気がする。

 もっと小さい頃から、こうしていればよかったって思う。

 でも、気づけないことは直せないから、仕方ないよって、小さい自分をあたしは許す。

 今でも時々、心の中で思ったことが現実になることがある。

 別に、呪ったからってわけじゃなくて、たまたま想像が当たっただけなんだと思うけれど。

 そういう時は、心があらんでいる証拠かもしれないって気づきをもらったって思うことにしてる。

 心の中に隠れているかもしれない、呪いたくて仕方がないあたしが顔を出さないように、扉をしっかりと閉めないといけないよと言われたと思い込むようにしてる。


 そして、あたしは祈る。

 毎日祈る。

 あたしがちゃんと、呪い屋さんじゃなくなっていますようにって。








〈了〉





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ジュアは呪い屋さん 湖ノ上茶屋(コノウエサヤ) @konoue_saya

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