第42話


 もしかしたら、願いが叶うかどうかに、願いの強さは関係ないのかもしれない。

 あの日、あの時、あたしにキーホルダーをくれた、チルちゃん。

 チルちゃんとは、もう会えないって思ってた。会いたいって願ったことはあるけれど、それは叶わないって思ってた。

 でも、会えた。

 お母さん同士が、いつの間にか――っていっても、たぶんあの時のお礼とかそういうきっかけがあったんだと思う――繋がってて、あたしたちもまた、繋がることができた。

 あたしが住んでいる街からは、すごく遠いわけじゃないけど、近くもない。

 だから気軽には、会ったり、遊んだりできない。

 この日にどっちの家に行こうねって約束して、その日その時に、思いっきり楽しむ。

 約束はだいたい、何日か前にする。

 だから、約束出来たら、会える日まで、なんでこんなに一秒って長いのかな? って思いながら過ごす。

 不思議だな。不安な時もそうだったけれど、待ち遠しい時も、一秒は驚くほどに長くなるだなんて。

 

 今日は、チルちゃんの家にお邪魔させてもらった。

 チルちゃんの家は、お部屋の隅でシューッて蒸気を吐いている機械があって、なんだかよくわからないけれど、森みたいな優しい香りがする。

 近くて遠いキッチンカウンターでは、大人同士が喋ってる。

 あたしたちはふたりっきりで、おしゃべりしたり、ジュースを飲んだり、お菓子を食べたり、ビーズを並べたりする。

「あの時、ありがとう。おかげでちゃんと、帰れたよ」

「うん。良かった。でも、もうお礼はたくさん聞いたから、ね」

「わかる、わかるよ。でも、こうしてビーズを見ると、ありがとうって言いたくなるの」

「力になれたなら良かったけど。本当にわたし、超能力とか、持ってないからね?」

 チルちゃんが、ニコって笑った。

 あたしもつられて、ニコって笑う。

 出来上がった新しいキーホルダーを交換して、お互いのカバンにつけた。

 これが、新しいお守り。これが、これからのあたしの心を穏やかにしてくれるって、あたしは疑わない。

「チルちゃん、あのね」

「ん?」

「あたしね、実は、呪い屋さんなんだ」

 あたしははじめて、人に明かした。

「呪い屋さん?」

「うん。信じてもらえないかもしれないけど……。あたし、ときどき人を呪ってた。その呪いは、ちゃんと現実になってた。だから、たまたまそうなったんじゃなくて、あたしが呪ったからそうなったんだって思ってる」

「うん」

「それで、あたし……。あの日、呪い屋さんをしてたバチが当たったんじゃないかって」

「バチ?」

「うん。人にかけた呪いが、あたしに返ってきたっていうか、そのぅ……」

 チルちゃんのあったかい手が、あたしの手をギュッてする。

「それで、これからどうするの? 呪い屋さんは、続けるの? それとも、やめるの?」

 まっすぐで、柔らかくて、優しい視線。あたしは、あたしが思っていることを、嘘偽りなく、言葉にする。

「やめる。呪い屋さんは、もうやめる。呪っちゃいそうになったら、呪わないで済むようにしようって思ってる。すぐには変われないかもしれない。でも、少しずつ、全然呪わないで生きていけるようになりたい」

 あったかい手が、あたしのほっぺたを撫でた。

「大丈夫。ジュアちゃんなら、できるよ。わたし、そう信じてるから」


 またね、って、手を振る。

 キーホルダーが揺れて、キラン、と光る。



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