プラネタリウム

リュウ

第1話 プラネタリウム

 僕は、古びた施設の階段を上っていた。

 戦争による爆撃で、ここの地区の被害は図り擦れない。

 あの大戦で経験していたのに、また、戦争が起こってしまった。

 戦争を望んでいたのは、僕らじゃなくて、どこかの偉い人たち。

「戦争なんて起きないよ」

「武器を持つから、戦争に巻き込まれるんだ」

 とか、言っている間に攻撃された。

 人間は良い人ばかりじゃないのに……。

 

 一週間足らずで、都市がこんなにも破壊された。

 平和のために開発されたAIやロボットは、やはり武器と成した。

 自爆型ドローンやロボット犬が、人を物を破壊して行った。

 僕は、そこから逃げて、ここに迷い込んだ。


 スマホの電波塔は、いち早く破壊され、情報が手に入らない。

 みんなは、生きているか、怪我をしたのか、亡くなったのか、わからない。


 階段を昇りきると、幾つもの両開きの扉が現れた。

 その扉を開け、中に入った。



 始めて着た時の興奮を思い出す。

 映画館に行った時と同じようなワクワクとした気持ち。


 天井にドーム型のスクリーンがある。

 中央には、何やら大きな機械がある。

 円筒の両端に球が着いている

 幾つもの丸いレンズが球にはめこまれている。

 中央に円状の輪があり、鉄骨で支えられていた。

 全体が黒い大きな機械は、昔のSF映画に出てくるような姿をしている。

 新兵器と勘違いされそうな容姿だ。 


 僕は思い出した。


 ”プラネタリウム”


 「そうだ、これはプラネタリウムだ」僕は呟く。

 僕は自分の発した声を耳で確認した。


 その時、フラついて、椅子の背もたれに寄りかかった。

 脇に痛みが走り、手をあてるとヌルっとした感触。

 手を見ると、それが何だかわかった。


 僕は、ゆったりとした椅子に転げる様に身を預けた。

 瞼を閉じる。

 体が沈み込んでいく感覚、

 何処までも下へと……

 湖の底へと沈んで行くような。


 プラネタリウムは、星の動きを見ることを体験できる。

 過去へも……そして、未来へも。

 古代の人々が長い夜、空を見上げながら、夢を思いを語り伝えた。

 その夜空を体験できる。


 僕は、椅子に寝そべったまま、ドウーム型の天井を見上げる。


 中央は白い天井を見上げる。

 

 僕は、呟いていた。


「ふと、考えたんだ

 これって、タイムトラベルじゃないかと

 過去や未来の夜を見ることが出来るって」


「そう、思うわ

 君と過ごした夜に

 何回でも戻れるなんて」


 僕は、その声の方を見た

 隣りの席には、彼女が居た

 星を見上げていた。


 僕の眼から、涙がこぼれた

 君が、隣りに居るなんて


 僕は、そっと手を伸ばして

 肘掛けに乗った君の手を握る

 君は、こちらに顔を向け

 微笑むとまた星を見上げた


 君の冷たい手に、僕の体温が伝わる


「ねえ、君は……」

 と言う僕の言葉を遮った

「はじまるよ」

 と言って、星を見上げる

 僕は、彼女の横顔を見る

 君を感じながら

 僕も星を見上げた


 日が西の地平線に沈もうとしている


 夕日


「また、明日ね」と、遊んでいた誰かの声が聞こえる


 日が沈み、徐々に暗くなる


 空に星が見える


 どんどん暗くなって


 星の数が増していく


 星が動いていく


 星の流れは時間の流れ


 時が過ぎていく


 僕らは、暗闇の中心に居て


 周りが流れる


 時が


 星が


 流れていく


 僕は、急に彼女の顔を見たくなった


 横を向くと


 君が居るので安心して、星に目を戻す


 星を見ていると


 創造も出来ないくらいの奥行を感じる


 ずーっと果てまで、


 この星たちは、続いているのだろう


 徐々に明るくなってくる


 夜明けだ


 星が消えていく


 いや、星はそこにある


 見えないだけだ


 星はそこにあり続けてほしい


 部屋が明るくなる


 昼間だ


 僕は横を向く


 でも、君はいなかった


 いや、僕に見えないだけだ


 僕は、ゆっくりと目を閉じた。

 肘掛けに乗った君の手を探して。

 

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プラネタリウム リュウ @ryu_labo

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