仮面の館

@Flowermonster

第1話

「早く起きろよ、ただでさえ邪魔なのに」

「住まわせてもらってることわかってんだろうな」

朝起きたら聞こえるこの罵倒。何度無くなることを願ったんだろう。

香水を漂わせ、私を嫌う母 まともに親としての仕事をしてないくせに周りにはいい親ぶる父

 私は前世どれだけの悪行を働いたんだろう、そう考えれば考えるほど私の人生碌でもない。

分かりやすい暴力はなかったものの、私は幼い頃から虐待を受けていた。「お前はいらない子」「目ざわりで仕方ない」「男の子がよかった」お風呂場へ引っ張られ、無理やり溺れさせられたこともあった。

罵倒の意味が分からなくても、幼いながらに自分が大事にされてないのは分かった。それでも周りの目は気にしているらしく、周りから見て違和感のない生活は過ごせていた。

 少しずつ何かが削れているのもわかりきっていた。私は人から見て不気味なほど表情がないらしい。私のこと無顔、無顔っていじられてた。誰も名前では呼んでくれなかった。小さい頃は親に積極的にアピールしてたけど…

もう考えるのやめよう、こんな変わらないこと、諦めていることを管変えてても仕方ない。

「行ってきます」

電球すらついていない玄関でぼそりと言ってみる。

薄暗い空間に消えていく自分の声がひどく寂しく思えた。



自転車なんてものあるわけもなく、定期を買ってくれる気がしなかったので、三十分歩いて行ける高校に行った。

一年同じ道を歩いているともはや流れみたいな所あるし、こんな中途半端な田舎に新しく建物が建つこともないから寄り道とか一生縁がない…と思ってたのに

ちょっといつもの道を外れた辻を抜けた先、紫を基調にした洋館が周りを気にしないといわんばかりに建っていた。

「おかしいな、こんな所に洋館なんてあったっけ…?」

ここを通るのは雨宿り目的ぐらいでしか来たことがないからそもそも気付いてないだけだったんだろうか…?

よく見るとかすれた看板を掲げている。

「新しいわけではないのかな…」

こんなにも怪しいのに、なぜだろう、ここに来たかったと言わんばかりに、足が、館のほうへと…吸われてゆく。


カランカラン コツ…

明るく広々とした空間にドアベルと自分のローファーの音が響く

「いらっしゃいませお客様!仮面の館の館長のマザーと申します!すまし顔のお嬢さん。あなたはどのような仮面をお探しで?」

ドアより高い身長の全身真珠のような白のスーツを着た仮面の人物が声をかけてきた。

「あ、え?仮面…?いったい何のことです?」

仮面をつけた人物は一ミリも表情を変えず

「おや、仮面が欲しくて来たのではないんですか?」と聞く。

「そもそもここがどんな店か知らずに入ってしまったんです。」

「そんな自分は入りたくなかった、みたいな言い方やめてくださいよー?」

さっきまでとは違い威圧感のある笑顔はすべてを見透かされているような…そういう気持ち悪さがある。

「まぁせっかくいらしたわけですし見ていってください。案内として」

パチン 指を鳴らすと奥から足まであるフリルのあしらわれたシスター服を着たベールをまとった二人がやってきた。

ベールには一人は一つ目が、もう一人は三つ目が描かれている。

「スマイルとシックです、基本的なことは教えてくれるし、気になったことは質問したら答えてくれると思います。」

二人が全く同時にお辞儀をする。

「はぁ…」



「仮面の館はお客様の願った仮面を用意する場所となっております。」

歩きながら淡々と話している二人に足音はない。自分の気配だけが広い廊下をこだまする。

「お客様はどのような願いがありますか?」

重厚感のある扉の先には、色、形、大きさ様々な仮面が壁一面に飾られていた。

急に聞かれると困ると思っていたが、自分の喉からは

「笑えるようになりたい」と声が出ていた。

「かしこまりました。でしたらこの『笑いの貴婦人』がよろしいかと」

「笑いの貴婦人…?」

「『笑いの貴婦人』は過去喜劇を多くやっていた女優の魂から作った仮面です。これをつければどんな場面でも最高の笑顔でいられることができます。」

全くなにが何かわからない、それでも、私の失ってしまった笑顔、それをこの仮面で手に入れられるのなら…

ボソッ「ほしい…」


「欲しいとおっしゃいましたね?こちらも商売なので代金を頂かないと」

いつの間に?!

知らぬ間に私の真後ろで、マザーが満面の笑みで立っている。

「代金?」あいにく私にお金はない、もちろんお小遣いなんてないんだから。あったのならそれはどこかで盗んだものだろう。

「安心してくださいマネー、お金を取るわけではございません。」

「え?じゃあ何を?もしかして魂…とか?」

「そんな物騒なものじゃありませんよ」ニコニコしながら答える

「あなたご自身です!!」

マザーの大声が頭を貫く勢いで理解が追い付かない。

「私はあなたの願いを完全に叶えられやしない。それはいつも通りの商売なのでスルーしようとした…しかし!あなたから出た願いは…本心ですらなかった!ここにきてまで出ない願いは深く大きいに違いない…私はそれが欲しい…!」

な、なにを言って…

「『アヤメ』さんあなたの奥底に眠っている願いが欲しい!あなたの願い私にはわかりませんきっと深層心理のように深くあなたもよくわからないのでしょう?ならば、この願いを叶える『仮面の館』で働きませんか?人の願いに触れたらわかるようになるかもしれません!!!」

「あなたの家庭の事情も知っています。アヤメさんの願いに関係ありそうでしたので少ししらべました。っそれを踏まえてどうです?」

私は…

「私はあの家に戻りたくない…っ」

マザーは今日初めて見るほどに口角が上がっていた

「おぉ!!アヤメさんの願い!!仮面ではないですがかなえられそうです!!!それでは改めて」

マザーは落ち着き足をそろえ手を胸に当て古めかしいシャンデリアの下で

「アヤメさん、ようこそ。仮面の館へ」

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