サウダージ
Hugo Kirara3500
恋しさとせつなさと寂しさとほろ苦さと
私は故郷で過ごした最終日、県庁所在地にある科学博物館で開催されていた防災展に行った。会場には津波で押し流されて破壊された自動車、看板、道路標識、駅名標、倒壊したブロック塀、遠くまで流されて漂着した漁具と言った実物資料や当時撮影された動画や写真、果ては新聞の号外に至るまで展示されていた。
展示室を進んでいくと、目の前にあったガラスケースの一つの中にアクリルケースがあって更にその中で声を掛ければ今にも目を覚ましそうな制服姿の少女が眠っていた。周りの状況を抜きにすれば疲れて少し休んでいるような感じに見えた。
「ひ、ひなちゃん!?」
私は彼女を見てその場で立ち尽くした。彼女は私の幼馴染だった。彼女の姿を見て改めてかつて故郷で起きた大地震の苦い思い出が蘇る。私の家はなんともなかったのだが、彼女の家に行くと消防隊員が決死の救護活動をしていて、その時のことがもう一生忘れることはないだろう鮮明な記憶で残っている。当時の私にはどうすることもできなかったのが悔しかった。そう思いながらケースの周りをよく見ると横に貼り出されていたプレートにこんな文が書かれていた。
「娘のひなたは○○年○○地震のときに夫と二人で家の下敷きになっていて助け出されたときはもう冷たくなっていました。まだ十四歳でした。
夫のゆうじを泣きながら村外れの墓地に埋めた後、せめて娘とはずっと一緒に過ごそうとやっとの思いで悪路を疾走して彼女をこっそり連れ出してから県庁所在地の○○市に家を構えて○○年一緒に過ごしてきました。漠然と娘が子供を持っておばあちゃんになる日が来るんだなと漠然と考えていた日々。それは過ぎ去った妄想になってしまいました。街で子育て中の若いカップルを正視できない時期もありました。
娘はもうこのガラスケースから外に出ることもできません。そんな娘にもっと思い出を作ってあげてください。どうか彼女にぜひあなたの貴重な思い出を話しかけてください。
母・まゆみ より。」
ええ、もちろん彼女の耳元で私の過ごしてきた日々のこと、身の回りの出来事を一時間くらいつぶやいたわ。どんなにこの場で一瞬でも目を覚ましてほしいと思ったことか。彼女はどう思ったのかは永遠にわかることはないけど、それが私に今できる全てだから。
彼女の母はどんな心情できれいなまま保存してずっと過ごしてきた彼女を預けたのだろうか。私には想像もできない。そして後ろ髪を引かれまくる思いで彼女のもとから立ち去った。
私は、帰りの新幹線の車内でもその時の苦い思い出と後悔に向かい合っていた。それが一通りしたら彼女と遊んだ幼い頃の日々を思い出してまた涙を流した。
サウダージ Hugo Kirara3500 @kirara3500
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