後編・END👻
一週間ぐらいして。
例の“たぁくん”のチャンネルが『大切なお知らせ』というタイトルで新しい動画をアップしていた。
別にチャンネル登録していたわけではないが、例の動画を何度かリピートした履歴からトップページに表示されたらしい。
あのうるさい声が……と思いミュートして再生してみたところ少し意外な内容だった。
“たぁくん”の都合により、暫く新しい動画を撮れないのでお休みします。心霊動画のお陰で登録してくれた人、続編お待たせしてゴメンナサイ!……というもの。字幕のみでうるさい声も入っていなかった。意外ではあったが、よくあるくだらない再生数稼ぎだなと思った。
動画が終わると関連動画にあのショート動画のサムネイルが表示される。なんとなく再生してしまう。
それが終わると今度はもう一度再生した。B子の言うようなトリック映像なら、何度か見るうちに私でも何かわかるんじゃないか、という気持ちが私の中に生まれていたから。
というか、純粋にムカついたのもある。コメント欄の見える派の人の中には見えない派をディスる人もいた。自分と意見が違う人間を何故わざわざディスるのだろう。
そのせいかは知らないが、動画のbad数も7000くらいに減っている。
「……あれ」
コメント欄を流し見していて、私はある可能性に気がついた。画面をどんどんスクロールしていく。
「ない……ない」
いくらスクロールしても、“
「削除……?」
したのか。されたのか。されるような過激なコメントは何も入っていなかったと記憶している。
した方なのだとしたら、あんなにgoodを貰ったコメントを自ら削除するなんてどんな心理状況なんだろう……。
カレンダーを確認すると、A子が私達にあの動画を見せてから二週間と少し経っていた。
“たぁくん”が所在不明でスタッフと連絡が取れなくなってからも、丁度同じくらいだそうだ。三日前にそれが公表され、巷では例の動画が「呪いのショート動画」だと騒がれている。
何故なら、見えない派の人々が次々と消えているからだ。
コメントが先週から次々に消え、コメントした人のアカウントまでもが削除されている。
リアル世界でも失踪した人が居るらしく、新たにコメント欄に「○○という名前で書き込みをしていた者の身内です。誰か知りませんか?」という本当か悪ふざけかわからない書き込みまで現れる始末。遂に公式は動画を非公開にした。
でも、あの動画を保存していたユーザーが次々と無断アップロードを繰り返していていたちごっこだ。暫くこの騒ぎは続くかもしれない。
でもそんな事はどうでもいい。問題はもっと身近にあるのだ。
B子と、昨日から連絡が取れない。
昨夜、突如として彼女のSNSのアカウントが削除されていた。慌ててメールを送ったがエラーが帰って来た。電話を何度かけても「おかけになった電話は、電波の届かないところに……」という聞きなれた女性のガイダンスしか返ってこない。
彼女も確か、見えない派としてあのショート動画にコメントをしていた筈だ。
そして私も。
見える派の一部の人間が、見えない派を馬鹿にしているのがどうにも悔しくて、反論コメントをつい書き込んでしまったのだ。
“たぁくん”が行方不明になったり、B子が音信不通なのは霊が原因なのだろうか。だとすると、動画サイトやスマホを介する電脳幽霊とでも言うべき存在だ。怪異も時代に応じて進化するものなのだろう。
そして、私は霊に関しての認識を改めないといけないのかもしれない。
ガラスに映る手形や顔を見た人が、その後呪い殺されたのならその話は広まらないから、幽霊の仕業では無い……というのが私の考えだった。
しかし、霊が捕食者で人間が被食者なのだとしたら見方は180度変わる。
ライオンだって今から獲物を捕まえようとした時に、すぐこちらに気づいて逃げ出すインパラよりも、ずっと気づかず、近づいてもその場でのんびりと草を食んでいるインパラの方を手軽に襲うだろう。
霊は姿をわざと見せ、ぎゃあと叫んで逃げる人間は放っておけばいい。そいつが「霊を見た」と話を広めてもかまわない。その間、こちらに気づかない人間にゆっくりと近づき、補食すればいいのだ。
……そう、“たぁくん”や、“甘味の苦労詐欺”や、B子や……私のように霊感のない人間達を。
こうやって文章にしていると、冷静に分析しているように見えるかもしれない。だが本当は違う。先程から私はぶるぶると震えながらノートにこれを書いていて、誤字や書き間違いや乱れた文字だらけだ。
こうしている間、いつ何時襲われるかわからない。相手は見ることも、音を聴くことも、匂いも、気配さえも感じ取れないのだ。昨日まではこの世に存在しないと思っていた相手なのに、私に何ができるだろう。
最初は何人もの知り合いにSNS経由で助けて、とメッセージを送った。暫くして、誰からか返信が来ているか、と画面を確認し……恐怖でスマホを取り落とした。
いつのまにかSNSのアプリがアンインストールされていた。
それだけじゃない。私のメールアドレスはランダムな文字に変えられていた。動画サイトのアカウントは削除されたのかパスワードを変更されたのか、ログインできない。
もう捕食者である電脳幽霊の爪は、牙は、私のすぐ後ろまで迫っているのだ。私は指の震えを抑えつけながらスマホの電源を落とし、家のWi-Fiルーターのケーブルを引っこ抜いた。
そして、ノートとシャーペンを引っ張り出してここ二週間の顛末をできるだけ書き出している。
いつまでこれを書き続けられるかわからない。しかしノートに綴った黒鉛の文字までは流石に幽霊でも消すことはできないだろう。
できる筈が―――――だ! ワ――――ノ――――――81%8――――59―――――(※注:ここから先は解読不能な文字が並んでいる。)
よくある廃墟系オカルト動画の、よくない話(※メモ) 黒星★チーコ @krbsc-k
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