よくある廃墟系オカルト動画の、よくない話(※メモ)

黒星★チーコ

前編・BAD👎️


 きっかけは大学のカフェ。

 テーブルの向こうで何気なくスマホを見ていた友達のA子が突如興奮しだした。


「なにこれヤバい! ちょっと二人とも見て! 今シェアする!!」


 彼女がその場にいた私ともう1人の友達、B子にシェアしたリンクを押すと、大手動画投稿アプリが起動した。

 今開かれている動画のタイトルは『超有名心霊スポットの廃墟に行ってみたら霊に遭遇!?』というもの。


 その再生回数は軽く10万を越え、good数も2万越え。ただしbad数も8000以上ついていたから、賛否両論って感じみたい。


「ねえ、見てよコレ!! 早く!」


 あまり興味もそそられなかったが、彼女が煩いので再生ボタンを押してB子と二人で動画を見る。始まるやいなや、画面の中のうるさい顔の男が顔以上にうるさく喋り出す。


「ねえ、なにココ!? なにココォ!? 廃墟だって!! 暗い!!」


 再生したのはショート動画だったので、最早お約束とも言える説明テロップが開始早々入る。


『↑霊感ゼロのたぁくんを、心霊スポットに連れてきた♪』


「霊がいるんだって? いるわけないじゃ~ん!! 俺そーゆーの信じない系なんだよね!」


 このうるさい顔と声の男が“たぁくん”で、この動画のチャンネル主か……。どこが面白いの? と思った瞬間。


「うおっっっ!!」


 “たぁくん”とは別の男の野太い声が響き、カメラがブレる。おそらくこの声の主はカメラマン役だ。

 するとこれもお約束なのか「うおっっっ!!」の所がリピートされる。それも何回も。

 最後のリピートはご丁寧にスローモーションで、“たぁくん”の左斜め後ろの真っ暗な空間をズームして抜き、集中線のエフェクト加工まで入っている。


「えっ!? 何ナニ!?」


 “たぁくん”が甲高い声をあげながら振り返り、先程ズームされた箇所を見る。そして。


「……何もないじゃーん!!」


 ショート動画はそれで終わりだった。


「……なにこれ」


 私はスマホから眼を上げ、B子と顔を見合わせた。B子の顔に「サッパリわからない」と描いてある。きっと私もそうなのだろう。

 カメラマンは何に驚いたのだろうか。何かにつまづいた? でもそれならリピートするほどの事じゃない。全然面白くもない。


「えっ、マジヤバでしょ! 本物の霊だよ霊!!」


 A子が唾を飛ばさんばかりに興奮して言った言葉を、私たちはにわかに信じられなかった。


「……霊?」

「そんなのいた?」

「えーっ、いたじゃん!! 画面の左上~」


 左上。するとさっき集中線のエフェクトがあったところか。私は『もう一度再生』のボタンを押して動画を見る。“たぁくん”の声がマジうざい。


「ん、コレ?」


 一瞬白いものが見えた気がするが集中線の一本かもしれない。


「違うって~ハッキリ顔が映ってるじゃん!」

「「……」」


 私とB子はもう一度顔を見合わせた。






「あれ、なんだったんだろ」


 カフェでA子と別れた後、B子がポツリと言った。あれ、とは勿論動画の事だろう。私は自分の顔が軽く苦笑いになっているのを理解しつつ、こう返す。


「私たち、A子にダマされたんじゃない?」


 見えないものを見えると言い張って、私たちを恐がらせたかったんじゃないか。A子ならやりそうな悪戯だ。


「そうかも。でもさ、ちょっとだけ気になるんだよね」

「え、何が」

「コメント見てみ」


 B子に促され、先ほどの動画のコメント欄を見る。賛否両論の理由がわかった。コメント欄も真っぷたつだ。

 good数が一番ついてるコメントは『ホントに霊だ! スゲエエエエエ』と言うもの。

 その次にgoodが多かったコメントは“甘味の苦労詐欺”という人の『嘘言うなよ。何度見ても霊なんか映ってないじゃん』という内容だった。

 最初名前を甘味かんみの……と読みかけて、天然記念物のアマミノクロウサギにかけた駄洒落だと気づく。この人は鹿児島出身だろうか。と、関係無いことに少しだけ気が逸れた。


「ねっ、見える派と見えない派に別れてるんだよ」

「確かに……コメントのリプにも反対意見がそれぞれ付いてるね」


 見える派には『え? 見えないよ?』というリプライが、逆に見えない派には『左上にハッキリ見えてるじゃん!』というリプライがぶら下がっている。


「なんだろー? サブリミナル効果とかのトリック映像とか? それか昔、スマホのブラウザバグを悪用して、ある特定のブラウザだけ文字列を表示させるイタズラとかあったよね。ちょっと気になってきた」


 B子は私と同じ見えない派だから、これは霊的なもの等ではなく何かの仕掛けだと思ったらしい。その視点から逆に興味を俄然持ち始めた。


「無理かもしれないけど、ちょっと調べてみようかな~!」


 そんな事を楽しそうに言うB子。情報学科の彼女と違い、私はそこまでする気になるほどの知識も興味もなかった。

 私には霊感というものが全く無い。だから霊の類いは信じていない。


 いや、「霊感が無い」って断言していいかは微妙だけれど。だってその人が霊感があるか無いかって客観的な基準や、数値を測る装置も無い訳だし。


 でも、小さい頃に近所にお化けが出ると有名な空き家に何人かで肝試しに行った時も。霊感があると自称する子が「ここ、寒い」と言った時も。逆に霊感がない友達が住むボロアパートに確実に「居る」と聞いて泊まりに行った時も。ぜーんぶ何も感じなかったから、私にはやっぱり霊感が無いのだと思う。


 見えない、音も聴こえない、匂いも気配も何にもない。そんなものの存在を信じろって言われても難しい。

「幽霊の正体見たり枯れ尾花」という有名な言葉の通り、霊や妖怪などの怪異は人の心が生み出すものだと私は思っている。不安があるから怪異を生み、生まれたものを見て「ああ、怪異のせいだったのか」とカテゴライズして安心したいのだ。


 だって怪異でない方が怖いじゃないか。

 夜中に窓ガラスにベタベタと手の跡がついていたら? 人の顔のようなものが見えたら?

 霊の仕業と聞けば恐ろしいと思う人もいるだろう。しかし他人から伝え聞く、そういった話のその後のパターンは怖がって終わりだ。実害は大してない。

 当たり前だ。窓ガラスの霊を見た人がその霊に呪い殺されれば、その窓ガラスの話は誰にも伝わらないのだから。

 ……しかし、窓ガラスの向こうにいるのが霊ではなくてストーカーだったらどうだろう。

 その方が何倍も怖いし、実害を受ける可能性だって高い。怪異でない方が怖いと言うのは、そういう事だ。


 まぁ、だからといって霊感のある人や霊を信じたい人と、私は真っ向から対立する気にはなれない。信じたい人は信じればいい。

 私はそういう考えの人間だった。

 だけど、後からこの時の事を考えると、今回は少し深入りしすぎたのかもしれない。




 

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