第19話『俺の後輩は隠さない』
狼華と2人、陽の傾き始めた街を歩く。
いつもは喧しい彼女が、何故か今日に限っては大人しかった。
「……………」
俺は行く先も決めずにダラダラと歩く。
そんな俺に狼華は少し不思議そうにしながらついて来る。
思えば随分と慣れたな。ずっと表情は変わっていないのに、今では何となく狼華の考えていることがわかる。
今のコイツは多分…
「…どうやったら悩みに触れずに励ませるか、とか思ってんだろうな」
「急にどうしたんですか。当たってますけど」
「生意気」
「あぅ」
狼華の額を軽く小突く。
以心伝心とはまさにこの事。だがそれを認めたくない俺がいるのもまた事実。
「…なぁ狼華」
「何ですか?」
「何でお前は俺にこだわるんだよ」
俺は一緒にいて楽しい部類の人間じゃない。
どこか一線引いて構えるせいで、誰を前にしても距離感のある男だと自分では思ってる。
そんな奴に構うなんて、よっぽどの変人だけだろう。
現に学内の知り合いと呼べる相手も、衣緒と狼華だけだ。
「そんなの私が先輩を好きだからに決まってるじゃないですか」
「その中身を聞いてんだ。俺を好きな理由って何だよ」
大方、優しいからとか、私に構ってくれるからとか、そう言うのを予想してた。
だが狼華の口から出たセリフは、俺の予想とは全く異なっていた。
「先輩だけが、私の心と向き合ってくれたからです」
「…は?」
「私がどんなことを言っても、先輩は『嘘だ』なんて言わなかったじゃないですか。初めてだったんです…私の本音を見つけてくれた人は…」
「お前…」
無表情で真顔、いつだってポーカーフェイス。
自他ともに相違ない認識だ。だけどそれを本人が気にしていないかは、また別の話だ。
「誰よりもまっすぐに受け止めてくれる先輩だから好きなんです」
「………俺が疑ったらどうすんだよ」
「信じてもらえるまで伝え続けます。これまでのように…これからも」
そうだ、コイツはこういう奴だった。
いつだって本音でマイペース。裏表なんて無い。全ての言葉が鬱陶しいほどに全力投球な奴…それが甘崎 狼華という女だ。
「…チッ…俺の負けか…」
「何がですか?」
「絆されちまったってことだ。本音全開なバカにな」
完敗だ。俺はいつの間にか、コイツと一緒に居ることに心地よさすら感じていた。
それは多分、ずっと本音でぶつかってくるコイツだからこその安心感なのだろう。
なら俺も、本音でぶつかってみるとするか
「それって…」
「一度しか言わねぇからな!……俺もお前と同じ気持ちだ」
「っ!先輩、今の!今のもう1回言ってください!」
「うるせぇ!一度しか言わねぇって言っただろ!」
「あぅ!」
照れ隠しの一撃を狼華の頭に振り下ろす。きっと俺達はこういうやり取りをずっと続けていくんだと思う。
何でもない道の中、俺と狼華の距離は以前より少しだけ近くなった。居心地の良さを受け入れて立つ狼華の隣は、いつもより素直になれる気がした…
【1000PV突破!】無表情でデレデレな後輩は俺への『好き』を隠さない マホロバ @Tenkousei-28
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