第18話『俺の後輩は見逃さない』

 狼華達と遊んだ翌日の昼過ぎ、俺は珍しく1人で大学にやって来た。

 いつもなら狼華がついて来るはずだが、今日のアイツは朝から授業があるらしい。

 一緒に行けなくて残念がるLINEが朝から鬼のように来ていた。


「ま、俺は1人の方が気楽で好きだけどな」


 いつもは絡まれているだけであって、俺の方から狼華に絡みに行くことは滅多に無い。

 そもそも俺とアイツの接点なんて、アイツが一方的に作っているだけのものだ。

 アイツから来ないのであれば、俺達の間に縁は無い。


「…………?」


 縁など、無い。

 そのはずなのに、何故か俺の胸中には妙なザワつきがあった。

 狼華はやかしいだけの後輩であって、それ以上はないはず。


「……うるせぇ」


 俺はザワつく自分の内心に文句を呟く。

 これはただの勘違いだ。時間と共に消えていくものだ。

 何度もそう言い聞かせる。

 それでも消えないザワつきを抱えたまま、俺は教室へと辿り着いた。


「やぁ仁也君、昨夜はお楽しみだったかな?」


 教室では衣緒が先に来て待っていた。

 俺は衣緒の隣に腰を下ろす。


「お楽しみも何にも日が暮れる前に帰らせたわ」

「おや、それは残念。せっかく2人きりにしてあげたというのに」

「何を期待してたのかしんが、狼華はただの後輩だ。何か起きるなんてねぇよ」

「ただの後輩、ね…君がそんな言い回しで本音を言うとは思えないけどね」

「…何が言いてぇんだよ」

「素直が1番ってことさ。それこそ君の言うのようにね」

「……………」


 何も言い返せなかった。

 これ以上は何を言っても嘘になるような気がして、口から出そうになった言葉を全て飲み込んだ。

 分かってる、今の自分が嘘をついていることくらい。

 でも今更どんな風に接すれば良いのか俺には分からないんだよ。


 結局、その日の授業を全て受け終えても、俺の内心が晴れることはなかった。

 帰ろうとして校門までやってくると、俺の悩みの種が待っていた。


「あ、先輩。お疲れ様です」

「……おう」

「何か悩み事ですか?」


 わずかに返事が遅れただけなのに、狼華は俺の様子がおかしいことに気づいていた。

 本当によく見てる奴だ。


「…少し、考え事してただけだ」


 以前の俺なら『なんでもない』と一蹴していただろう。

 だが今の俺は、何となくコイツを遠ざけたくなかった。


「それって私が聞いても良い悩みですか?」

「聞くなって言ったら詮索しないのか?」

「えぇ、先輩が嫌がるなら」

「…何でこう言う時だけ聞き分けがいいんだよ」

「だって先輩は悩みを放置するような人じゃないでしょう?そんな先輩が大人しいなんて、きっとすぐに解決できないものなんだろうなって察しますよ」


 狼華の言っていることは正しい。

 俺は問題を先延ばしにしたくは無い。悩みなんてさっさと片付けてしまいたい。

 ただこれは俺の心の問題であって、すぐに行動に移せばいいものでも無いんだ。


「話したくなったらいつでも言ってください。私の予定は24時間365日、いつだって先輩優先ですから」

「…あぁ、ありがとな」

「あぅ」


 狼華の額をポンっと優しく叩く。

 いい加減、この関係にも答えを出さないと行けないかもな…


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