第17話『俺の後輩は帰りたくない』

「おら、もう乾いたぞ」


 干していたTシャツを狼華に投げる。

 扇風機に当て続けていたおかげで、服は意外にも早く乾いた。


「ありがとうございます。じゃあこの先輩パーカーともお別れですね…」

「そうだぞさっさと返せや」

「でも…」

「なんだよ、もう服は乾いただろ?」

「この子が離したくないって」

「バカなこと言ってねぇで脱げ」

「分かりました、脱ぎます」

「ココでじゃねぇよ!!」


 その場で脱ぎ始めた狼華を慌てて静止する。

 油断も隙もねぇなコイツは…


「仕方ないですね、あっちで着替えてきます」

「最初からそうしてくれよ…」

「先輩は本当に良いんですか?こんなチャンス滅多にないですよ?」

「そんなチャンス一度だっていらねぇわ」

「そうですか…私だけ着替えシーンを見るのは何か申し訳ないですけど、先輩がそういうんじゃ仕方ないですね」

「そうだn…待て、お前が見るってどういうことだ!?俺の着替えじゃないよな!?」

「それじゃ着替えてきますね」

「無視すんなよコラァ!」


 不穏なセリフを残して、狼華は脱衣所へと入って行った。

 そういえばアイツ、俺が寝てる間に家に入ったんだよな…

 一抹の不安を感じた俺は、家の中に何か仕掛けられていないか探してみた。が、それらしいものは何も見つからなかった。


 しばらく自宅内を捜索していると、着替えを終えた狼華が戻ってきた。


「お待たせしました…何してるんですか?」

「お前が何か仕込んでねぇか探してたんだよ」

「え、先輩って家に電磁波測定器置いてるんですか?」

「そんなもんが無いと見つけられないモノ仕込んでんのか!?」

「冗談に決まってるじゃないですか。私を何だと思ってるんですか」

「通報されてないだけのストーカー」

「今なら先輩の下着を持って帰り放題ですね」

「それは変態すぎるだろ!?」


 コイツならやりかねない。

 現に今だってさっきまで着ていたパーカーを返そうとする気配すらない。

 もう完全に自分のもだと思っているかのような顔してやがる。


「そろそろ良い時間ですし…」

「お開きにするにはちょうどいいくらいだな」

「やっぱり、そうですよね…今からどこかに行くとかは」

「無いな、流石に疲れた。雨も止んだみたいだし今が帰りどきだろ」

「…………」


 狼華が不服そうに黙る。

 まるで遊び足りないと駄々をこねる子供のようだ。子供と違って表情には出ないが。


「…はぁ…また遊びに行ってやるから、今日は帰れ」

「っ!…本当ですか…!?」

「あぁ、ただし!今度は事前に誘えよな?」

「はいっ」


 次があると知って満足したのだろう。狼華はすんなりと帰って行った。

 俺も絆されたもんだな…また遊んでやろうなんて少し前なら思いもしなかったのに。

 狼華への気持ちが変化していることに、俺も薄々気付いている。ただその気持ちを受け止めのは、もう少し先にしようと思った。


 だってアイツは俺のパーカー勝手に持って帰る変態だしな…

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