第22話 思い立ったが吉日







 屋敷の前、姉弟が対峙した。


(美人さんの正体は、やっぱりテオドール様のお姉さまだったのね!)

 

 見れば、テオドール様の顔は、怒りとも悲しみともつかない複雑な表情だ。


「姉上、今まで屋敷に姿を現わさなかったというのに、どうしてなのですか」


 すると、美人が伏し目がちになる。


「ふん、自分を不幸に陥れた姉の顔なんて、貴方は見たくなかったでしょう。そんなこと、わざわざ面と向かって言われなくたって、分かっています」


「姉上、俺は……」


 美人さんはテオドール様を遮った。


「わたくしも貴方のような弟には会いたくございませんでした。ここにはたまたま立ち寄っただけです。それでは、もう会うこともないでしょう」


 そうして、美人はテオドール様の脇をすり抜けると、正門に向かって歩きはじめた。

 テオドール様はといえば、その場で立ち止まったままだ。

 私は思わずガバリと彼の腕にしがみついた。


「テオドール様、お姉さま、もう会うこともないって言ってますよ! 追いかけたりしないんですか?」


 だが、テオドール様は冴えない表情のまま、岩のように動こうとしなかった。


「俺には、姉上を追い掛ける資格がないからな」


「え?」


 何があったのかは分からないが、テオドールの表情はとても冴えないものだった。


(姉弟ケンカ中なの?)


 察するに、事件があって数年、二人は顔を合わせてないようだった。


「俺は姉上に言ってはいけない言葉を投げかけてしまった。今更詫びても、姉上は俺のことを許してはくれないだろう。だから……」


 陽の光は眩しいのに、顔色が真っ白なテオドールに向かって、私は声をかけた。


「だったら、ちゃんと謝りましょう!」


「え?」


 テオドールが呆気にとられた表情を浮かべている。


「お二人はまだ生きています。生きている間、色んなことがあると思います。酷いこと言ったりすると思います。私も大好きなお兄ちゃんを困らせたりしたこと、あります」


「アリア……」


「ちゃんと謝ったら、もしかしたら今日は許してはもらえないかもしれない。だけど、いつか絶対に取り返しがつきますから!」


 そうして、私はテオドール様の手に、美人から貰ったルーペを手渡す。


「これを」


「これは?」


 テオドールが不思議そうにルーペを眺めた。


「お姉さまから渡されたものです。それじゃあ、私はお姉さまを追いかけますから!」


「アリア!」


 そうして、門を抜けて姿を消そうとしている美人さんの背中目掛けて、私は駆けたのだった。



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